ようこそ、ドロボーさん

長島芳明

ようこそ、ドロボーさん

 俺は小さいころから、ドロボーを見つけるのが得意だった。理由は分からないが、よくドロボーを見つけていた。そして警察になり、その特技を活かしてドロボー逮捕のスペシャリストとして活躍した。定年まで活躍した。



 と、ここまでならそんな自叙伝を書いてもいいが、今はその経験を活かしてドロボーをしているんだよね。定年退職したら熟年離婚し、元妻は敏腕弁護士を雇って俺の退職金をほとんど奪いやがった。




 だから今はドロボー生活をしている。元警察が今はドロボー。笑えない話だが、こっちも生活がある。長年の経験と勘で、どの家のどこの部分に金目の物があるか分かった。それに証拠を残さない方法も分かる。だって警察がどこを調べるか分かるから、そこを注意すればいいんだもん。



 さて。今日も頑張るぞ。ん? 何だ。この家の防犯体制は。豪邸なのに隙だらけだ。泥棒に入ってくれとアピールしているようなものだ。長年の警察の勘とドロボーの勘がそうささやく。



 とにかく入ってみよう。



 おお。やはり金庫はこの部屋にあったか。そして金庫を開けてお宝は……?



 何だ、この免許の数は。老若男女に玉石混合。



 たしかプロファイリングでは、連続殺人犯はコレクターとして殺した相手の何かを収集する癖があるという。



 まさか、資産家を殺してこの豪邸を建てたのか。大切な金庫にこんな物を入れるんだからそれ以外は考えられない。とにかく金目の物がないなら、さっさとオサラバしよう。



 部屋を出ようとしたら、ドアに鍵が掛かっていた。窓も鍵が掛かっていた。どちらも開かない。


 まずい。金庫を開けたらこんな防犯装置が作動するのか。窓を壊そうとしたが強化ガラスで割れない。俺のドロボー生活は万事休すか。



 足音が聞こえる。


 ん? 足音が一人だぞ。警察は犯人逮捕に二人以上で行動するのに。もしかして家人か? とにかく一人なら何とかなる。警察とドロボーで鍛えたこの脚力で何とかなるかもしれないぞ。


 そしてドアが開いた。細い体をした若い男が一人。チャンス。


「おいコラッ! 俺はドロボーだ。命が惜しかったらそこをどけっ!」


 そして若い男に跳びかかった――声が出ない。気づけば床に転がっていた。俺は男を見上げた。薄ら笑いを浮かべて、スタンガンを手に持っている。


「二ヶ月ぶりの獲物だ」

「獲物だと。まさかあの免許は」


 男は俺の言葉に答えず、注射器を取り出して俺に刺した。体からグニャリと力が抜けた。


「僕はこの世からドロボーを無くすのが使命なんだ」


 体がコンニャクのようになってしまった俺は、男に引きずられて地下室に連れて行かれた。

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