「ほう……。ため息が出る程、素晴らしい居（きょ）住（じゅう）塔（とう）城（じょう）ですわ……」

　お手紙を頂（いただ）いてから一（ひと）月（つき）。私（わたくし）は公（こう）爵（しゃく）家（け）からの迎（むか）えの馬車に揺（ゆ）られ、ルベラロイ公（こう）爵（しゃく）家（け）へと迎（むか）え入れて頂（いただ）きましたの。

　居（きょ）住（じゅう）塔（とう）城（じょう）に到着した日の内に、私（わたくし）のご主人さまとなられるルベラロイ公（こう）爵（しゃく）夫（ふ）人（じん）とはご挨（あい）拶（さつ）と、お仕（つか）えする儀（ぎ）礼（れい）も終わりましたわ。夕食前には、公（こう）爵（しゃく）閣（かっ）下（か）にもご挨（あい）拶（さつ）がさせて頂（いただ）けましたの。

　翌日の今日は、疲れているでしょうから、一日ゆっくりしていてとの事。

　有（あり）難（がた）いお言葉に甘え、お昼までゆっくりして旅の疲れを癒（い）やさせて頂（いただ）いたの。移動に、馬車で一週間以上かかりましたから。馬車の中でじっとしているだけでしたから、とても疲れていたもの。

　午後になり、今は居（きょ）住（じゅう）塔（とう）城（じょう）の広い庭（てい）園（えん）を散歩させて頂（いただ）いておりますわ。

「城（じょう）塞（さい）ではない城って、とても暮（く）らしやすいのね」

　まず驚（おどろ）いたのは、伯（はく）爵（しゃく）領（りょう）で暮（く）らしていた城（じょう）塞（さい）とも、今の領（りょう）主（しゅ）館（かん）とも違（ちが）う形状の城。

　要（よう）塞（さい）としての機（き）能（のう）は持たず、生活しやすさを重視した最新の城なのですわ。

　小さな丘（おか）全体を城（じょう）壁（へき）で囲（かこ）んだ物と、城（じょう）壁（へき）の代わりに地下に広大な避（ひ）難（なん）場所が作られた物があってよ。集（スタ）団（ン）暴（ピー）走（ド）への備（そな）えですわね。

　こちらは前者。広大な庭（にわ）の中に尖（せん）塔（とう）のない、平たい城、居（きょ）住（じゅう）塔（とう）城（じょう）が聳（そび）えていますの。

　今、多くの貴（き）族（ぞく）が好んで建てている形状の城ですわ。

　居（きょ）住（じゅう）塔（とう）城（じょう）の裏（うら）手（て）には、洗（せん）濯（たく）小屋や厩（うまや）といった建物がある一方、整えられた裏（うら）庭（にわ）と言う庭（にわ）もあってよ。

　城（じょう）塞（さい）とは全く暮（く）らし易さが違（ちが）って、驚（おどろ）きの連続ですわ。お庭（にわ）も、城（じょう）塞（さい）はこんな風に花々で彩（いろど）られておりませんもの。

　戦の備（そな）えの場ですもの。当然ですわね。

　城（じょう）塞（さい）であれば、ぐるりは城（じょう）塞（さい）で囲（かこ）まれており、庭（にわ）もその中。それが、庭（にわ）の中に居（きょ）住（じゅう）塔（とう）城（じょう）があるだけで、目が白黒する程の驚（おどろ）きでしてよ。

　まあ。見た事のない、美しい花々。部屋に飾（かざ）りたいけれど、お庭（にわ）のお花は摘（つ）んではいけないとの事でしたわね。残念ですわ。

　お仕事の事、立場の事、注意事（じ）項（こう）を簡（かん）単（たん）にお聞かせ下さった中に、お花の事もありましたもの。決まりを破（やぶ）る事はなりませんわね。

　お仕事先は、ルベラロイ公（こう）爵（しゃく）家（け）。ご主人さまは、ルベラロイ公（こう）爵（しゃく）夫（ふ）人（じん）マリエッタ・トゥアーモ・レラ＝ロワイエット・フォロモッティエさま。

　ルベラロイ領（りょう）を治める、フォロモッティエ家。爵（しゃく）位（い）は公（こう）爵（しゃく）であられるわ。

　お仕事は、マリエッタさまのお友達。マリエッタさまがお読みになった同じ本も含（ふく）め、様々な本を読んで、その本についてのお話。流（はや）行（り）の宗（しゅう）教（きょう）劇（げき）や神（しん）話（わ）劇（げき）、ファッションのお話。お茶を共に頂（いただ）く。本当に、お友達とするような事がお仕事。

　立場は上級メイドではなく、有（ゆう）給（きゅう）ではあるものの、マリエッタさまのお友達であり客人。

　客人ですから、小（こ）間（ま）使（づか）いなど、数人のメイドまで付けて下さいましたの。

　お給料は、妥（だ）当（とう）かどうか分からないのだけれど……。もうない役（やく）職（しょく）なんですもの……

　お兄様や執（しつ）事（じ）のライズの考えでは、上級メイドでもそんなに頂（いただ）いていないお給料だろう。客人としてメイドまで付けて下さるのだ、破（は）格（かく）の給金だろうとの事でしたわ。

　高給を頂（いただ）くのですもの。しっかりお仕（つか）え致しませんと。

「やあ。貴女がマリエッタの『お友達』だね？」

　いきなり話しかけられ、心臓が飛び出しそうな程、酷（ひど）く驚（おどろ）きましたわ。

　それでもお返事とご挨（あい）拶（さつ）せねばと、淑（しゅく）女（じょ）らしい気品は失わないように気を付けて振（ふ）り返り……

　初夏の午後の光を受け、艷（つや）やかな光を放っているようにも見える、淡（あわ）い色調の金髪。伝（でん）統（とう）的（てき）な、長髪を後ろで束（たば）ねた髪型が良くお似合いだわ。

　柔（やわ）らかな弧（こ）を描（えが）いた、整った黛（たい）眉（び）。男性も清（せい）潔（けつ）感（かん）を好むお国（くに）柄（がら）の為（ため）、眉（まゆ）墨（ずみ）程度は男性も使われますが……。元が整っていらっしゃるのか、女性の私（わたくし）が羨（うらや）ましくなるような美しい眉（まゆ）になっておられますわ。