第54話 炎龍

翌日、安全確認という名目でサリー様が1日中ダンジョンで狩りをしていたらしい。

満足顔で帰ってきたサリー様は素晴らしいを連呼していた。

安全確認のためにドラゴンを召喚したらしいが、手も足も出なかったそうだ。

目標が出来たと喜んでいた。


2階層も完成し、サンドラ様の研究所を引っ越した。

収納して2階層に出すだけの簡単なお仕事です。


「アトム君。私の研究所も移動してもらっても良いかな?」


「構わないけど、ジャスミンもダンジョン内の方が良いのか?」


「できれば薬草を栽培したいんだけど良いかな?」


「良いよ。ダンジョンの方が育ちが良いのかい?」


「うん。魔素の影響で成長は早いし、含有魔素量が高いから効果の高い薬が作れるの。ダンジョンじゃなきゃ生えない魔力草とかもあるしね。」


「了解。それじゃ、移動しちゃうね。それと豊穣の鍬をどうぞ。」


騎士団の方は副団長に任せ、サリー様は毎日ダンジョンに通っているそうだ。

ドラゴンの強烈な攻撃を受け大ダメージを受けてもちゃんとダンジョン外に放り出され全回復することが確認できた。

それから何度もドラゴンに挑んでいるらしい。


「アトム君はドラゴンに勝てるのかい?」


「まだ挑戦したことは無いですね。」


「アトム、行くわよ!」


戦闘狂パーティメンバーの2人が完全装備で立っていた。


「そうなっちゃうよね。じゃあ、ちょっと挑戦してきます。」


エミリンとカリンとともにダンジョンへ向かった。


「私も参加して良いかね?」


「前衛は多い方が良いでしょう。試し狩りなのでどうぞ。」


サリー様も参加することになった。


「準備は良いかな? それでは行きます。」


荒野エリアの上空に真っ赤なドラゴンが現れた。



*鑑定

 名称: ファイアドラゴン炎龍

 ランク: SS

 特徴: 火属性ドラゴン。火属性無効、魔法防御大、物理防御大。

 特技: 咆哮、威圧、炎ブレス、炎龍の爪撃、炎龍の尾撃

 ドロップ: 魔石、龍の牙、龍の爪、龍の鱗、龍の革、龍の骨、龍の肉、龍の眼



流石、ドラゴンのステータス。

魔法も物理も通さない防御力。

果たして俺達に倒せるのだろうか。

ちなみにサリー様は毎回攻撃する前に1撃食らってダンジョン外に飛ばされてしまうらしい。

他の魔物を倒して強くなってから挑めば良いのに懲りない人だ。


「アトム様! ブレスが来ます。」


ドラゴンが口を開き魔力が集中してくる。

明らかにヤバそうだ。

ブレスが放たれた瞬間、防御態勢をとった。


「シェルター、『シェルター』」


渚の判断で2重のシェルターで防御した。

凄まじい破壊力で1枚目は吹き飛び、2枚目もガリガリ削られ熱が通り抜けてきた。

急いで3枚目を内側に展開し、火耐性を付与した。

ブレス一発でこの状況だ。

勝てる気がしない。

と言っても折角だから一発殴っておきたい。


ブレスが止み静かになったので、シェルターを解除した。

周囲は煙で何も見えない。

ドラゴンは勝ち誇り吠えた。

空気が震える。

威圧が混ざった咆哮だったらしく、サリー様が硬直した。


「キュア。大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。君たちは耐性があるようだな。」


「それじゃ、反撃しましょう。今、ドラゴンは油断しています。地面に叩き落としますので斬り込んでください。死ぬことは無いので防御無視で思いっきり殴ってやりましょう。」


3人は煙の中、ドラゴンが落下すると思われる方向に走り出した。


「メテオストライク! 『メテオストライク』」


『合成魔法を獲得しました。』


火魔法のメテオで隕石を発生させ、さらに土魔法で隕石を大きくし、重力魔法で加速させた新たな合成魔法を叩き込んだ。

油断していたドラゴンの後頭部にクリーンヒットし、ドラゴンはよろめきながら落ちていった。

地響きとともに落ちたドラゴンに3人が襲い掛かる。

サリー様がドラゴンの首目掛けて斬りつけたが、全く歯が立たず剣を弾き飛ばされた。

バランスを崩したサリー様をドラゴンの爪が襲い、強烈な一撃を浴びてダンジョン外へ飛ばされた。

エミリンは巨大な斧で足の付け根を狙ったが、やはり歯が立たず尻尾で払われダンジョン外へ飛ばされた。

カリンは双剣で素早く移動し攻撃をかわしながら何度も切ったがドラゴンの鱗は硬かった。

うるさいハエを叩き落とすように殴られダンジョン外へ飛ばされた。

一人になってしまった俺は誰に遠慮することなく戦える。

向こうは煙の中にまだいる俺に気付いていないようだ。


「食らうが良い! 俺の上級魔法を! ゴッドスパーク! メイルシュトローム! アブソリュート・ゼロ!」


雷魔法で硬直させた後、水魔法で火を弱らせ、氷魔法で凍らせた。

あっという間に巨大なドラゴンの氷像が出来上がった。

するとドラゴンが赤く光り出し、熱気で周囲が熱くなってきた。

氷は徐々にヒビが入り、解け始めた。


「まだ足りないか。俺の最大奥義を食らうが良い。エクスプロージョン!」


闇魔法、火魔法、重力魔法を合成した爆裂魔法だ。

右肩付近で爆発したため、ドラゴンの右腕は消し飛んでいた。


「やったか?」


怒りのドラゴンは炎のブレスを吐き、フラグを立て油断した俺はシェルターが間に合わず、ダンジョン外に飛ばされた。


ダンジョンの外には装備がボロボロになった3人が待っていた。


「どうだった? 勝ったのか?」


「いや、ダメでした。右腕は奪ってやりましたがブレスでこの様です。」


「私も初めて攻撃を当てられたよ。想像以上の硬さだったな。もっと強くならねばこの国を守れん。」


「そうですね。実際に出会わないことを祈るばかりです。命がいくつあっても足らないですね。」


戦闘狂の2人も手も足も出なかった現実を重く受け止めているようだ。

最近、強くなったと勘違いしていたと俺も反省している。

良い経験になった。


「サリー様。ダンジョンの管理をお任せしても良いですか? 私は明日旅に出ますので。」


「構わないぞ。ソフィアやメイドさんたちを鍛えておくから安心してくれ。あのダンジョンは本当に安全だ。本当なら私は何度ドラゴンに殺されていたことか。」


それから俺たちが旅から戻るまでサリー様のダンジョン通いは続いたそうだ。

副団長から団に戻るように何度も説得されたらしいが、


「ドラゴンが襲ってきたら誰がこの国を守るのだ! このキズを見てみろ。これがドラゴンの爪痕だ。」


と誇らしげに鎧の切り裂かれたキズを自慢され、困惑するそうだ。

まさか伝説のドラゴンと戦った経験があるとは誰も信じないからね。

我が家のマイダンジョンは国家機密事項とされている。


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