第5章 使徒と四龍
第72話 ルビーの変身
「あっ! Sランクの魔石が・・・。」
「主様。我の今の力ではSランクの魔石を破壊するまでの力は無いからその辺りに落ちているはずじゃ。」
「そうなの? って、誰?!」
ルビーの声に振り返ると赤髪で全裸の美女が立っていた。
「主様、誰?はひどくないか?」
近寄ってきて抱きつく美女。
「あれ?」
そして気付く。目線がアトムとあまり変わらなくなり、飛べなくなっていることに。
それから自分の身体を見て驚いた。
カリンが慌ててローブを羽織らせた。
「ルビーなのか?」
「そうなのじゃが、人化ができるようになったようじゃな?」
神様が不老不死を授けるときにルビーが切に願っていた人化もいっしょに授けてくれたらしい。
「主様、どうやったら龍に戻れるのだろうか? 我は主様の肩に乗りたいのだが。」
「さあ? って、ちょっと! 無理やり俺に乗ろうとするな。」
「オリビア殿! 神を再び降臨させて聞いてくだされ!」
「ごめんなさい。私の意思で降臨させることはできないの。私は強制的に憑依されているだけなのよ。」
「ガーン。どうしたら良いのじゃ・・・。」
「考えられる詠唱といえば。そうだな、トランスフォームとか、チェンジを試してみたら?」
「トランスフォーム!」 変化なし。
「チェンジ!」 ドラゴンに戻った。
もう一度チェンジを唱えると全裸美女に戻った。
「良かったのじゃ。これで好きな時に人の姿になれるのじゃ!」
その度に目のやり場に困るので服を着て欲しい。
誰よりも女性らしいプロポーションをしているのだから。
とりあえず、気持ちを切り替えて魔石を探した。
「そういや、さっき気になることを言っていたね。ルビーは昔よりも力が衰えているのかい?」
「そうじゃないのじゃ。我の本体は、まだ火山のマグマの中で眠っているのだ。この身体は精神を切り取った分身、思念体のようなものなのじゃ。」
ルビーは、元々マイダンジョンで召喚したドラゴンだったのだが、俺に腕を吹き飛ばされたことで龍の誇りを守るために意思を持ち具現化した経緯がある。
したがって、通常の龍とは異なる存在だったのだ。
だが、それでも厄災であることには変わらず、人には抑えることのできない強さを持っている。
俺が戦った時、手負いでなければ決して勝てる存在ではなかった。
炎龍本体とは絶対に戦わないと改めて心に誓った。
『どうしたのじゃ?』
ドラゴンに戻りいつもの定位置である俺の肩の上に乗ったルビーが俺の顔を覗き込む。
「いや、何でもない。ちょっと考え事をしていた。」
『そうか。我の肌を見て興奮してしまったのじゃな。フフフ、いつでも良いのじゃぞ?』
「違うわ!」
おっと、木の陰に俺のビックバンを受けた時に吹き飛ばされたデュラハンの大鎌を発見。
呪いの武器だったので触らずに収納。
*鑑定
名称: 死神の大鎌 【呪い】
ランク: S
特徴: 死神が愛用していた大鎌と伝えられている。
斬られると必ず死をもたらす。
闇属性を強化するが、精神が崩壊し殺戮衝動を抑制できなくなる。
呪いを解いてしまうと付与がも失われ、大きいだけの変哲もない鉄の鎌に
なってしまう。
付与: 闇魔法(デス)、STR+100、AGI+100、DEX+100
真っ直ぐに伸びるルビーのブレスの痕跡の上をゆっくり歩きながらデュラハンの魔石を探す。
ブレスを受けた地表はダメージが大きく、草木がまだ生えていないので探しやすい。
数百mほど歩いたところにソフトボール程の巨大で真っ黒な魔石が転がっていた。
この邪悪な気配からして間違いなくデュラハンの魔石だろう。
とりあえず、やることは全て終わったので念話でサリー様に状況を報告した。
すぐに王様にも伝わるだろう。
「オリビア、やっぱり王様に会いに行かなきゃダメかな?」
「ダメでしょうね。私も教皇様にお別れの挨拶もしたいので。」
「オリビアは教会に戻らなくても良いのか?」
「そもそも私はお飾りの聖女でしたし、このままアトム君のお世話になろうかと思っています。ダメでしょうか?」
急にオリビアがよそよそしくなった。
捨てられると思っていたようだ。
「オリビアがこっちに居たいのなら居ても良いよ。」
「側に居てくれくらい言えないものかね。お姉ちゃん、情けないよ。」
うるさいわ、愚姉。
「それじゃ、教皇様に挨拶しないとな。ところで、王都まではどのくらい離れているんだ?」
「最初に会った野営地に戻り、そこから馬車で10日程の距離ですね。」
「10日か。長いな。先に南の港町に回ってからじゃダメかな?」
「世界を救ったのですよ? まずは王に報告して褒美をもらってからでしょう。」
「面倒だな。ルビー、また乗せて飛んでくれないかな?」
『構わんが、褒美が必要じゃぞ?』
「何か欲しいものがあるのか? ついでに王様にお願いしても良いが。」
『せっかく人の姿に成れるようになったのじゃから、わかるだろ?』
「ん? うまいものが食いたいのか? そうだな、餃子を作っちゃおうかな。」
『違うだろ! まぐわいたいのじゃ! って、餃子とは何じゃ? それはおいしいのか?』
「もちろん。たまらなくうまい! ついでにラーメンも作っちゃおうかな。チャーハンも久しぶりに食いたいな。」
『ああ、聞いたこともない名前を次々と。食べたこともないのになぜか確実に旨いのがわかるぞ。いつ作ってくれるのだ? 今か? 今すぐか?』
「王様と教皇様に報告してからだ。」
『じゃあ、すぐ行くぞ!』
「もう暗くなるし、明日の朝から移動しよう。」
『えええ! 我の口はもう餃子になってしまっているのだぞ!』
「ルビーは、味がわからないんじゃないのか?」
『人化すれば恐らく味わえると思うのじゃ!』
「なるほど、可能性はあるな。」
『皆と食卓を囲んで楽しくおしゃべりしたいのじゃ!』
「そういや、人化していた時は普通に話していたな。とにかく、帰ろう。」
ソフィアに念話で帰ることを報告してから全員で自宅へ転移した。
前回、帰宅前に必ず帰るコールを入れるように念を押されていたのだ。
「お帰りなさい。アトム様。」
「ああ。無事に帰りました。」
玄関で待っていたソフィアに抱きしめられた。
ソフィアが泣き止み落ち着くまで玄関で抱きしめられていた。
「あっ、ごめんなさい。感情が抑えられなくなっていました。ところで、お風呂に入りますよね?」
「あれ? 臭かった? 臭かったんだよね?」
「皆さんのお風呂にどうぞ。」
ソフィアに話をそらされた気がする。
いろんな意味で傷ついたな。
「今日の晩御飯は久しぶりに俺が準備するよ。」
「お祝いにしようと思っていたのですが、お願いします。」
渚さん、よろしくね。
『ラーメンと餃子とチャーハンですね。とんこつや味噌もできますが、今日はシンプルに醤油味にしましょう。』
それとルビーが人化した時の衣装もよろしくね。
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