第6話 繁盛していないのは休業のせいでした
店は繁華街。つまり大通り沿いにあった。
とは言ってもガンガンに大通り沿いに面しているわけではなく、少しだけ逸れているので隠れ家的な印象はあるものの、それにしては客足が少ない。
本当にここは宿なのか。俺は疑わしく思う。
「ここが私のお店です」
「ああ……はぁっ?」
俺は正直すぎた。心の底から疑問形の溜息が出てくる。
けれどクルミナは特に気にする様子もなく、店の扉の鍵を開けた。
「さあ入ってください」
「お邪魔します……うわあぁ、中は普通だ」
「1週間前までお店は営業していましたからね。宿は2階ですので、まずは荷物を置いて来てください。こちらがお部屋の鍵になります」
「どうも」
俺は鍵を受け取ると店の奥にある木製の扉を引いた。
バックヤードは言わずと知れた民家の廊下で、すぐ隣には木製の階段がある。
俺は階段を上ろうとすると、ギシギシと嫌な音を立てるので心配になった。
けれど2階までは難なく来ることができたので、渡された部屋の鍵を開け扉を引いた。
「おっ、結構綺麗な部屋だ」
部屋の中はとてもシンプルな造りだった。
シングルベッドが1つとクローゼットが1つ。そして身だしなみ用の姿見が置かれている。
後は勉強机が置いてあったが、俺は学生ではないので正直馴染みがない。
「しかも埃もない。掃除も行き届いているんだな」
クルミナのまめな働きに目を奪われた。
窓枠には埃が一切なく、指でなぞると木片が少し残るだけだ。
「まあいいか。とりあえず、包丁を作る約束は果たさないとな」
俺は鞄の中から石ころを取り出す。ずっしりと重量感がある。
光にかざすと鈍いが赤銅色をしていた。
もちろん正解は銅だ。銅製の包丁はかなり高価でよく切れる。研ぐ必要はあるが、しばらくは大丈夫だろう。
「さてと、じゃあ作りますか」
俺は殺気拾った粗悪品の包丁と銅を不思議な空間に放り込む。
俺が手をかざすと、深い暗闇が時空を引き裂いて小さな穴を出現させる。
その中に適当に放り込むと、勝手に
それが俺の魔法。名付けて
「そろそろできたな」
武器がどんな形でできるかどうかは俺にはわからない。
イメージはあくまでイメージで実物とは異なる形が多い。
イメージの原型が7割。経験値によって変化する割合が3割。そして武器ができるときは決まって……
ボンッ!
「そろそろできたな。どんな仕上がりになったか……おっ!」
暗闇が出現し、四角い箱が飛び出してきた。
床に付くとどっしりと重たい音を立てる。
天板には凹みがあり、スイッチのようになっていたので軽く押し込んでみると箱が開き、中には包丁が収められていた。
刃の部分が銅の持つ赤銅色を基調とし、原型として包丁の形を取り留めている。
近くで見れば自分の顔が反射して不気味だ。
こんなものでいいだろう。
「色合いも悪くないな。綺麗に滲みが出ている。これだけ切れ味が良ければ大抵のものは切れる。モンスターを狩るわけでもないんだ。十分だろう」
俺は包丁をケースに仕舞いこむと、1階に降りた。
するとそこにクルミナの姿がない。
何処に行ったのだろうかと捜すでもなくキョロキョロしていると、カランコロンと鈴の音の音が鳴った。
俺は一瞬で音に反応し扉を見やる。
「すみませーん。誰か……あれ?」
「あっ」
まさかクルミナがいない時に客に出くわしてしまうなんて。しかし俺はその顔に見覚えがあった。
そこにいたのは、少し背の高い可愛らしい少女だ。
腰には剣を帯刀しているが、特徴的な差し方なので一発で判断ができた。
表情はほとんど夕日に遮られていたが、俺の目はそこにいたのが高台で会った少女だとすぐに認識していたので忘れはしなかった。
あのコミュ力お化けだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます