前編 あやかしバスター火焔組見参!

 冬の冷たい風が高い音を立て吹きつける。


 街の海辺に建てられた灯台に来たオレは傷を負いながらも、アイツを探し続ける。


瑠璃羽るりはぁっ! 返事しろっ」

菜摘矢なつやくんっ、僕はここだよっ! 助けて〜」


 オレってば危うく親友の瑠璃羽を見失うとこだった。

 切り立った断崖から落ちかけた瑠璃羽。岩の窪みに捕まりなんとか無事みたいで良かった。


「今、助けるから」

「うあんっ、菜摘矢く〜ん」


 オレは瑠璃羽の差し出した手をしっかり掴むため身体と両手を極限まで伸ばしぐいっんと引っ張り掬い上げる。


「うりゃあっ!」

「あーん、良かったあ。ありがとう菜摘矢くぅん」


 オレが瑠璃羽を崖から助けたらぎゅむっとコイツに抱きつかれた。

 スキンシップ多めなのは小学生の頃から変わらないキャラ。

 オレのこと慕ってくれる同い年でも弟みたいな奴。


「無事か? 桜葉さくらば沢原さわはらも」

「来んのが遅いよ羽鳥先輩」


 オレたちが振り向くとセーラー服を着て長い刀を握りしめたポニーテールの美女がいる。


「お前たちなら大丈夫だろうと。私は他の隊の者を助けてた」

「あーもー、大丈夫だったけど。あんたオレと瑠璃羽に冷たくないか」

「お前らは元々の素質の覇気力バキラの値は高いから楽勝だったはずだ。私が能力が弱い奴の援護優先なの言ってあったろうが」

「あんなスゲーでかいボス鬼だって聞いてなかったぞ」

「そうか? くくっ……冗談だろう。あんなのボスでもなんでもない雑魚級だ。持ってる力を出せるように桜葉はもっと鍛錬しろ」

「ううっ、ムカつく」

「救護班が来るから安心しろ。傷の手当てがいるな?」

「菜摘矢くんを手当てしてあげてください。僕は大丈夫です。菜摘矢くんが庇ってくれたから」

「こんな傷、なんてことねえよ」


 ホントはちっと痛むけど。


 高校生になったオレ桜葉菜摘矢さくらばなつやと親友の沢原瑠璃羽さわはらるりははとんでもない組織に無理矢理にはいらされた。


 オレたちの目の前にクールに決めて立つ羽鳥結妃はとりゆい先輩が組織のリーダーだ。


 組織は簡単に言ったら『あやかしなんかの化け物の退治屋』だ。

 そこに入ることになった。


 あれは高校に入学したばかりの頃、先輩は怨霊鬼に襲われてたオレと瑠璃羽を助けあっという間に倒してしまった。


『これで危険が回避された訳ではない。お前たちはあやかしの好きな匂いがしてる。自分の身は自分で守れるぐらいにはお前たちなら成れると思うぞ』


 オレは瑠璃羽を守りたかった。

 友達のいなかったオレに初めて出来た友達が瑠璃羽だから。


 組織の名前は〈あやかしバスター火焔組かえんぐみ〉って言うんだけど。

 で、二年の羽鳥はとり先輩が火焔組の組長リーダーってわけ。


 オレたちは人に害を成す【あやかし怨霊鬼えんりょうき】を倒すために特別な刀や術を使って戦う組織のメンバーになった。


 それで今日は依頼を受け目撃された怨霊鬼を追って街の海辺に建てられた灯台に来たオレと瑠璃羽だったが――。

 なんとかでっけえ怨霊鬼を倒したのは良いんだけど瑠璃羽が死に際の鬼の起こした爆風で飛んでったから探してた。


「羽鳥隊長! 救護班隊、到着しました」

「ご苦労」


 火焔組の救護班が三名来て後は他の怨霊鬼を退治してた特攻部隊も十人ほどが並ぶ。


「怪我を負った者は処置を受けるように。欠けた者はいないな?」

「はっ、全員無事です!」


 羽鳥先輩に報告するのは副隊長で鞍山剣斗っていう奴。

 この鞍山もオレと同じ高校の一年生だ。

 鞍山は賢そうで笑わない鉄面皮でとっつきにくい相手、オレはあまり話したことはない。

 火焔組ではエリートだ。


「よし、全員無事だな。手当てが終わったなら帰るぞ」


 羽鳥先輩の号令で素早く火焔組は解散する。


「菜摘矢くん、僕たちもおうちに帰ろう? 疲れたね〜。僕、泥とか血とかで汚れちゃったし。早くお風呂に入りたいな」

「たしかに熱いお風呂に浸かりたいな。あーあ、制服がボロボロじゃん。瑠璃羽の母ちゃんに怒られるぅ」

「桜葉は私の爺さまの屋敷に来い。うちの者に頼んで制服は修繕してやる」

「けっこう! オレも帰ります」

「帰るな」


 先輩がオレの腕を掴むとぐらっと視界が揺らぎ上下が分からなくなるような空間に連れて行かれた。


 先輩は変な術を使うんだ。


 転移した場所は何もない空間に浮かんでる畳が一枚とちゃぶ台が一つ。

 変なとこだ。

 一畳の上に立つオレと先輩。


「私からなぜ逃げようとする? 桜葉菜摘矢」

「だ・か・ら〜! 何度聞かれたってオレはあんたの事なんてちっとも覚えちゃいないんだから」

「昔、私を恐ろしい怨霊鬼えんりょうきから助けたのにか?」

「そんなのオレじゃないって。人違いだよ、先輩。オレにはボス級のすげえ怨霊鬼を倒す力なんかまだないんだから」

「いいや、あれは絶対にお前だった」

「覚えていないのはきっと小学生の頃の事だからだ。雪山の事故で色んな思い出失ったから。白状してやるよ、オレは昔の記憶は所々しかないんだ」


 オレは雪山で雪崩に遭い死にかけ家族は死んだ。父ちゃん母ちゃんと弟を失った。

 今は瑠璃羽の家に世話になっている。


「そうか。じゃあ火焔組のうちの道場の寮に入れ。桜葉と沢原の二人ともだ」

「はあっ?」

「私が鍛えてやる。ついでに失った記憶も戻す手伝いをしてやるから」

「断る。オレは思い出したいなんてこれっぽっちも思っていない」

「思い出したらお前の能力も元の様に強力になるとは思わないか?」


 この世にはあやかしってのがいて。

 一部の悪いあやかしは人を攫ってきていたぶって闇に落とし恐怖を与え遊ぶ。そうして楽しんで命を奪ったり魂を喰らったりする。


 オレや瑠璃羽や羽島先輩はそれが視える人間だ。視えない人間の方が圧倒的に多いわけだしあやかしがいるって信じてもらうのは難儀なことだが。

 悪さをするあやかしの怨霊鬼えんりょうきってのを退治する組織が『あやかしバスター』だ。

 バスターは退治する者。

 退治する対象のあやかしとは妖怪や怨霊や鬼などの人間ならざぬモノ。


 オレの所属は火焔組で他に『あやかしバスター』には水波組すいばぐみ風雷組ふうらいぐみが全国にあるらしい。


 あやかしには神や眷属や人間を襲わない友好的な妖怪も含まれるが、オレたちが相手にしているのは悪意を持って近づき人間を襲いその魂を喰らおうとするあやかし怨霊鬼えんりょうきだ。


 全国組織の『あやかしバスター』の支部火焔組の総長は羽鳥先輩のじいさんってわけ。

 火焔組道場を構えて剣術や術の特訓させる。

 一部のメンバーは寮に入って生活をしているってさ。


 この組織は実は国の裏の認可を受けているようでちゃんと給料も出るからそこはいいよな。仕事、生業なりわいになるってことだろ?

 だが思うに、秘密を知った以上は一生縛り付けられるんではとちょっと嫌な気分になる。

 自由な選択肢がなさそうで窮屈だ。

 将来の仕事とか自分の持つ夢ぐらいは自分で決めて努力して向かいたい。


 まだ夢なんかない。

 ましてや成りたい職業もないんだが。

 だからといってバスターを生業にしたらずう〜っとあやかし相手にすんだろ?

 なんか暗くてイヤだ。


 あやかしバスターは例えば外国のスパイ組織やFBIや日本の公安や古く言えば忍者隊みたいで。

 相手にしてるのが人間じゃなくて怨霊鬼っていう存在ってだけで秘密を抱えて戦うのは一緒。

 表立って動くより影で働く存在なんだろう。


 あやかしバスターは正義を掲げて戦う。


 あやかしは、そばにいる。

 視えなくても近くにいてオレたち人間に影響を及ぼすんだ。


「早く帰してくれよ先輩。瑠璃羽も待ってんだろうが」

「沢原は隊の者に家に送らせた。桜葉は私と少し話していけ」

「はあっ? なに勝手なことしてんだよ」

「まあ、座れ」


 どの道自分じゃこの変な空間からは出られねえんだ。

 オレは仕方なく先輩の眼前に座った。

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