第74話 ママ炎龍現る

翌朝、王様がやってきた。

自国の王様に報告する前に他国の王様に会いに行くのは違うよね。


「お疲れ様。良く無事に戻ってくれた。」


「はい。魔族四天王を倒し、世界樹を奪還しました。」


でもさ、普通は謁見の間でするよね?

朝飯の味噌汁啜りながらはどうかと思うよ?


「これからサウザンカローナに行くのか?」


「そうですね。オリビアのこともあるし、向こうの国で大暴れしておいて黙っているわけにもいかないでしょうし。」


「そうだな。王としては何か褒美をあたえておかないと格好つかないしな。」


「そういうものですか。」


「そうだ。サリーとソフィアを連れて行って良いぞ。お前を取り込もうとするに決まっておる。さすがに我が娘が一緒では何もできないだろうからな。」


「わかりました。そうさせていただきます。」


「主様、我はカレーとやらが食いたいのじゃ。おはよう、人の王よ。」


「わかったから座って大人しくしとけ。」


「このお嬢さんはどなたかな? また誑し込んだのか?」


「またって! 違いますよ。炎龍のルビーですよ。人に化けることができるようになったのです。それに今回の戦いはルビーが居たからこそ成功したと言えます。」


「もっと褒めて良いぞ?」 朝からルビーはご機嫌だ。


「ここだけの話ですが、あの火山の火口には本当に炎龍が眠っているそうですよ。」


「そうなのか?! 伝説では無かったのか。急に出てきて暴れることはないだろうか。」


「今は休眠期で寝ているから問題無い。だが、無理やり起こしたら寝起きが悪い奴のことじゃ。大暴れしてこの街が消し飛ぶかもしれんぞ。」


「脅かさないでくれ。」


嫌なフラグが立った。


「ところで主様、カレーはまだなのか?」


「わかったから、待ってなさい。準備するから。」


「儂も少し食べたいのぉ。」


「王様もですか。さっき朝ご飯食べたじゃないですか。」


「別腹だ。」


2人にカレーを出した。


「やっぱりカレーは最高だな。」


無言で食べているルビーが怖いのだが。

一気に平らげて一言。


「旨すぎる! 脳が震える! 主様、これはやばいぞ!」


「グガオオオオオオオオオ!!」


腹に響く重低音の咆哮が響いた。

急いで庭に出ると火山の山頂に巨大な龍が居た。


「あれって、本体の炎龍か?」


「そうじゃな、本体だ。カレーの刺激で起きてしまったようじゃ。」


真っ直ぐこちらに飛んでくるのだが。

流石に本体は無理です!


「ルビー、どうしたら良いんだ?」


「どうにもならん。あやつの機嫌次第でこの街の運命が決まるのじゃ。」


王様が崩れ落ちた。

終わったと呟き、遠い目をしている。


「これは迎い入れた方が良いよね? 結界で弾いたら怒るよね?」


「そうじゃな。覚悟を決めよ、主様。」


家の結界を解き、炎龍の到着を待った。

炎龍は1分程で我が家の上空に着き、ゆっくりと庭へ降りてきた。

庭が広くて良かった。

全長数十メートルはありそうだ。

威圧感が凄い。


「やあ、ママ。おはようなのじゃ。」


「お前など産んだ覚えは無い!」


こわ! 声低いし、でかいし。

恐怖で足が震えているのだが。


「少年よ。儂にもそのカレーとやらを食わせろ!」


「え? カレーですか?」


「そうじゃ、そこの娘に食わせたやつだ。儂にも寄越すのだ。」


「ママには味覚は無いでしょ? 味分からないでしょ。」


「確かにそうだな・・・。」


シュンとしてしまった。


「仕方ないから同化してあげるのじゃ。それなら味覚が得られるかもしれないのじゃ。」


「ちょっと待った! ルビーが居なくなっちゃうのか?」


「主様、楽しかったのじゃ。我は元々思念体。本体に戻るのは運命なのじゃ。今までありがとうなのじゃ。」


ルビーが子龍の姿に戻り、ゆっくりと本体の顔の前まで浮上した。


「お前は我の思念体だったのか。では、我にお前の経験と知識を寄越すのじゃ!」


すると本体がルビーをパクリと食べてしまった。


「ルビー!!!」


俺はルビーを失い泣き崩れた。

すると目の前にいた炎龍の身体が徐々に縮んで人化した。


「主様、なぜ泣いているのじゃ?」


「え? ルビーなのか?」


「そうじゃが? 本体と融合して意識を乗っ取ってやったのじゃ。我は完全体となったのじゃ! そもそも野良の炎龍と神から恩恵を頂いた我とじゃ格が違うのじゃよ。」


「王都は救われたということか?」


「そうじゃな。我は暴れるつもりはないのじゃ。良し、もう一杯カレーを食べるのじゃ!」


「良かった・・・。」


今度は王様が泣き崩れた。


もうこの恐怖は勘弁してほしいのでデュラハンの魔石を使って家の結界をさらに強化し、他の龍に襲われてもビクともしないようにした。


「主様、見てくれ。本体と同化したら魔力が爆発的に上がって人とドラゴンの中間のドラゴニュート竜人にもなることもできるようになったのじゃ。」


お尻から太いドラゴンの尻尾がはえ、頭には角があった。

それでもルビーの美人度は揺らがない。

こちらもなかなか良い感じだが、巨乳が無くなってしまったのが残念だ。


「そろそろ行くか。皆、準備は良いかい? サリー様、急にお願いしてしまって申し訳ございません。」


「いや、良いのだ。私も一度、龍に乗ってみたかったからな。」


「ソフィアもよろしくね。」


「いつもお留守番ばかりなので同行できてうれしいです。」


「それは良かった。では、まずは野営地に転移しますね。」


一瞬で隣国の野営地に着いた。


「ルビー、あとはよろしく。」


「分かったのじゃ。」


ルビーは以前よりも大きな炎龍になった。

ママ炎龍と同サイズだね。

全員乗っても大丈夫!

それに安定していて揺れは全くなく、早い。

とにかく早い。

馬車10日分の距離を数時間で飛んでしまった。


「主様、あれが王都だと思うぞ。」


ルビーは龍の状態でも念話ではなく普通に話せるようになった。


「そうですね。あれは王都で間違いないです。このまま王都に入ると大騒ぎになるので馬車に乗り換えた方が良いと思います。」


「それは確かにそうだな。敵とみなされ攻撃されたら面倒だ。」


それ以前にドラゴンが襲来しただけで大騒ぎなのだが。


ルビーに近くの森に降りてもらい、街道まで歩いて馬車を出した。

改造を施し快適になったマイ馬車にサリー様とソフィアは驚いていた。

ルビーはドラゴニュートの状態が気に入ったようだ。

今もその状態でいる。

人の状態よりも魔力の消費が低く、ストレスが無いそうだ。


「間もなく着きますよ。」


御者席にいるカリンの声がした。

門に着くと兵士に取り囲まれてしまった。


「大丈夫ですか! 森でドラゴンを見たというものがおりまして。」


「ええ、大丈夫です。ご苦労様です。」


知らない振りをして門番をやり過ごした。

その龍、うちのルビーです。なんて言ったら捕まっちゃうしね。


「このまま王城へ向かいましょう。」


門を潜ると人が溢れていた。

世界樹周辺に住んでいた者たちが王都へ避難したことが原因だろう。

これでは治安が悪化し、食糧難にもなっているに違いない。

世界樹を奪還したことを早く伝えてあげよう。


城門に着くとオリビアが馬車を降りた。


「聖女オリビアです。王様と教皇様に謁見したいので至急取り次いでください。」


「流石に聖女様でも急過ぎます。アポイントを取ってくださらないと困ります。」


「では、ハワード王国第1王女サリーと第3王女ソフィアが参上したと伝えてくれ。」


サリー様が颯爽と現れた。

ソフィアはサリー様の後ろで微笑んでいる。


「すぐに伝えて参ります!」


数分後、第一優先で謁見の間に案内された。

王女パワーは超強力だった。


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