第78話 いざ、港町へ

「アトム様、王都の南にも港町があるそうです。名前はシーガル。気の良い男爵様が治めている町だそうです。」


「そうなのか。ありがとう、カリン。ところで、世界樹の南にある港町とどっちが大きいの?」


「シーガルの方が大きいですし、漁獲量も上です。それに沖の方まで魔物が現れないので沖で漁ができ、大きな魚をあがるそうです。」


「おお、マグロかな? マグロだといいな。」


日本人はマグロが好きだよね。

個人的にはツナマヨも食べたい。


「じゃあ、世界樹の南の町は?」


「マリーネですね。そちらは魔物が多くあまり沖には出られないそうですが、岸に近いところで貝や海藻などが豊富に獲れるそうです。ウニやアワビ、サザエとかいうものも良く獲れるそうですが。」


「おお、高級食材!」


「アトム様は知っていらっしゃるのですね。さすがです。」


前世の知識ですとは言えないので笑って誤魔化す。


「じゃあ、近い方のシーガルから行ってみよう。その前に王様と商業ギルドのギルマスに紹介状を書いてもらおうかな。」


するとサリー様から念話が入った。


『交渉はうまくいったぞ。ポーションや野菜などのアトム君が絡んだ輸入品への関税はゼロになった。』


この世界にも関税があるとは考えていなかったよ。

優遇してもらえるのは有難いことだ。

それに税金で値段が上がってしまい、折角のポーションが庶民の手に届かないものになってしまっては元も子もない。

ここ(別荘)まで王様と王女様を歩いて来させるわけにもいかないので、馬車で王城へ迎えに行った。


「アトム君、悪いな。」


「いいえ。新しい別荘をこの町に作ったのでそちらに向かいますので乗ってください。」


馬車に乗った王様が溜め息交じりに呟いた。


「はぁー。やらかしてるな。この馬車に他国の者を乗せるのは禁止だ。」


「そうですか・・・。」


俺は快適にしているだけで悪いことをしているつもりは無いのだが。

別荘に着いたらまた溜め息だ。


「アトム君には自重というものは無いのか? 他国にこんな豪邸を1日で建てたら騒ぎになるとは思わんのか? 自国であれば儂がもみ消すこともできるが、ここでは無理だぞ。」


「じゃあ、あとでこちらの王様にお願いしておくとしましょう。いろいろとこの国には貸しがありますし。」


「そうだな・・・。ほどぼどにな。」


脅迫なんてしないからね!?

それからソフィアが王様にこの別荘の使い道を説明した。


「それは王城を使えば良いのではないか?」


「僕は伯爵ですから王城を使うわけにはいきませんよ。」


「別に儂はいつでも公爵に昇格させても良いのだぞ。その代わりソフィアとの婚約を正式に発表させてもらうがな。」


「私は婚約じゃなく結婚でも良いのですよ?」


「いきなりの結婚発表は国民が慌てるから婚約にしてくれ。それでどうするのだ? アトム君。」


「伯爵のままで結構です。」


「いくじなし。」


え? ソフィア、今なんて?


「話は変わりますが、僕たちは明日、南の町に向かいます。港で魚を仕入れることができるようにしてきますね。これからハワード国でも魚が食べれるようになりますよ。」


「随分気合が入っているようだが、儂は昔に干した魚を食べたことがあるがそれ程のものではなかったぞ。」


「それはおいしい魚を知らないからです!」


「ハリス領でも魚は手に入らんだろ?」


「そんな気がするのです!」


危ない。墓穴を掘るところだった。

最近、王様にも緊張しなくなってしまって油断した。


翌日、王様に別荘のことを報告し呆れられてしまったが了承してもらった。

しっかりシーガル領主様宛の紹介状ももらった。

その足で商業ギルドに向かい、シーガル支店のギルマスへの紹介状をもらった。

王都を経由してほしいとごねたが、王都に着くころには鮮度が落ちてしまうので断った。

どうやってハワードに鮮度を保って運ぶのか聞きたがっていたが、そのバッグがあれば可能だろ?と言ったら納得してくれた。

実際にはマジックバッグに入れて運ぶのではなく、ゲートで繋ぐのだが。

王様に口止めされているので言えない。

これでシーガルとの直取引も可能となった。


「ルビーに乗って行ったら驚かれてしまうから馬車で向かおうか。ところで、どれぐらいかかるか分かるかい?」


「馬車で3日だそうです。」


「そうか。じゃあ、ゆっくり向かおうか。」


南門へ向かうと兵士に止められた。


「このまま門を出たら森の中で野営することになるぞ。最近は魔物がいないとはいえ、野盗はいるから危険だぞ。」


「ありがとうございます。この馬車は最新型なので暗くなる前に森を抜けてしまうから大丈夫です。それでは行きますね。ご苦労様です。」


魔物が世界樹に呼び寄せられたおかげで魔物の数は激減しているらしい。

それでもゼロではないので護衛は必要だという。

護衛もいない豪華な馬車が門を出ようとしたので兵士さんが心配してくれたようだ。

この国は良い人が多いようだ。教皇たちを除いて。


その後、ルビーの気配を恐れて魔物は現れず、野盗どもはカリンに瞬殺されて順調な旅が続いた。

3日目のお昼ごろ、潮の香りするシーガルへ辿り着いた。


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