第48話 東のエルフ
次の目的地の東の世界樹を目指して旅に出た。
東への街道はずっと森の中だ。
見通しが悪く、度々魔物に遭遇する。
エミリンがずっと馬車には乗らず、先行して魔物を狩っている。
今回はゴブリンだけでなく、オークやそれなりに強い魔物が出てくるのでエミリンの機嫌が良い。
半面、カリンがウズウズしている感じだ。
「カリンも魔物を狩るかい?」
「馬車があるので・・・。」
「収納しちゃえば良いんじゃない?」
「アトム様はどうするのですか?」
「飛んじゃおうかな。」
そして、俺は風魔法を使いふわりと上昇し浮いて見せた。
すると馬車を停め、カリンが駆けだした。
「狩ってきます!」
カリンのストレス解消も必要だよね。
俺は馬車と馬を収納し、飛んだ。
二人ともすごい勢いで狩っているな。
『1km先に盗賊が隠れています。どうしますか?』
世の中の人に危害を加える前に成敗してしまおう。
「メテオストライク!」
「こら、アトム! いきなり魔法を打ったら驚いて魔物が逃げちゃうでしょ。」
「盗賊が隠れてたから成敗したんだよ。」
「それなら良いわ。ちょっと人を狩るのは抵抗あるし。」
俺は抵抗なく魔法を落としてしまったが。
隕石の熱と衝撃で全滅しただろうな。
全く後悔や罪悪感を感じなくなってしまった自分が怖い。
俺もこの世界に染まってしまったようだ。命が軽すぎる。
よし! 悪いことしてきたのだから天罰が下ったと思って下さい。
俺は開き直った。
出発して5日が過ぎ、東のエルフの里が近づいてきた。
目視で世界樹が見えている。
ここの世界樹はかなりでかい。
一番古参なのかもしれない。
途中、何度か小さな宿場町のような村のような集落はあったが、特に珍しいものは無かった。
2人が魔物を狩りながら徒歩で進んだので予定よりも遅くなってしまった。
ストレス解消が出来たのであれば時間など小さな問題だ。
それにしてもデカいな。
天に届くんじゃないかというレベルだ。
世界樹の元にはエルフの里があるというのは常識だ。
エルフが世界樹を守り、お世話をしている。
だから世界樹が目印となり、エルフ狩りが集まってしまうのだ。
エルフは決して弱い種族ではない。
俺やスーザン母さんのように魔法に長けている。
さらに弓や剣の扱いにも優れたものもいる。
だが、長命種のためのんびりした性格ゆえに油断してしまい、捕らえられてしまうのだ。
里の入口が見えてきた。
また警戒されているな。
「おい! エミリン。大剣を振り回すな!」
そりゃ、大剣を片手で軽々と振り回しながら近づいてきたら警戒するわ。
どこの野蛮人だよ。
「そんなに警戒しないでください。僕はユグドラシル様からの依頼で東の世界樹を確認しに来ただけですので。里に入ってもよろしいですか?」
「ヒューマンを入れるわけが無いだろ。しかも、お前たち怪しいぞ。」
「一応、母さんがエルフなので僕の半分はエルフです。」
「母親の名は?」
「スーザン・ハリスです。僕はアトム・ハリスです。」
「水の乙女スーザン様・・・。どうぞ、お入りください。」
ユグドラシル様より母さんのネームバリューが高かった。
母さんはどれだけ暴れていたのだろうか。
あんなロリっ子なのに。
「中央にある家に居る長に挨拶をお願いいたします。」
「わかりました。エミリン、絶対に暴れるなよ。」
「それはフリなのかしら?」
「違うから! おやつ抜きにするぞ。」
「ごめんなさい。」
長の家はすぐにわかった。
明らかに周りの家より大きい。
「こんにちは。ここは長の家でしょうか?」
「そうじゃが、誰じゃ? まさかエルフ狩りじゃないだろうな。」
「こんな呑気なエルフ狩りがいますか?」
「それもそうだな。もしそうなら、お前はもう捕まっているわな。ワハハ。」
「僕はアトム・ハリスです。ユグドラシル様の命により世界樹を確認しに来ました。」
「ほう。ハリスというとスーザンのところかのお。」
「スーザンは僕の母さんです。」
「そうかそうか。儂はスーザンの父親だ。だから、お前のおじいちゃんになるかな。」
「えっ! おじいちゃんですか? 初めまして、孫のアトムです。」
「そんなに畏まらなくてよい。ところでスーザンは元気なのか? 結婚の報告をしに帰ってきたのを最後に一度も里帰りをしないのだよ。あの親不孝娘が。」
「そうですか。では、すぐに引っ張ってきますね。少々お待ちを。」
転移し実家へ飛んだ。
「父さん、母さんはどこにいるかな?」
「またテラスじゃないか? ミントさんとサラの3人で暇さえあればお茶してるからな。」
「わかりました。ありがとうございます。それと今、東のエルフの里に来ているんですよ。おじいちゃんに会いました。」
「ギクッ! 久しく挨拶して無かったな。」
「おじいちゃんが怒ってましたよ。それで母さんを連れて行こうかと思いまして。」
「うん、それは良い。早く行ってきなさい。」
父さんの予想通り、テラスで3人はお茶をしていた。
「母さん、ちょっと良いかな?」
「あら、アトムちゃん。何かしら?」
俺が手を出すと母さんが握ってきたのでそのまま東のエルフの里へ飛んだ。
「え? この大きな世界樹。そして、この家。もしかして、東の里?」
「そうです。母さんの故郷の東の里です。おじいちゃんが母さんに会いたいというので連れてきました。」
「懐かしいけど、なんか恥ずかしいわね。」
「おじいちゃん、連れてきたよ~。」
「待ってよ、アトムちゃん。」
俺が母さんの実家に入ると母さんも着いてきた。
「おい、バカ娘! 何年ぶりだと思っているんだ!?」
「何年かしら?」
「何年なんだ?」
長命種エルフタイム。
時間の感覚が曖昧すぎる。
一瞬空気が悪くなったが、バカ親子で良かった。
「まあ良い。それにしてもお前の息子の魔力は凄まじいな。」
「アトムちゃんは自慢の息子だもの。上級魔法も使えるわよ。しかも、全魔法適性持ちよ。」
「それは凄いな。さすが儂の孫じゃ。」
「私の息子だから!」
「どっちも一緒ですよ。意味の無い争いは止めてください。」
「そうじゃな。そうなのか?」
「たぶん、そうなのよ。」
ほんとバカ親子。
「アトムちゃん、お菓子を出してちょうだい。」
「そうですね。積もる話もあるでしょうし、母さんはおじいちゃんとゆっくりお話ししていてください。僕は世界樹を確認してきます。」
クッキーと煎餅と紅茶を出しておいた。
「ところで、おじいちゃん。ここに来てからずっと気になっていたのですが、邪悪な気配を感じます。魔族を匿っていたりします?」
「うまいな。儂はしょっぱい煎餅の方が好きじゃな。って、魔族? そんなのおらんぞ。」
「アトムちゃんのクッキーはいつもおいしいわ。ん? 気のせいじゃない?」
2人はあてにならん。自分で調査しよう。
「じゃあ、良いです。世界樹を見てきます。」
エルフ達は、里に居ることが珍しいヒューマンと獣人に警戒しながら遠巻きに見ていた。
世界樹の根元までくるとその大きさに驚かされる。
幹の太さは直径で50mは越えてそうだ。
生命力が溢れ出し、肌がピリピリするくらいだ。
だが、邪悪な気配も強くなっている。
おそらく、ユグドラシル様もこの邪悪なやつに阻害されているのだろう。
ぐるっと幹に触れながら半周すると根元に
「これは、もしかしてダンジョン?」
『正解です。しかも、崩壊寸前です。』
全滅もあり得る。
「アトム様、どういたしますか?」
「行っちゃう?」
「待て。まずは長の意見を聞かなければ。勝手に入るわけのにはいかない。」
じいちゃんの家に急いだ。
里に戻ると村人たちの警戒は無くなっていた。
俺が長の孫である噂が広まったそうだ。
おばちゃんが話しかけてくるが、今はそれどころじゃない。
「昔、私は長の浮気相手だったのよ」という非常にヤバいことを言ってる人がいて気になってしまったが、今はそれどころではない。
孫としては聞きたくなかった情報ではある。
「おじいちゃん! 浮気して・・・。それじゃない。世界樹の根元にダンジョンが出来ていました。どうしますか? 崩壊寸前まで放置しないでください。」
「そうか。どうしようかね。人を集めるのには時間かかるし。」
呑気すぎる。
「アトムちゃんが見つけたのだから、アトムちゃんが攻略しちゃえば良いのじゃない。」
「そうじゃな。そうしよう。邪魔だから潰しちゃって良いぞ。」
いい加減な親子だな。
まあ、攻略するつもりだったし、良いか。
「じゃあ、行ってきます。サクッと潰してきます。」
すぐに我が家に戻り、探索の準備をした。
母さんは1週間ほど東の里でじいちゃんと過ごすそうだ。
10年分の親孝行をすると言っていた。
でも、お風呂に入りたいからゲートをつなげと。
それって、里帰りになるのか? じいちゃんも温泉に喜んでいるというので良いか。
ちなみに、ばあちゃんは亡くなっている。
それに、もしダンジョンから魔物が漏れてきても母さんが居れば駆除してくれるだろう。
母さんは元Bランク冒険者。
場合によっては、Aランクの父さんも呼べるだろう。
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