第71話 デュラハン

*鑑定

 名称:  【デュラハン特殊個体】

 ランク: S

 特徴: デュラハンの特殊個体のネームド。魔王軍四天王の1体。

     魔王軍統括隊長である。騎士精神を重んじる武人。

     大きな死神の鎌(サイズ)を持ち、首が無く、下半身が馬の悪魔。

 特技: 、呪術、闇魔法(死の宣告)、魔力感知、瘴気、

     死者の嘆き(全デバフ付与、全ステータス-50%)、

     


統合武術は、エミリンと同じようにあらゆる武器を装備し、操ることができるスキルだ。

地獄の絶叫は、精神が崩壊し、耐性の無い者は死に至る。まさに地獄へ引きずり込む叫びだ。

だが、通常は必殺技となる地獄の絶叫や死の宣告も我らパーティには効果なし。

新たに作ったブレスレットの状態異常無効が効いている。

死の嘆きや瘴気にも耐性があり、無効なのだ。

デュラハンにとっては俺たちは天敵になるだろう。



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<side デュラハン(スペード)>


生前の儂は、魔王様から魔王軍の指揮を任された。

しかし、ヒューマンから現れた勇者によって魔王軍は全滅してしまった。

魔王様もその時に命を落とした。

しかし、我ら魔族は魔素が集中し、溜まることで蘇ることができる。

これが魔族転生だ。

それで先に蘇ったアークデーモンのクラブとエルダーリッチのハートの行った復活の儀式により儂やギガンテスのダイヤが蘇った。

どうやら儂は、魔王様よりも先に蘇ったようだ。

儂らを倒した憎き勇者の気配はない。

あれから何年経ったのだろうか。

クラブとダイヤの話では、旧魔王派とは別の魔族集団が邪神の復活を企んでいるらしい。

邪神よりも魔王様の復活が先だろうと儂は憤った。

だが、邪神の復活もとあるヒューマンに阻止されうまくいっていないらしい。

そちらは勝手にやれば良い。儂らは魔王様の復活だ。

ハートの話では、魔王様の復活には魔力が足りないらしい。

ダンジョンコアレベルの魔力がいくつも必要だという。

だが、ダンジョン以外にもその膨大な魔力が集まる場所があるそうだ。

それが世界樹だった。

3か所の世界樹は既にヒューマンの英雄によって守られてしまっているらしい。

残る南の世界樹に向かった。

ここにもその英雄が来るだろう。

そこで儂のユニークスキルの1つ、『魔族統率』を発動し周囲の魔物を集めた。

ここにも英雄が来たら返り討ちにし、魔王様の糧にしてやろう。

ん? 何だ、この光は。

光りに触れた低級魔族が浄化されてしまった。

結界か? 忌々しい!

すでに数千の魔物が壁となり世界樹を囲んでいる。

今更諦めるわけにはいかない。

さらに魔族統率を強める。

遠方からも魔物が集合してきた。

それから1週間が経ち、魔物の壁は厚くなり数万を超えていた。

だが、未だにこの世界樹の周囲にある結界を破る手立てが無い。

口惜しい。


『ん? 巨大な魔力が急接近しているぞ。皆の者、応戦の準備だ!』


警戒を強めているとそれは空からやってきた。

赤い厄災、炎龍だった。

な、なぜ、炎龍がここに? 炎龍はマグマの中で永眠しているのではないのか?

あっという間に数万の魔物が炎龍に食われてしまった。

圧倒的な戦力差に唖然とする。

しかし、ここには魔王軍の最強戦力の四天王が揃っているのだ。

炎龍であっても無傷では済まないだろう。

出来ればこれで満足し、立ち去ってもらいたいところだが。

ちょっと待て! 降り立った炎龍の背中からヒューマンが降りて来たぞ。

何だ? あいつらはいったい何者なのだ!

炎龍が主様と呼んでいるだと?!

クラブとダイヤが玩具にされて始めた。

ハートの姿がない!?

ヤバいぞ。この時代にはあの勇者を超えるヒューマンが存在していたのか?

あっ! ヒューマン達が噂していた世界樹を救った英雄というのはこいつらじゃないのか?

気付いた時にはもう遅かった。

クラブとダイヤは魔力が枯渇するまで玩具にされ、絞り取られた。

どっちが悪魔なのだ。

四天王を飽きたと言ってトドメを刺す存在。

厄災を配下に置く存在。

魔王様でも傷つけることすらかなわないだろう。

邪神様でなければ無理か。

今更後悔しても遅いか。

儂が恐怖で震えているだと?!

怖いさ。そりゃ、逃げだしたいさ。

だが、儂は魔王軍最強の存在。

勝てなくても一矢報いてやろうじゃないか!


『死者の嘆き。地獄の絶叫。』


何だと?! 全く効かないだと?!

どうしたら良いのだ。

必殺技が効かないとなったらもう無理では?

いや、まだ何か手はあるはず。

儂には武人としての誇りと技がある。

小細工はおしまいだ。行くぞ!

馬が動かない?

下半身の馬と儂は別々の意思を持っている。

だが、馬は儂の意思をいつもは優先し動いてくれる。

しかし、どうにもならない強者を前に動けなくなってしまった。

儂は空いた左手で馬を撫で落ち着かせる。


『すまんが、また長い眠りにつかなければならなくなるやもしれんが付き合ってもらえんか。儂はあやつに全力でぶつかってみたいのじゃ。頼む。』


儂は全身で闘気を発し、己を奮い立たせた。

ダイヤ、クラブ、ハート、そして数万の手下達よ、見ていてくれ。

馬は震えが止まり、力強く地を蹴った。


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デュラハンとの戦闘が始まった。

何かスキルか魔法を使ったようだが、特に変化はない。不発だったようだ。

すると奴の様子が変わった。闘志と殺意をビンビン感じる。

一騎当千の武人のようだ。

下半身の馬が地を蹴り走り出す。

ダンジョンで戦ったデュラハンとは比べ物にならないスピードで駆け回る。

大きな鎌を振り下ろすと斬撃が飛び、地を削りながら向かってくる。

エミリンも負けじと大剣を上段から振り下ろし斬撃を飛ばす。

斬撃がぶつかり合い爆音をあげ粉塵をまき散らす。

拡散すると思われたエミリンの斬撃は勢いを失わず、デュラハンを襲う。

不意をつかれたデュラハンは大きく避けバランスを崩した。

そこにカリンの矢の雨とオリビアの光の矢が襲う。

俺も負けじと魔法を打つ。「ゴッドスパーク!」

さらにエミリンの追撃。

一瞬の隙に畳み掛けるような攻撃を食らい、体中から煙を上げボロボロになってしまったデュラハンだが辛うじて立っていた。

それでもまだ闘志を失っていなかった。

さらに勢いを増し、襲い掛かってきた。

エミリンが前に出て迎え撃つ。

エミリンの大剣とデュラハンの大鎌がぶつかり火花を散らす。

エミリンが高速で連撃を放ち、負けじとデュラハンも応戦する。

俺達はエミリンにも被害がでてしまうので攻撃することができない。

支援にまわり、バフや回復に徹する。

そして、気配を殺し背後に回ったカリンの暗殺術が炸裂した。

それにより戦況はこちらが優位となる。

エミリンが隙をみて大楯に持ち替え、盾術の『シールドバッシュ』を放ち突き飛ばした。

エミリンと距離が出来たのを確認し、一気に総攻撃をかける。

エミリンが戻ったことを確認し、俺の最大火力の魔法を放った。


「ビックバン!」


やばい近すぎて余波が来る。

防御が間に合わない!

すると背後で見ていたルビーが全力のブレスを吐いた。

それで魔法の余波もデュラハンも全て前方に吹き飛ばされた。

そこには大鎌だけが残され、デュラハンは跡形も無く消し飛んでいた。


「終わったね。疲れたわ。ルビー、ありがと。」


「これからどうするの?」


「とりあえず、報告かな。こっちの王様にも挨拶しておいた方が良いかな?」


「そうね。こんなにしちゃったし、一応報告しておかないと犯罪者にされちゃうかもね。」


「面倒だが仕方ないか。説明はオリビアに任せるよ。僕はこの国の王に面識ないし。」


「私だって、何度かしか会ったことないわよ。」


すると背後が眩しいほど光った。

振り返ると世界樹にあった結界が徐々に消えていくのが見えた。

すると温かいオーラのようなものが広がっていくのを感じた。

焼け野原となった荒野に草木が芽吹き、次第に草原や森林へと成長していった。


「すごいな。これが世界樹の恩恵ってやつか。」


「私も初めて見ました。世界樹の力ってすごいですね。」


「あっ! ルビーは大丈夫か?」


「平気みたいだぞ、主様。」


これでルビーが浄化されてしまっていたら世界樹を燃やしてしまっていたかもしれない。

それ程、ルビーはもう家族のような仲間になっている。

オリビアが静かになったと思ったらまた神が憑依したらしい。


『アトムよ、良からぬことを考えるでない。だが、良くぞ世界樹を守ってくれた。これで邪神の復活は阻止された。感謝するぞ。』


「仲間や家族を守るついでなので気にしないでください。」


『世界を救うことの方がついでなのか。まあ、良かろう。ところで何か報酬をと思うのだが希望はあるか?』


「そうですね。僕の家族の寿命を延ばして頂けませんか? 僕はエルフの血が入っているので長命ですが、家族が居なくなるのは寂しいので。」


『わかった。お前が家族と認めた者へ不老不死の祝福を授けよう。』


「ありがとうございます。」


言い終えた神はオリビアから抜け、天に戻っていった。

パーティメンバーを鑑定してみると全員のユニークスキルに不老不死が増えていた。

寿命の概念がないと思われるルビーにも付いていた。

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