第10話 手当とドレス

「こちらは、『の糸ネットほう』ですわ」


「ほう、これが……」


「シュシェーナ王国は、相変わらず面白い物を作りますわね」


「ですが、非力な女性にもゆうようほうです」


 馬で一日のきょは、馬車ではそれ以上、移動に時間がかかりますわ。その移動中に、魔物にそうぐういたしましたの。


 わたくしは、の糸を参考に作られた糸でできたネットほうと、しんじゅつの剣を組み合わせ戦うのですが……


 そのほうが、とてもめずらしいようですわ。


「一ミリの糸で出来たあみを、ものぐまが千切れないとは……」


り付いて取れないのが、あのようにゆうこうなのでしょうね」


「そうですね。そのお蔭で、母子三頭が楽にとうばつできましたからね」


 が国では、魔物のくまの一種、ごうりきくまはAランクの魔物。しかも、子連れのははぐまきょうぼうけんが上がり、Sランクとなる魔物なのですわ。


「そうなのですが……」


 わたくしは、キャレさまに頭を下げるしかありませんわ。だって……


「せっかくてて下さったパンツドレスですのに……。もうにしてしまって、申し訳ありません……」


 パンツドレスは万が一があった時、逃げやすい服ですわ。しかしながら、レースやリボンといったそうしょくせいもありますの。


 それがに引っ掛かり、けてしまったのですわ……


あやまる事はない。カナリアじょうのお陰で、にんわずかで済んだのです。かんしゃこそすれ、あやまられる事はない」


「そうでしてよ? 本来、この人数でごうりきくまとうばつは無茶でしたわ。

 それがわずかなにんが出ただけで済んだのは、ひとえにカナリアじょうのお陰でしてよ」


「カナリアじょう、お気になさらず。二人の言う通りだ。

 まして、パンツドレスとはそういう物。それに、おおくりしたパンツドレス姿は見れました。何より、ごうりきくまの親子にそうぐうして、死者が出ていない。

 あなのお陰です。こちらが礼をべこそすれ、パンツドレスがけた事などあやまるような事ではない」


 確かに……。一番手強いははぐまを先ずふうじ、その後にぐまを全てふうじましたわ。それで皆様が背後から、かなり安全にとうばつが出来たと思います………


「それより……」


 キャレさまのお声がしずみ、女性のように細い指がそっとわたくしほおれ……


 おどろいて顔を上げましたら、おどろくほど悲しそうなお顔のキャレさまと目が合いましたの。


「女性のお顔に……、かすり傷とはいえ傷を負わせて……すまない……」


 馬がね上げた小石が当たり、小さなをしたのですわ。もう痛みもほとんどありません。


「キャレさま、カナリアじょうのお手当を致します」


「いや、道具を。私がするよ」


 移動式じゅうきょつうしょうキャンピングカーのじょが手当をと言って下さったのですが。え、キャレさまお手ずから手当ですって?! いえいえ、そんな事は!!


 内心、あたふたしている間に、キャレさまはじょからくすりばこを受け取られてしまいましたわ。そして、ポーション付き綿めんぼうで傷の手当てを……


 ありがたいのですが……、は、ずかしい!


 お顔が近いですっ! 今は手は当たっておりませんのに、温度が伝わって参っております……っ!


「……うん、ふさがった。びょうげんきんたいさくに、ヒール……。いやな気配もない。もう終わりましたよ」


 それどころではありませんわ……っ! 顔が……心臓が……!


「助けて頂いた上に、女性の顔にをさせてしまって申し訳ない……」


「いいえ、このくらい大した事はございませんわ。りょうないの見回りの時は、もっと大きなをする事がございましたもの」


 顔が上げられず、もごもごお返事をするのがやっとですわ。


「……そう言えば、りょうけいえいの立て直しにおいそがしい兄上殿どのに代わり、りょうさつをなさっていらしたそうですね」


「は、はい。ごうりきくまの多い森もございましたし、とらゆきおおかみせいそくもございましたわ」


「そのお蔭で、りょうけいえいの立て直しのかなめとなる物を見付けられたとは聞きおよんでおります。

 ……ですが、無茶だけはしないで欲しいものです」


 そうおっしゃると、キャレさまはそっとわたくしの手を大きな手でつつみ込んでしまわれましたの……


 おどろいて顔を上げましたら、ひどく心配気なキャレさまのお顔がこちらをのぞき込んでいらして……


「……っ…………っ!」


 無表情以外、どんな表情をなさってもお美しいキャレさま。心臓がおどろきで、ひどさわいでつらいくらいですわ。


「パンツドレスは、おうつくろいましょう。そうては時間がかかりますから……

 一先ず、お帰りの時に着るはんせいひんを。そうてのパンツドレスは、出来上がりましたらおおくり致します」


 最後に、にっこり笑われたキャレさま。

 キャレさまのお笑いになったお顔は、男性のしんではなくなりますの。血の通った、人だと思い出させますわ。


 うかつにも、れてしまいましてよ……



 その後、おうに着きましたらせんげん通り。キャレさまはおうたくさん、ドレスをおくって下さいましたの。


 こうしゃくかっこうしゃくじんからも、様々なお品をほうおっしゃって、たくさん頂いてしまいましたわ。

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