あやかしバスター☆火焔組

天雪桃那花(あまゆきもなか)

序章 百花繚乱 あやかし火焔

 それ、は、オレにこう言うんだ。


「アイツを斬れ、斬ろよ! アイツを殺せ」――と。


 あの人、は、オレにこう言うんだ。


「私を斬れ、斬るんだ! 私を殺してくれ」――と。


「やれよ、頼む。殺せ、私を殺してくれ。お前になら私は殺されてもかまわない。否、お前に私はこの魂を捧げるから」

「いやだっ!」

「私はに殺されたいんだ。トドメを刺してくれ……頼む」


「終わりにしたい」とその人は言う。


 イヤだ、イヤだ、イヤだっ!


 オレはあんたを嫌っちゃいない。


 なんで、オレがあんたを斬らなきゃならないんだよ!


 オレの握る妖刀に宿ったヌシは囁く。


「なあ、終わりにしてやろうぜ。アイツはもう人間じゃない。バスターでもない」

「イヤだ、イヤだ。オレは斬らないっ!」

「アイツはさ、化け物になっちまったんだから諦めろよ。菜摘矢なつや、お前が退治しまつしてやらなきゃ」

「イヤだ。やめろ。オレに命令すんな」

「そうだ、躊躇うな。私もろともあやかしを殺せ、斬るんだ菜摘矢」


 火焔の妖刀はギラリと光り、ボウッと炎を纏った。


 豪火、業火、劫火――

 燃える炎はあやかしの怨力オンを灼き尽くす。


「やれ、菜摘矢っ!」


 オレは斬りたくない。

 憎くもない相手を斬れないんだ。


 だってオレは目の前の怨霊鬼えんりょうきと化したあんたを……。


 たとえ、化け物になってもあんたを、キライになんかなれないんだっ。


「その火焔で私を焼き尽くすがお前の役目――」

「先輩、そんなん酷いぜ。オレは仲間を斬る役目なんか負いたくないね」

「忘れたか? 私達はあやかし退治のスペシャリストだろうが」

「なりたくてなったんじゃないっ! あんたが勝手にこのオレをっ! 無理矢理ゴリ押し、強制的にあやかし退治に巻き込んだんだろう!?」


 この人は、……微笑った。

 ああ、この笑顔だ。

 見たかったんだ、先輩の春のぽかぽかな笑顔。


「ありがとうな。これで私とお前はさよならだ。……私はバスターになった最初はじめから覚悟は出来ている。お前も覚悟を決めてくれ」


 俺の妖刀が震えてる。

 早く斬れよと刀の宿りヌシが嘲笑う。


「俺があんたを……」

「すまない。こんな役、やりたくはないよなあ? だがな、目の前に怨霊鬼あらば斬るのが宿命――。桜葉菜摘矢さくらばなつや、あやかしバスター火焔組特攻部隊纏めがた。私の自我があるうちに、今すぐぶった斬れ! これは最後の隊長命令だ」

「イヤだ、行かないでくれ。オレを置いて遠くに行かないでくれよぉっ」

「菜摘矢、聞き分けのないことを言わないで」

「オレや仲間たちはあんたを慕ってる。殺せない、殺せるわけない」


 オレは泣きながら火焔の妖刀を握りしめた。

 息を吐き手の中の感触を確かめる。

 熱い。

 意志を持つ、妖刀――。

 刀剣の構えは上段、狙うは怨霊鬼えんりょうき

 ソレはあやかし怨霊鬼に取り込まれ始めた仲間……。


「うわあああぁ――っ!」


 オレは泣き、叫ぶ。

 そして――。


 仲間に刀を振りかざし、斬りつけた。


 百花繚乱、火焔の刀から繰り出される炎の華が花開き舞い上がる。舞い散る。


 刹那、声も音も光もオレの内から外側の世界から、――消えた。

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