第79話 領主シーガル様にご挨拶

「海が見えてきたよ!」


小高い丘を越えると潮の香りとともに海が見えてきた。

眼下に広がる赤い屋根の町並みと海の青のコントラストがとてもきれいだ。


「キラキラして綺麗ね。これが海なのね。」


「主様、かすかに龍の気配を感じるのじゃ。徐々に気配が強くなっているのじゃ。」


「ルビー以外の龍がどこかで眠っているってことかい? 場所はわかるの?」


「まだ気配が弱くて分からんのじゃ。ただ確実に龍がいるのじゃ!」


「それじゃ、領主様にこの地に残る龍伝説がないか聞いてみよう。」


運が良いのか、運命に引き寄せられているのか。

いきなり当たりを引いたらしい。

神の使命である龍を仲間にする目的の1つが叶いそうだ。


「まずは領主様にご挨拶だな。カリン、領主邸に向かってくれ。」


「了解です。」


町の門まで来てみたが、門番はいないようだ。

そのまま町に入り、ひと際目立つ大きな屋敷を目指した。


「すいません。ここは領主様のお屋敷でしょうか?」


屋敷の門に立っていた執事っぽい人に声を掛けてみた。


「はい。領主シーガル様のお屋敷です。何か御用でしょうか?」


「領主様にご挨拶をと思いまして。こちらは王様からの紹介状です。」


「あ、貴方様が勇者様ですか?! 少々お待ちください。すぐに伝えて参ります。」


どうやら王様が先触れを出してくれていたらしく、すぐに応接室に通してもらえた。

俺の中での王様の評価はウナギ登りだ。


「よく来てくださった。この町で領主をやっているタイタン・シーガルですだ。」


「私はアトム・ハリスと申します。よろしくお願いします。」


「王様の手紙では魚の取引をしたいとのことだったが、それで合っているかな?」


「はい。こちらからは野菜を提供したいと考えてます。」


「おお、それは助かる。潮風の影響で野菜の育ちが悪いので年中野菜不足でのう。」


「直接取引をお願いしたいのですが、王様と商業ギルドの許可は得ています。」


「魚を売るのは問題ないのだが、輸送は大丈夫なのかい?」


年に1度の王様の誕生日パーティのために大掛かりの輸送作戦が行われるそうだ。

王城より氷魔法が使える宮廷魔術師の氷姫サザナミが派遣され、三日三晩不眠で氷を保ち王城まで運ぶそうな。


「問題ありません。取引を行う拠点が欲しいので土地が余っていたら貸していただけませんか?」


「商業ギルドの近くが良いだろうな。数か月前に宿屋だった建物が残っているがそこを使ってはどうかな?」


「建て替えてもよろしいですか?」


「問題ない。」


「ありがとうございます。それとこの町には龍伝説が残っていませんか?」


「ん? あるが、何故そのことを知っておるのだ?」


「勘です。それでどのような伝説ですか?」


「沖にある無人島に龍神様が祀られているらしい。昔、海中にあったダンジョンが崩壊し、魔物が溢れてしまった。しかし、人の力では海中のダンジョンを攻略することはできなかった。そこにヘビのよう長く青い龍が現れ、全ての魔物を駆除し、ダンジョンを封印したとされている。その龍が眠っているらしい。その龍神様の恩恵で周辺の海には魔物が寄り着かず、この町周辺にも昔から魔物がいないのだ。」


「それで町の門には門兵がいなかったのですね。」


「いや。普段はいるが、今日は町の者全員で漁に出ておるのだ。」


大丈夫なのか?


「話を戻すが、その龍神様が祀られている島の周りは潮の流れが早く、船で近づこうとすると船がひっくり返ってしまうのだよ。」


『海龍かな?』


『違う、水龍じゃ。属性龍は我を含めて四龍。炎龍、水龍、風龍、土龍。四龍以外は野良の龍じゃ。これ程の範囲で魔物を寄せ付けないのは四龍以外はありえないのじゃ。』


『ちょっと待て。ハワード王都にはルビーのママが居たのに魔物がたくさん居たよね?』


『うちのママは、マグマのお布団の中で爆睡していたから覇気すら出ていなったというわけじゃ。それ程間抜けなママだからこそ簡単に意識を乗っ取れたということじゃな。』


ママ炎龍がポンコツ過ぎる。


『でも、俺達だけで水龍に勝てるかな?』


『別に武力で勝たなくても良いのじゃ。負けを認めれば龍族は潔く従うのじゃよ。我に名案があるから任せるのじゃ。』


『じゃあ、水龍に会いに無人島に向かうとするか。その前に魚がみたいな。』


入口の方が騒がしくなってきた。


「領主様! 準備ができただ!」


「おお、そうか。では、アトム殿。魚市場に案内するぞ。」


海岸へ向かうと町の人たちが市場に集まっていた。

そこにずらりと並べられた魚たち。


「今日の一番の大物は、おらが釣り上げただ。見てくれ!」


「おお! 素晴らしいじゃないか。何と立派なマグロだ。」


「いんや。こいつはツナだ。ビックツナだ。マグロ?じゃないぞ。」


俺の翻訳スキルが微妙にバグった?

もうマグロもツナも一緒だろうが。

2m以上立派な本マグロ(ビックツナ)だった。

その横にはカツオが並んでた。


「カツオ?」


「いや。ツナだ。ただのツナだ。」


もう何でもいいよ。

俺はマグロ、カツオって呼ぶから!


その隣には立派な鯛やブリもいる。

イワシやアジ、サバなどの一般魚もいるね。

混乱するから名前はあえて聞かないけどね。

しかし、この人数で漁に出たにしては漁獲量が少ないような。

100人以上はいるぞ?


「ちなみにどうやって漁をしているのですか?」


「船で沖に出て釣ってきたんだ。」


「この小さいのも(イワシ)?」


「そうだ。俺たちは一本釣りしかしねえ。」


「網は使わないの?」


「網って何だ?」


そのレベルか・・・。

供給量が足りない。


「漁船を作るかな。龍神の祠がある島にも行かなきゃならないし。」


港に停まっていた船は手漕ぎボートレベルだった。

沖からよく帰ってこれたなと感心してしまう。

あんなデカいマグロがかかったら船ごと引きずられてしまうのでは?

領主様に聞いてみたら偶に帰ってこない人がいるらしい。

魚の種類はなかなか良い。

型も良いし、おそらく味も良いだろう。


刺身と海鮮丼にしたい!

寿司も良いな。

煮魚も捨てがたい。

とりあえずは塩焼きかな。


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