第56話 サウザンカローナ入国

カラザンを出発し半日が過ぎたころ、国境の建物が見えてきた。

門の両側には武装した兵士がいる。


「停まれ! おかしな馬を連れているな。怪しいぞ。」


「私たちは世界樹を目指して旅をしています。怪しい者ではありません。」


「身分証を見せろ!」


なんか喧嘩腰なんだが。

槍を向けられて威嚇されている。

まあ、何かあっても俺たちの敵じゃないけどね。

王様に迷惑かけるかもしれないし、大人しくしておこう。

俺は王様から預かった通行証とギルドカードを差し出した。

通行証にはICカードのように情報が書き込まれているらしく、機械に通して調べていた。

機械を動かしていた兵士の顔色が徐々に悪くなり、汗をかき出した。

走って戻ってくるなり地べたに平伏した。


「申し訳ございません! どうか、命だけはお助けください。」


「ん? どうした?」


仲間の兵士が唖然としている。


「馬鹿! 槍を降ろせ。お前たちも早く謝るんだ! この方は伯爵様だぞ。しかも、王様からの命でこちらに来ているお方だ。アトム・ハリス様、数々のご無礼をお許しください。」


国境の門にいた兵士全員が平伏した。


「別に気にしてないから良いけど。通って良いかな?」


「もちろんです。どうぞ。」


王様、ありがとう。

通行証が無かったら確実に面倒なことになっていたよ。

国境の門を潜り、反対側の新たな国へ向かった。

反対側に居た別国の兵士は、一部始終を目撃していたのですんなり通してくれた。

入国しました! 隣の国のサウザンカローナだ。


国境の門から100mほどのところに分かれ道があった。

分かれ道の脇にあった小屋から一人の男が現れ話しかけてきた。


「左の道は山越えの道だ。右は有料のトンネルを抜ける道だ。右を選ぶなら1金貨払ってくれ。」


この世界に来てトンネルは初めてだな。

これは1金貨払う価値はあるかな。


『基本的に皆1金貨払って安全な右側を選んでいます。国境を超えるのは商人が多いですから。危険を冒してまで左側の荒れた道を選びません。』


1金貨を男に渡し、木札を受け取った。

通行手形のようなもののようだ。

そのまま右側を選び進んだ。

しばらく進むと断崖絶壁の壁が聳え立ち、トンネルの入口が見えてきた。

左側の道は旋回し、この崖に上を越えて南を目指すそうだ。


「手形をみせてくれ。」


トンネルの入口にいた兵士に木札を渡す。


「よし、通って良いぞ。」


ゴーレム馬をジロジロ見られたが通してくれた。

トンネルに入るとひんやりと冷えていて、魔道具のランプが所々に設置されていた。

薄暗くはあるが通行には問題無い。

トンネルの壁も魔法で固められていて崩れる心配も無さそうだ。

トンネル自体も土魔法で掘られているらしい。

トンネルを作った魔導士はなかなか腕が良いらしい。

これだけ頑張って掘っているのだから金貨1枚ぐらい惜しくない。

その魔導士の仕事ぶりにただただ讃嘆するばかりだ。


トンネルを抜けると一気に蒸し暑くなった。

周囲の植物も今までとは全く違う。

鬱蒼とする密林。南国というより赤道直下の熱帯雨林といった感じだ。

現れる魔物も全く変わった。猿やヘビ系が多い。

そして、とにかくデカく、柄が毒々しい。

それに道もぬかるんでいて、車輪がすぐにはまる。

その度に馬車を重力魔法で浮かせていたが、面倒なので今は常に浮いている状態だ。


「猛獣が襲ってくるかもしれないから注意するんだ。」


「ガォォォォ」


フラグを立ててしまったようだ。

猛スピードで大きな何かがせまってくる。


「エミリン、カリン。何か来るぞ!」


密林の中から現れたのは3mはある大型の猛獣だった。

口から長く大きな牙が生えていた。


*鑑定

 名称: サーベルタイガー(エリアボス)

 ランク: B

 特徴: 巨大な牙と爪を持つ猛獣。肉は筋張っていてうまくない。

 特技: 威嚇、噛みつき、爪撃、隠密

 素材: 魔石、牙、爪、毛皮、宝箱


トラ? 虎というより豹? ジャガーかな?

縞々じゃないし、斑点模様だし。

どっちでも良いや。

ランクが高いし本気でいくぜ!


既にカリンは弓で牽制し、エミリンは走っていた。

慌てて俺も魔法を打つ。


「ライトニング!」


素早く魔法をかわされてしまったが、俺の魔法は囮だ。

その隙にタイガーの懐に飛び込んだエミリンが喉元を切り裂く。

カウンターで左手の爪の鋭い攻撃が来たが、エミリンはかわし、空いた左胸に剣を突き刺した。

カリンの矢も目や脳天に突き刺さりよろめくタイガー。

そこへ俺の魔法が直撃する。


「ライトニング!」


落雷により感電し動かなくなった。

エミリンは、刺さっていた剣をさらに深く突き刺しトドメを刺した。

すると死体の傍らに宝箱が出現した。

その中には細長い日本刀のような剣が入っていた。


*鑑定

 名称: タイガーサーベル

 ランク: B

 特徴: 刃渡り60cm程の片刃の細剣。

     豹柄の鞘は修復効果を持つ。

     見た目以上に軽く、舞うように斬る。

     防御力無視の斬撃を放つことができる。

 付与: STR+120、AGI+120、DEX+100、風魔法、鞘:リペア


『リペアを獲得しました。聖魔法に吸収します。』


「この剣はアサシンのカリンが使ってくれ。この剣なら抜刀術も行けそうだ。」


「抜刀術? 剣技ですか?」


「そうだ。鞘から剣を抜くときのスピードを乗せた斬撃を放つ技だよ。しかも、この剣はその斬撃に防御力無視を付与するんだ。エミリンの斬撃を超える攻撃が出来るかもしれない。」


「わかりました。頑張って練習します。」


「エミリンも長剣を出してくれ。」


エミリンのミスリル長剣にサーベルタイガーの牙と爪を融合した。

鞘にリペアの付与も行った。


「サーベルタイガーの牙と爪を融合してみた。これで固く強くなったよ。STRとAGIの付与がさらに+100ずつ増えた。」


「じゃあ、大剣にもお願い。」


大剣にも同じく牙と爪を融合し強化した。

大剣には鞘がないので、柄の部分にリペアを付与し、刃が欠けた場合には修復されるようにした。

エミリンに返すとブンブン振って確かめている。

大剣を振り抜くと風の斬撃エアスラッシュが飛んで行き、前方にあった木々を薙ぎ倒した。

エミリンはウンウンと頷き、手応えを感じたようだ。


エリアボスのサーベルタイガーが倒されたことで、その後魔物の襲撃は無くなった。

夕方に差し掛かるころにやっと密林から抜け出した。

そして、近くに見えた村へ立ち寄って休憩した。


「お前らタイガーの森を抜けてきたのだろ? 大丈夫だったか? 最近、森の主のサーベルタイガーの機嫌が悪くて街道を抜けてくる商隊キャラバンが度々襲われているんだ。」


「そうだったのか。それなら俺たちも襲われたよ。」


「よく逃げ切れたな。」


「いや、返り討ちにしてやった。」


証明するためにサーベルタイガーの毛皮を出すと村中が大騒ぎとなった。

サーベルタイガーのおかげで足止めされていた商隊も大喜びだ。

そのまま宴会となった。

100金貨で毛皮を買いたいという商人もいたが、リビングの絨毯代わりにする予定なので売らなかった。

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