第83話 水龍はグルメ

シーガルの拠点事務所でお茶を啜る。


「ここを管理してもらう人材が欲しい。奴隷だけで回すのは難しいだろう。」


そのまま商業ギルドに相談。

すると職員を貸してくれるという話になった。


「初めまして。レイラと申します。商業ギルドで事務を担当していました。よろしくお願いします。」


「レイラさんには経理と一般事務をお願いしたい。魚の仕入れと、ポーションと野菜の卸しがメインになると思うのでよろしくね。」


あとは管理職か。

また奴隷商に探してもらおうかな。


「ねぇ、オリビア。この国にも奴隷商ってあるの?」


「もちろん王都にあるわ。でも、質は悪いわね。基本は犯罪奴隷ばかりよ。」


犯罪奴隷は、盗賊か人に手をかけた者がほとんどだ。

主人の命令には従う奴隷でも、犯罪を犯して奴隷に落とされた者に管理を任せるのは正直怖い。

当面はソフィアとシャナに任せるしかないか。

その後、サウザンカローナ王都の拠点に従業員用の宿舎を建てた。

その宿舎とシーガルの倉庫事務所をつなぐゲートを設置すれば完了。

宿舎の部屋は、風呂トイレ付きワンルームの個室で、従業員となった奴隷が感謝するよりも呆れていた。

もちろん、衣食住保証するし、さらに賃金までもらえる。

数日後、うちの対応の良さを知ったギルド職員のレイラさんがギルドを辞めてうちに来てくれることになった。

ギルドは、給料が安いし、休みは少ない。おまけに残業はあり、嫌な客の相手も笑顔で対応しなきゃならない。

一番の決め手は、寮が王都にあるため田舎のシーガルで勤務していても休日には王都でショッピングができるからだそうだ。


サウザンカローナの拠点の整備が終わったので本題の水龍に会いに行こうと思う。

最初に作ったクルーザー型漁船に乗り込み龍神島を目指す。

島に近づくにつれて確かに海流が速くなり、荒れてきた。

漁師の話によるとこの島の近くで暖流と寒流がぶつかり合う潮目があるそうだ。

さらに島に近づくと激流となってきた。

確かにこれだけ流れが早ければ手漕ぎボートじゃ耐えられないだろう。

うちのクルーザータイプには全く影響はない。

念のために張った防御結界と浮遊魔法で海からちょっとだけ浮かせてあるので波の影響は皆無だ。


「アトム、あれ見て!」


海面に大渦が現れ船を呑み込もうとしている。

何度も言うが船は浮いてるので渦の影響もない。

すると渦の中から水色のウナギのようなものが顔を出した。


「どうして船がひっくり返らないのだ! おや? お前は先日大量に魚を獲っていった奴らだな!」


「オイオイ、水の龍よ。我の主様に向かって随分な口の利き方をしておるな。」


「そ、その声は・・・。火の龍か?」


「火龍ではない。我は炎龍じゃ!」


「何か雰囲気が変わったな。前は脳筋で力こそ全てみたいな感じだったが。」


「それはママじゃな。ところで、水の龍よ。我の主様と契約しないか?」


「はぁ? やはり火の龍は脳ミソが沸いているのか? なぜ、誇り高き龍が人の子と契約しなければならんのだ? 我よりもこやつが強いとでも言うのか?」


「ルビー、深呼吸! ところで、今の俺が勝てると思うか?」


爆発寸前のルビーを落ち着かせる。


「万全の状態の龍には人の力じゃ無理じゃ。しかし、力で勝つ必要はない。我に考えがあるから任せると良いのじゃ。」


「そう? じゃあ、任せるよ。」


「水の龍よ。おぬしには味覚があったよな?」


「もちろんあるぞ。人化の術を習得しておるからな。」


「じゃあ、旨い物を食わせてやろう。主様、カレーを2つ頼む。」


「カレーか? 腹減ったのか?」


「水龍はグルメらしいのじゃ。主様の料理で胃袋をつかんでしまうのじゃ。」


すると渦の中にいた青いウナギが水面から飛び出し巨大な龍となった。

ルビーが西洋風の龍なら今現れた龍は東洋風の龍だ。

干支の辰と言えば分かるだろうか。

それから光を放ちながら収束し、船上に人の姿となって降り立った。

ルビーのように全裸ではなく、白い着物を纏った少女となった。

その姿は神秘的で、色白の肌に水色のロングストレートの髪の小柄な美少女だった。

黒髪だったら和服が似合いそうな顔立ちだ。

巫女服も良いかも。


「あ、あの・・・、人の子。そんなに見つめないで欲しいです。恥ずかしいのです。」


あれ? 別人のように大人しくなった。

顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「相変わらずじゃな。こやつは本当は人見知りの恥ずかしがり屋なのじゃ。龍の姿の時は威厳を保つために頑張っているのだがな。」


「なるほど。では、カレーを出すのでテーブルについてください。」


ダッシュで椅子に座るルビー。

絶対、お前が食べたかっただけだろ?


「スパイシーで食欲をそそる香りね。ああ、これはたまらないわ。」


「ちょっと待って! 水龍よ。このカレーという食べ物は脳が痺れるくらい旨い。本体が目覚めないように気を付けるのじゃ。」


彼女は、昔のルビーと同じで思念体であった。

本体は龍神島の地下で寝ているらしい。


「あなたは本体よね?」


「確かに本体だが、元はお前と同じ思念体だった。じゃが、我が精神を乗っ取ったからこの身体は今は我のものじゃ。」


「へー、凄いわね。それよりも食べても良いかしら?! もう我慢の限界よ!」


人見知りで大人しいんじゃなかったのか?

カレーの匂いに興奮して我を忘れているようだ。

涎をたらし、お預けされた犬のようになっているので許可を出す。


「どうぞ。」


一口カレーを口にした水龍は立ち上がった。

すると「ゴー」っという地鳴りがし、島が揺れた。


「ちょっと、水龍! 落ち着きなさい。」


水龍が深呼吸して高ぶる気持ちを落ち着かせた。

それとともに地鳴りが止んだ。

それからゆっくりとスプーンを口に運び、味わいながら完食した。


「おいしかったわ。初めてこんな美味しいものを食べました。これはどこで手に入れたのかしら?」


「主様が作ったに決まっているだろう。主様が作る料理は何でも旨い! 昨日の寿司という生魚を使ったものも旨かったのぉ。」


「これは貴方様が作られたのですか! 寿司とはどのようなものですの?」


寿司を出したあと、他には?とせがまれサバ味噌も出した。


「どうじゃ? 主様は素晴らしいじゃろ? 主様についていくと毎日美味しいものが食べられるのだぞ?」


「わたくしと契約を交わしてくださいませ。」


胃袋をつかんだ俺は戦わずして水龍と契約を交わすことになった。

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