第75話 サウザンカローナ王と教皇
「久しぶりだな、サリー王女、ソフィア王女。それで何の用かね? できれば事前に連絡を頂きたかったのだが。」
「急用なので許して頂きたい。ところで、サウザンカローナの世界樹のことを詳しく説明してほしい。」
「その件か。ハワード国にはギルドを通じて報告したはずだが。そちらから勇者を派遣してくれるとの話だったが、いつになるのだ? 魔物がどんどん集まって拡大しているから早めに対処いただきたいのだが。」
「ほう。では、そちらは何もせずに見ているだけなのか?」
「わが国にはあの魔物を退けるだけの戦力が無いのでな。それでそちらにお願いしたわけだ。」
『他国の最強戦力を借りて倒してくれればラッキー、共倒れになって戦力が低下すれば攻め込む隙ができると考えていたようです。』
なるほどね。ありがとう、渚さん。
「王様、急に呼び出さないでくれ。私も忙しいのだ。」
そこにブクブクに太った教皇が現れた。
「おや、オリビアではないか。お前の役目である他国の勇者は誑し込めたのか? お飾り聖女のお前にはそれぐらいの価値しかないだろ。」
「・・・。」
オリビアが俺の陰に隠れ怯えた表情をした。
やはりオリビアはあまり良い待遇を受けていなかったようだ。
「ゴホン。」 サリー様がイラっとして咳払いをした。
「王様、こちらのお嬢様はどなたか?」
「おい! ハワード国の王女だ。無礼を働くな。」
「これはこれは王女様。わたくしは教皇のザビエールでございます。お見知りおきを。」
「私は第1王女サリーだ。そして、妹のソフィアだ。」
サリー様は教皇の態度にかなりご立腹だ。
教皇は、神に仕える者として王族からも一目置かれている立場なのだ。
そのため、王族と同等またはそれ以上と勘違いをしている。
「話を戻すが、我が国の勇者様が世界樹から魔物を退けた暁には報酬が用意してあるのだろうな? そこを決めずに大切な勇者様を派遣するわけにはいかんだろ?」
「勇者が悪を退けるのは当然であろう。報酬を求めるのはおかしくないか?」
「では、勇者様の派遣は無しということで良いな。話は終わりだ。帰るぞ。」
「それは困る。わかった! 何が望みだ? 可能な限り答えるとするから勇者様を向かわせてくれ。」
「アトム君、どうする? 何が良い?」
「そうですね。ポーションの輸入解禁とオリビアをこちらに頂こうか。」
「それはダメだ! ポーションが大量に入ってきたら教会での治療代が暴落するだろう。それにオリビアは儂の奴隷だ。儂が買ったのだから俺のものだ。勝手に報酬にするな。それに何でその男が決めるのだ!」
「ああ、挨拶が遅くなりました。噂の他国の勇者とは僕のことです。まあ、勇者ではないのですがね。それにオリビアは奴隷ではないだろ?」
「聖女が奴隷では信仰が薄れるだろうが。だから奴隷紋を刻まなかったのだ。オリビアは信者を集めるエサだからな。ワハハ。」
イラっとした。とことんクズだ。
「それにちゃんと勇者を取り込んだようだな。良くやったぞ、オリビア。痛っ!」
オリビアに触れようとしたザビエールはオリビアが張った防御結界に阻まれた。
「これは結界か? まさかヒールしか使えなかったオリビアが結界を張れるようになったというのか? これは素晴らしい! さらに信者を集められるぞ。」
「教皇様、私はもう神殿に戻るつもりはありません。アトム様の側に仕えます。」
「何を言っているのだ! そんなこと許さん!」
するとオリビアが光り出した。
神降臨の前兆だ。
こちらの全員で神の降臨を盛り上げるために跪きオリビアに頭を垂れた。
「何事だ?」
教皇の横暴があまりにもひどく、呆れて空気になっていた王様もただならぬ気配に焦り出した。
「神の降臨です。何をしているのですか! 早く跪きなさい!」
そして、神が憑依したオリビアが顔を上げ話し出した。
『われは神なり。我が息子アトム、我が娘オリビアに対する非礼の数々、許しがたい。教皇ザビエールよ。汝は教皇という立場を利用し、私利私欲を肥やし、民をたぶらかした。神に仕える者としてあるまじき行為。よって、天罰を下す。』
「神だと? 何の冗談だ? オリビア! 儂に逆らうつもりか!」
怒り心頭のザビエールがオリビア(神)を怒鳴りつけた。
するとザビエールの身体が徐々に縮み肌がぬめっとしてきた。
「は? なんだこれは? ヒィィ。止めてくれ。悔い改めるから許してくれ。頼む!」
さらに口が裂け、目がギョロっとし、手と足に水掻きができ、ガマガエルとなった。
そして、カエルになった教皇は窓から跳ねて逃げていった。
馬車にひき殺されないように祈っているよ。
『残りの生涯をカエルとして生き、反省するのだ。ところで人の王よ。お前もカエルになるか?』
「ヒィィ。申し訳ございません。わたくしはザビエールに騙されておりました。今後は反省し、民のために一生を捧げるつもりです!」
『では、天から見ているとしよう。もし、また悪事を行った時にはわかっているな?』
「はい!」
『アトムよ。この度の世界樹奪還は大儀であった。そこでお前には、スキルを
「ありがとうございます。」
『それと次の使命だ。この世界に点在する炎龍以外の龍を探し仲間にするのだ。そして、邪神の復活に備えるのだ。では、またな』
神が天に戻っていった。
「あのー。今、世界樹を奪還したと聞こえたのだが。」
「はい。こちらに来る前に世界樹を奪還してきました。先程の約束は守っていただけますか?」
「ポーションとオリビアのことだな。本当に奪還しているのなら叶えてやらんでもない。」
「では、証拠の品をお見せしましょう。」
俺は死神の大鎌を出した。
「これは世界樹の下にいた四天王のリーダーであるデュラハンのスペードが装備していた大鎌です。呪われてしまうので絶対に触らないでくださいね。」
「これ程の瘴気と威圧は確かに死神の大鎌なのだろうな。」
「差し上げますか? 私には不要なものなので。」
「こちらもどう扱って良いのかわからん。」
仕方ないので大鎌を展示するためのショーケースを作製してあげた。
もちろん、瘴気は漏れないように頑丈に封印してある。
これだけでは面白くないので、さらにショーケースの下部に引き出しを作った。
ここからは錬金術と新たに得た創造と付与の応用だ。
箱の底で鎌から出た瘴気を吸収し、魔素へ変換。
変換した魔素は、使い切った空っぽの魔石に充填する仕組みを作った。
「これならどうですか? 大鎌の展示ケースを兼ねた使い切った魔石を再生する装置にしました。」
「なんだと! 本当か? 空っぽになった魔石を持ってきなさい。」
王様が近くに居た兵士に指示し魔石を持ってこさせた。
なかなか大きな魔石だ。
おそらくAランクの魔石だろう。しかし、魔素が抜け透明になっている。
その魔石を受け取り、引き出しにセットした。
数分後、引き出しが光り終了の合図。
引き出しを開けると先程まで魔力を失い透明になっていた魔石が真っ黒になり魔力が溢れていた。
「アトム君! これはアーティファクト級のアイテムだぞ。ポンッと作って良い代物じゃないって理解しているか?」
「そうですか? 溢れている瘴気がもったいないなと思って作っただけなのですが。」
「これを戴いてもよろしいのでしょうか、勇者様。」
急によそよそしくなったぞ。
それに俺は勇者ではない。
「さっき上げるって言っちゃったし構いませんよ。それよりわかっていますよね。ポーションとオリビアのこと。ついでに拠点も欲しいので王都に土地を下さい。」
「了解した。」
「あと、再生中に魔石の耐久力次第で砕けてしまうとことがあると思いますが寿命だと思って諦めてください。」
「魔石を永久に再生できるわけではないと言うことだな。理解した。」
再生した魔石を見て喜んでいる。
「我が国は勇者殿と良い関係でいたいと思う。それにハワード国とも良い関係を築きたいと思っている。サリー王女よ。我が国と友好条約を結んでいただきたいとお父上に伝えて欲しい。」
「ああ、わかった。確認するので明日まで待ってくれ。」
「明日? サリー王女には連絡手段があるのか?」
「秘密だ。明日の午前中に時間を作って欲しい。」
「すまない。詳細を聞くのはマナー違反だな。明日の午前中は空けておこう。」
「商業ギルドへの紹介状もお願いしますわ。アトム君、私は商業ギルドとポーションの数量や価格の交渉をするので別行動いたします。」
「わかった。そっちはソフィアに任せるよ。王様、土地の方もよろしくお願いします。」
「冒険者ギルドの裏に以前兵士の宿舎に使っていた場所がある。今は使っていないから好きにすると良い。」
それじゃ話も済んだし帰るとするか。
「食事と部屋の準備をすぐにするから待ってもらえるか。」
「お構いなく。明日の朝、また来るので。」
「そうなのか? では、また明日。」
王城を出て自宅へ転移した。
それからサリー様の説教が始まった。
魔石再生機はダメだったらしい。
先に言って欲しいものだ。
これでポーションが普及し、サウザンカローナの民の死亡率が下がるだろう。
過剰在庫になっている我が家のポーションの在庫も減り資金も増える。
WIN-WINだ。
さっきからソフィアが大人しくなったと思ったらお金の計算をしているようだ。
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