伯爵令嬢は男爵令嬢となり、やがて王妃となる

第14話 農民一揆勃発

「キャレ第ニ王子殿（でん）下（か）、ルベラロイ公（こう）爵（しゃく）閣（かっ）下（か）。

　農（のう）民（みん）一（いっ）揆（き）、勃（ぼっ）発（ぱつ）の報（しら）せあり。至（し）急（きゅう）、王（おう）城（じょう）へ登（とう）城（じょう）せよとの国王陛（へい）下（か）のお達（たっ）しにございます」

　不（ふ）穏（おん）な事をお聞きしてから三日。王（おう）城（じょう）からお戻りになられた公（こう）爵（しゃく）閣（かっ）下（か）とキャレさまに、王（おう）城（じょう）より登（とう）城（じょう）せよとの使者が参（まい）られましたの。

　農（のう）民（みん）一（いっ）揆（き）など、起こらなければ良いと思っておりましたのに……

　その願いも虚（むな）しく、一（いっ）揆（き）は起こってしまいましたわ……

　それに、使者の言葉に今一つ驚（おどろ）く事が。

「キャレ……第ニ王子殿（でん）下（か）……？」

「……！　抑（おさ）えられなかったか……」

「馬鹿者が……っ！　すぐ登（とう）城（じょう）する」

　報（しら）せを受け、公（こう）爵（しゃく）閣（かっ）下（か）とキャレさまは、慌（あわ）ただしく登（とう）城（じょう）なさいました……

　◇

「マリエッタさま、あの……」

「カナリア嬢（じょう）、まさかこんな形でキャレの素（す）性（じょう）をお知らせする事になるなんて……」

　マリエッタさまは深いため息を一つつかれ、キャレさまの事を少しお話し下さったのですわ。

「キャレは私（わたくし）と同じ母を持つ、一つ下の弟。王（おう）座（ざ）には、今は亡（な）き、先の王（おう）妃（ひ）さまの遺（のこ）された第一王子が就（つ）くべきだと申し、ずっとひっそり生きておりましたの。

　ですが、第一王子はご成長とともにご病弱になられ……。王族としての教（きょう）養（よう）を身に付ける事もままならず、王位継（けい）承（しょう）権（けん）を放（ほう）棄（き）なさるお心（つも）算（り）ですの」

　第一王子殿（でん）下（か）がご病弱とは伺（うかが）っておりましたが、まさかそこまでお体が弱いとは思ってもみませんでしたわ。

　密（ひそ）やかにお過ごしだったから、第ニ王子殿（でん）下（か）の事は、殆（ほとん）どお噂（うわさ）もなかったのですわね。

「父（ふ）王（おう）陛（へい）下（か）も、ご病弱な第一王子に跡（あと）を継（つ）がせるのは酷（こく）と判断なさったの。

　そのため、キャレを共同統（とう）治（ち）者（しゃ）に立て、次期国王となる根回しを始めましたの……

　それが、この三（み）月（つき）ほどの間の事ですわ」

　王（おう）宮（きゅう）は、そのような事になっておりましたのね……！

「キャレは、第一王子の補（ほ）佐（さ）としてお仕（つか）えする心（こころ）積（づ）もりでしたの。

　ですが、日に日に弱られる第一王子を見て……この方を心（しん）労（ろう）の絶えない王（おう）座（ざ）に就（つ）かせる事が、本当に良いのだろうかと悩（なや）んだようですわ」

　公（こう）爵（しゃく）閣（かっ）下（か）とキャレさまをお見送りした後。マリエッタさまと私（わたくし）は、宿のリビングでお茶を頂きながら、心を落ち着かせようとしておりましたの。

　その席でマリエッタさまから、こうしてキャレさまの事をお伺（うかが）いする事になりました。

　本当は、ご身分の事等はキャレさまからお伺（うかが）いするべき事なのでしょうが……

　マリエッタさまも、農（のう）民（みん）一（いっ）揆（き）勃（ぼっ）発（ぱつ）の報（しら）せに動（どう）揺（よう）なさっていらっしゃるのかもしれません。そして、何かお話しになっていらっしゃる方が、落ち着かれるのかもしれませんわね……

「……農（のう）民（みん）一（いっ）揆（き）が王（おう）宮（きゅう）へ向うようなら、王軍が出ますわね……。そうなれば、夫も、キャレも……」

　この三十年ほど、我（わ）が国は内（ない）乱（らん）も、戦（いくさ）もありませんでしたわ。ですが、戦（いくさ）となれば……

　私（わたくし）たちは本来なら、公（こう）爵（しゃく）閣（かっ）下（か）の領（りょう）へ帰る旅（たび）路（じ）に着いているはずでした。そうせず、まだ王（おう）都（と）におりますのは、移動中に万が一にでも勃（ぼっ）発（ぱつ）した農（のう）民（みん）一（いっ）揆（き）に巻き込まれない為（ため）。

　どこで起こっても、連（れん）鎖（さ）して、どこまで農（のう）民（みん）一（いっ）揆（き）が拡がるか分かりませんもの。

　そして、農（のう）民（みん）一（いっ）揆（き）が拡がれば、国軍が出ますわ。

　そこには王子殿（でん）下（か）も、公（こう）爵（しゃく）閣（かっ）下（か）も加わります。国王陛（へい）下（か）は内（ない）乱（らん）平（へい）定（てい）の為（ため）、旗（はた）頭（がしら）に王子殿（でん）下（か）を……。各貴族は武力を以（もっ）て、爵（しゃく）位（い）を頂いている事に応える為（ため）に……

　◇

　もう休む頃になっても、まだ公（こう）爵（しゃく）閣（かっ）下（か）とキャレさまはお戻りになられませんわ……

　マリエッタさまも私（わたくし）も休む気持ちになれず、リビングでまんじりともせず、お二人のお帰りをお待ちしておりましたの。

　そうして過ごし、月が真上に来た頃でしょうか……？

「あなた！　キャレ！」

　公（こう）爵（しゃく）閣（かっ）下（か）とキャレさまが、お戻りになられましたわ！

「マリエッタ、まだ寝ていなかったのか？」

「寝ていられるはず、ございませんでしょう？！」

「それもそうか……」

「あなた、キャレ。農（のう）民（みん）一（いっ）揆（き）はどうなりまして？」

「ああ、それだが……。王（おう）都（と）にも登ってきそうだ……」

「……っ！」

「農（のう）民（みん）一（いっ）揆（き）の者たちの中から、ドゥールムン男（だん）爵（しゃく）か、カナリア嬢（じょう）に会わせろという声が大きいんだ。

　ドゥールムン男（だん）爵（しゃく）が参（さん）じるには、時間が掛るだろう。それでカナリア嬢（じょう）に、ドゥールムン男（だん）爵（しゃく）が参（さん）じるまでの間」

「キャレ？！　貴（あな）方（た）まさか、ご令（れい）嬢（じょう）であるカナリア嬢（じょう）を、戦（せん）地（ち）へお連れする心（つも）算（り）なの？！」

「こちらへ降（くだ）った者から聞いた話しでは、オーケ領（りょう）の農民が、一番多く農（のう）民（みん）一（いっ）揆（き）に参加しているらしいのです。そして、ドゥールムン男（だん）爵（しゃく）、カナリア嬢（じょう）には怪（け）我（が）をさせる心（つも）算（り）はない。話しがしたい、と……」

　オーケ領（りょう）……！　我（わ）が家が手放した領（りょう）地（ち）……！　ああ、そこでは酷（ひど）い搾（さく）取（しゅ）をされているのね……？！

「キャレさま、私（わたくし）をお連れ下さいませ。我（わ）が家が不（ふ）甲（が）斐（い）なかったばかりに、一（いっ）揆（き）に参加させる程、領（りょう）民（みん）たちには辛（つら）い思いをさせたのですわ……

　話しがしたいと申しておりますなら、どうかお連れ下さいませ」

　私ははっきりと、そう、キャレさまに願いましたわ。