第55話 南を目指して

「おはようございます、王様。」


「おお、アトム君か。ずっとサリーがダンジョンに篭ってしまっているようだが、知ってるか?」


「はい。昨日、いっしょに潜りましたから。」


「それでなのだが、副団長が困っていてな。サリーに団員の鍛錬をお願いしに行くとドラゴンが襲来したら誰がこの国を守るのだ!と怒鳴られ追い返されるらしいのだよ。何か知っているか?」


「火山の火口に炎龍が棲んでいるという伝承があるこの国で炎龍に手も足も出なかったら責任感の強いサリー様ならそうなっちゃうでしょうね。」


「炎龍? 伝説の存在だぞ? サリーが戦ったというのか?」


「昨日、僕も一緒に戦いましたよ? 我が家のダンジョンで。まあ、あっけなく負けましたけど。それでも僕は右腕を吹き飛ばしてやりましたけどね。」


「君のダンジョンではドラゴンまで召喚できるのか。でも、アトム君でも勝てないということはドラゴンはやはり強いのだな。」


「ええ、予想以上の強さでした。物理も魔法も普通の攻撃ではキズ一つ付かないですね。あの強固な鱗を何とかしないと。オリハルコンとか、伝説級の材料を使った装備が必要と思われます。」


あっ! 王妃様を治療したときにビー玉サイズのオリハルコンの欠片をもらったんだった。

流石に何も作れないし、複製して増やすにしても莫大な魔力を必要とするので諦めて収納しておいたんだった。

オリハルコンは、稀にダンジョンボスを倒した時にドロップするらしい。

あれ? ダンジョンでドロップ?


『そうです。マイダンジョンでもドロップさせることができます。しかし、効率は悪いです。それより鉱石採掘用のエリアを作って採掘した方が良いです。小さいながらもサンプルがあるのでオリハルコンを増産できると思います。』


なるほど。4階層は採掘エリアにしよう。


『了解しました。鉄、銅、銀、金、アルミや希少金属、ミスリル銀やオリハルコン等、様々な鉱石を採掘できるように設定しておきます。かなりのポイントを消費してしまいますが、毎日サリー様が狂ったように狩りをしているのですぐに溜まるでしょう。』


サリー様はそんなに狩っているのか。

するとお偉いさん達も王様と二人きりだった謁見の間に続々と入ってきた。

そろそろ今日のお仕事が始まるようだ。

他の人もいるし、ダンジョンの事は話さないように気を付けよう。


「この国の防衛の要となるサリー様が強くなるのは良いことでは? ドラゴンと渡り合える程の実力をもつ者が率いる兵団がいるというだけで他国に対する抑止力になるでしょう。」


「君たち3人が戦力となってくれるだけでも十分だと思うのだが。」


「私たちは只のCランク冒険者パーティですから。」


「何故まだCランクなのだ? その方が驚きなのだが。ギルド職員の眼は節穴なのか?」


「基本、気ままに狩りをしているだけですからね。ギルドに戦力としては貢献していません。それにランクが上がればしがらみもありますし、今のままが丁度良いのです。」


「そういうものか。でも、儂も強くなった方が抑止力になると思わぬか? 儂も狩りに行くとするかな。」


お偉いさん達が王様を逃げられないように抑え込み、何故か俺が睨まれた。解せぬ。


「おい、止めぬか。逃げたりせん。」


ああ、いつもうちに来るときは仕事を終わらせてからじゃなく、抜け出していたんだな。


「そうだ。明日、南の世界樹に向かいます。」


「そうか。南の世界樹は遠い。ハリス領よりも遠いし、盗賊や魔物も多いと聞く。気を付けるのだぞ。それと国境を超えるので通行証を渡しておこう。」


ギルドカードでも入国可能だが、通行証があった方がスムーズに行けるそうだ。

有難く頂いておこう。


「はい。行ってきます。」



翌朝早くに王都を出て南へ向かった。

エミリンがダンジョンに狩りに行くと駄々をこねたが、甘いもので釣って連れ出した。


マイダンジョン3階層は、50m程のドーム型の部屋を複数配置し、独立させた。

各部屋ごとに環境も魔物も独立しているので、サリー様が召喚した強い魔物が隣のメイドさん達の方へ漏れ出すこともない。

4階層の採掘場の方も完成したが、増産中なので一カ月は採掘してはいけないそうだ。


「天気も良いし、風も気持ち良いな。」


馬車の屋根の上に竹で編んだサマーベットを設置し、ビーチパラソルの下で日向ぼっこをしながら寛いでいた。


「アトム様、冷たいジュースをどうぞ。」


「ありがとう、カリン。久しぶりに甘やかしてくれても良いのだよ?」


「発情して本気になっちゃうかもしれませんよ?」


えっ? やはり獣の血が入っている獣人さんには発情期があるのだろうか?

変な汗をかき、真っ赤になってしまった。


「冗談ですよ。ウフフ。」


「・・・。」


「アトム~。甘いお菓子作ってちょうだい。ん? 顔赤いけど、病気?」


「ふぅ~。エミリンはいつも通りで安心するよ。」


「何よ!」


ちなみにゴーレムを召喚できるようになったので、馬車を引く馬をゴーレムにかえている。

なので、カリンが御者をしなくても馬車をゴーレム馬自身の判断し動かしているのだ。

魔物や盗賊を感知した場合には警報が鳴るようにしてある。

3人でのんびりと馬車の旅を満喫していた。


「ああ、面倒だな。1km先に盗賊と思われる集団が居るよ。捕まえるの面倒だな。」


流石に遠すぎてゴーレムはまだ反応しない。

50人ほどの大所帯の盗賊が森の入口で身を潜めている。


「魔法でサクッとやっちゃえば?」


「エミリン、君は相変わらず物騒だね。」


「だって、人は斬りたくないもの。」


「ああ、そうですか。じゃあ、やっちゃうか。」


『ピィピィピィ』


「おっ? ちゃんと警報が発動したね。ということは射程に入ったか。アイスニードル!」


魔力を多めに込めて、通常の数十倍の数の鋭い氷の棘が潜んでいた盗賊に降り注いだ。


「「「うぎゃあああああ」」」


複数の悲鳴が木霊する。

今まで散々人を殺めたり、奪ったりしてきたのだから容赦しないよ。

よし、気配探知に生命反応無し。


面倒だが死体を回収し、転移で我が家に戻り、マイダンジョンへ放り投げた。

死体はすぐにダンジョンに吸収され、ポイントに変わった。


『やはり死体からのポイント還元率は良いです。』


なんか複雑な気持ちになるな。

よし、気持ちを切り替えて旅を進めよう。


その後、何度か盗賊と魔物の討伐を繰り返し、3日が過ぎた。

そして、国境近くの最後の町カラザンに到着した。


ここは緑が少なく、痩せた土地のようだ。

畑にはサツマイモなどの芋類が多い。

砂漠まではいかないが、土が乾燥している。


「ようこそ、乾燥の大地カラザンへ。」


門番に声を掛けられた。

ギルドカードを見せ、この町について聞いてみることにした。


「旅の者です。この町の特産品などありますか?」


「ここは土地が痩せていて乾燥しているから芋ぐらいしか取れないのだよ。あとは、綿花とオリーブかな?」


おっと! オリーブ油が手に入りそうだ。

これで料理の幅が広がるな。

市場に行くと大量のオリーブの実が売られていた。

無理を言ってオリーブの苗も分けてもらった。

さらに胡麻も発見!

前世ではホウレン草の胡麻和えが好きだったんだ。

これでゴマ油も作れるな。

ゴマのドレッシングも良いな。

2種類の植物油をゲットした。


「アトム様。あのシワシワのマメのようなものは何でしょう?」


「ん? あっ! 落花生だ。エミリン、このマメはチョコレートに混ぜると絶品なんだ。他にもお菓子にいろいろ使えるぞ。」


「アトム、全部買い占めよう。」


何も無い田舎町だと思ったが、いろいろ収穫があった。


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