第82話 婚約披露パーティをするらしい
魚を大量に確保した俺はウキウキで我が家に戻った。
するとソフィアが真剣な顔で話しかけてきた。
「アトム君。ちょっと良いかしら?」
「どうしたの? 改まって。」
「2つのお知らせがあるの。1つ目は商会を立ち上げました。名前はアトム商会で、もちろん商会長はアトム君よ。実質の経営は私とシャナで行うから安心して。こっちではアトム君は英雄だし、貴族だから問題無く商売ができるのだけれども、向こうの国で商会を経由しなければ卸せないと言われたの。」
「そうなんだ。別に構わないよ。それで、2つ目は?」
「お父様が話があるそうよ。今日、時間はあるかしら?」
すぐに刺身が食いたかったのだが、王様の呼び出しにはすぐに答えないと不味いだろうな。
「わかった。これから行ってくるよ。」
「ありがとう。私も同伴します。」
ソフィアについていくと謁見の間ではなく、プライベートルームへ案内された。
「よく来たね。まあ座ってくれ。」
リビングのソファに座った。
「それでお話とは?」
「ソフィアからアトム君にプロポーズされたと聞いてね。」
あっ! 世界樹を奪還したら結婚しようと言ったかも!
「そ、そうですね。」
「ソフィアは王女だ。わかるよね? すぐに結婚とはいかないのだよ。」
「そう、でしょうね?」
「それでだ。婚約披露パーティをしようと思う。」
「えっ!」
「婚約披露宴には国内全域の貴族を呼ぶ予定だ。アトム君を知らしめるためにな。そこで侯爵になってもらう。世界を救ったのだから当然だろ? それにそこまで爵位を上げないとソフィアを嫁に出すわけにはいかないのだ。」
「了解しました。それでいつごろ行うのですか?」
「1カ月後だ。結婚式は早くて半年後と考えてくれ。隣国に招待状を送る期間が必要だ。」
「わかりました。」
「これでやっと悩みが一つ減る。ソフィアへの縁談の申し込みを断るのが大変だったのだよ。サリーは国内最大戦力だから外には出せない。サンドラはあれだしな。それで、急速に発展している我が国と縁談を結びたい近隣の皇族や貴族がソフィアに殺到したというわけだ。」
「なるほど。」
王妃様とソフィアは良かったわねと抱き合って喜んでいた。
それにしても腹減ったな。
「王様は、魚は好きですか? 生魚は平気ですか?」
「ん? 魚は食べたことあるが、泥臭かった思い出しかないな。」
「それは川魚ですね。海の魚を仕入れてきたのですが、食べてみます?」
「アトム君が薦めてくるということは、うまいんだろ?」
「新鮮ですし、間違いなく旨いです。まだ食べてないので予想ですが。」
収納から握り寿司を出した。
マグロにタイ、ブリにヒラメ、イカにタコ、イワシにアジ、シメサバに煮アナゴ、タマゴ、ボタンエビ? ズワイガニ?
俺の好きなものばかり並んだセットだった。
巻き網で海底を引きずったときにエビやカニも獲れたらしい。
「旨い! これが魚なのだな!」
「それはタコですね。」
「そうなのか? タコがどんな生き物なのか知らないが魚ではないのだな。しかし、どれも旨いな。鼻に抜ける酸味とつんとする辛みのバランスも良い。」
王様の口にも合ったらしい。
酢もワサビも抵抗が無いようだ。
「他にも魚料理はいろいろあるのですよ。」
「そうか。では、婚約披露パーティは魚料理をメインにしよう。この国の貴族は、私を含め魚を食べたことが無いから驚くだろうから驚くぞ。」
王妃様もソフィアも気に入ってくれたようだ。
出来れば貝やウニ、イクラも欲しいところだな。
それに海苔も欲しい。
『それなら東の港町マリーネに行けば解決です。』
よし、マリーネに向かおうか。
『待ってください。水龍を忘れてませんか?』
そうだった。
龍神島へ行かなきゃ。
「では、料理の方は任せてください。私は水龍を仲間に加えなければならないのでもう一度シーガルに行ってきます。」
「アトム君。そう言えば、数日前に奴隷商が訪ねて来ましたよ。」
欠損奴隷を仕入れたのかな?
サウザンカローナの王都拠点とシーガルに人員が必要だったから丁度良い。
「お待ちしておりました、アトム様。」
「久しぶりだね。それで僕に何か用かい?」
「国中から欠損奴隷を集めました。アトム様に救って頂きたく、よろしくお願いします。」
「そうなの? 取り寄せるのも大変じゃないのか?」
「私は、奴隷商として全ての奴隷たちが良い主人に巡り合い、幸せになって欲しいと思ってます。理由はいろいろあるでしょうが、奴隷になりたくてなった者などいないと思うのです。それに奴隷落ちした時点で絶望しているでしょう。だから、手助けしてあげたいのです。」
「わかった。それで今回は何名?」
「20名です。」
「何も言わずに受け取ってくれ。これからも頑張って欲しい。」
値段を聞かずに白金貨を渡した。
この店主の話に感動したし、管理費も相当かかっているはずだからだ。
こういう人のことは応援してあげたい。
「ありがとうございます。奴隷たちのために使わせていただきます。」
「ああ、そうしてくれ。あと、欠損奴隷だけでなく、幼くして両親を失って奴隷になってしまった子供も居たら頼む。」
「了解しました。」
奴隷の欠損を治した後、サウザンカローナの王都に10名、シーガルに10名を配属した。
今回の奴隷は男が多かった。
2か所の拠点は、倉庫の荷運びが多いので丁度良かった。
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