伯爵令嬢は男爵令嬢となり、やがて王妃となる

第4話 緩やかな改革

　私がお祖父様やお祖母様、後に家庭教師から教育を受けている間。その間に、緩（ゆる）やかな領（りょう）地（ち）改（かい）革（かく）が行われたの。

　いちばん大きな改（かい）革（かく）は、不（ふ）定（てい）時（じ）法（ほう）の撤（てっ）廃（ぱい）かしらね。

　これは、日の出が昼間の始まり。日の入りが、夜の始まりというものよ。

　だから、季節や地域によって、昼間と夜の長さが極（きょく）端（たん）に変わるの。

　夏は、昼が十五・六時間もあるのに、冬の昼間は九時間とか八時間しかなかったりするのよ。

　これを文化の進んだ国の使う、一時間の長さが等しい定（てい）時（じ）法（ほう）に変更。

　これは、暑い夏の長時間労（ろう）働（どう）が減（へ）り、かなり好意的に、大きな反発もなく受け入れられ始めているそうよ。

　領（りょう）主（しゅ）の方も、冬の税（ぜい）収（しゅう）が増えるという利点があるわ。

　他には、様々な税（ぜい）の見直し。人（じん）頭（とう）税（ぜい）と土（と）地（ち）税（ぜい）といった、変わらない税（ぜい）もあるけれど。

　結（けっ）婚（こん）税（ぜい）、死（し）亡（ぼう）税（ぜい）、十分（ぶん）の一税（ぜい）など、撤（てっ）廃（ぱい）された税（ぜい）金（きん）に、税（ぜい）率（りつ）の下がった税（ぜい）金（きん）もあるの。

　これは、「領（りょう）民（みん）を増やして豊かになりたいんでしょ？　この税（ぜい）金（きん）のどこに、領（りょう）民（みん）を増やす気を見い出せるの？　民（たみ）は国の礎（いしずえ）。大事にしなきゃ」という、最新の考えのため。

　領（りょう）民（みん）の絶大なる支（し）持（じ）を受け、これは各国に広まっているものを取り入れたのだそう。

　この考えと領（りょう）主（しゅ）や国がぶつかり、農民による反（はん）乱（らん）が勃（ぼっ）発（ぱつ）。国や領（りょう）地（ち）によっては、一時、国や領（りょう）主（しゅ）が倒（たお）されそうになる事もしばしばあったそうなの。

　転移者からは、『ワットタイラーの乱（らん）』と言う事例が語られていたとか何とか……

　それを鼻で嗤（わら）った地の多くで、反（はん）乱（らん）が起こったそうよ。だから一時期、国外で自国の税（ぜい）制（せい）の話をする事は、固く禁じられたのですって。

　◇

「おお、随（ずい）分（ぶん）しっかり学んでいるね」

「勿（もち）論（ろん）でしてよ。苦しい中、与えて下さった学ぶ機（き）会（かい）ですもの」

　男（だん）爵（しゃく）令（れい）嬢（じょう）になって、早二年。領（りょう）地（ち）経（けい）営（えい）の失敗によって荒（あ）れていた領（りょう）地（ち）経（けい）営（えい）は軌（き）道（どう）に乗る道（みち）筋（すじ）が、やっと見えて参りましたわ。

「言葉遣いも、淑（しゅく）女（じょ）らしくなって来たね」

「あら、だって淑（しゅく）女（じょ）ですもの。淑（しゅく）女（じょ）に見合う言葉遣いも必要ですわ」

　爵（しゃく）位（い）は何であれ、貴（き）族（ぞく）に必要な事は変わりませんもの。

　語学こそ、伯（はく）爵（しゃく）令（れい）嬢（じょう）の頃のように修（おさ）めは致しませんでしたわ。男（だん）爵（しゃく）令（れい）嬢（じょう）の今、国外の貴（き）族（ぞく）と結ぶ事はないでしょうから。

　その分、芸術や音楽まで修（おさ）めましたの。

「そうか、しっかり学んでいるようで安心したよ」

　お兄様は、そこでとても優しく微（ほほ）笑（え）まれたの。

　以前のライ麦パンと野菜スープという、とても質（しっ）素（そ）な食事になった頃。お食事が合わなかったのか、とてもお痩（や）せになって顔色も宜しくなかった頃の笑顔は……。どこかご病弱にも見えたものでしたわ。

　それが、程よくふっくらなさった今は、ご令（れい）嬢（じょう）方（がた）が騒ぎそうな、健康そうな美（び）丈（じょう）夫（ぶ）におなりなのはほっと致しますわ。

「ああ、そうだ。明日、少し時間をもらえるかい？　ちょっと相談したい事があるんだ」

「朝と午後、どちらの方がご都合が宜しくって？」

「午後は出るかも知れないから、朝かな」

「朝ですわね。では、朝で宜しくって？」

「ああ、頼むよ」

　今回の様にお兄様から、時々領（りょう）地（ち）経（けい）営（えい）の相談を受ける事があるまでになりましたのよ。

　そのため、領（りょう）地（ち）経（けい）営（えい）をしているお兄様の片（かた）腕（うで）、家（か）令（れい）のサボォー。お兄様のもう片（かた）腕（うで）、執（しつ）事（じ）のライズ。この二人からの信頼も厚い、男（だん）爵（しゃく）家当主の妹として一目置かれてもおりましてよ。