第43話 火の民と森の民

町はあまり大きくなく、裕福な町ではないようだ。

昨日、戦闘があったばかりなので、よそ者の俺たちは町民にとっては恐怖の対象でしかない。

そのため、先程声を掛けてきた隊長らしき男に連れられている。


「町への被害は無かったのですか?」


「ああ、大丈夫だ。町には一歩も入らせなかった。野盗ごとき、我々の敵では無い。」


隊長が持っている槍を鑑定してみると火魔法が付与されていた。

突き刺すと炎が出て対象を焼き払うらしい。

なかなか強そうな武器だ。


「強そうな槍ですね。」


「ああ、これか? この町の鍛冶師は火のエンチャント付与が得意でな。この槍にも火魔法が付与されているんだ。」


「僕にも売ってもらえますかね?」


「いや、ダメだな。うちの鍛冶師は頑固でな。火の民の儂らにしか売らないんだ。」


「残念です。」


まあ、俺は自分で作れるんだけどね。

その後、火の民のことやエルフの事を聞いた。

元々、火の民と森の民(エルフ)は仲が悪かったらしい。

先に火の民が火山を崇め、火山から少し離れた場所に町を築いた。

信仰の対象である山で暮らすなど以ての外だ。

しかし、エルフが火山の麓にある世界樹を崇め、その周辺に里を作った。

後から来た森の民が自分たちよりも近い場所に住んでいることが許せるわけがなく、度々争いがあったらしい。

だが、敵対していたとは言え、顔見知りのエルフが捕っているのを黙ってみていることは出来ず、野盗を討伐したということらしい。


「着いたぞ、ここだ。少し待ってろ。町長に話をしてくる。」


カリンは馬に水を飲ませ、エミリンはブラッシングしてあげている。

10分ほどして彼が戻ってきた。


「まずは町長と話をしてくれ。王都の状況を聞きたいそうだ。それじゃ、応接室に案内するから着いてきてくれ。」


応接室の扉を開けると椅子に腰かけた老人がいた。

対面の椅子に俺が座り、俺の後方にエミリンとカリンが並んだ。

獣人を差別している貴族もいるので知らない家に招かれた時はいつもこの体勢になる。

案内してくれた男は老人の隣に座った。


「まずはお互いの紹介からしようか。」


「儂は火の民の長、ホムラだ。」


「儂はホムラの息子のオボロだ。町を守る兵隊の隊長をしている。」


やはり隊長さんだったようだ。


「僕はアトム・ハリス。王命、いやユグドラシル様からの使命でエルフと世界樹を救う者です。」


「ハリス? 貴族様ですか?」


「一応、伯爵です。」


そこじゃなくユグドラシル様に反応してほしいのだが、エルフ以外では知られていないのかもしれない。

伯爵とわかった途端に態度が急変した。


「そんなに畏まらないでください。先程までの小僧扱いで十分ですから。自分でも爵位に未だしっくりきていないので。」


「じゃあ、そうさせてもらおう。それで、王都ではエルフの保護は本当に行われているのか?」


「はい。見せしめで奴隷としてエルフを隠していた貴族が爵位を剥奪され、お家取り潰しとなりました。また、エルフ狩りを行った盗賊が捕まり打ち首になりました。それだけ重罪です。」


「なのに昨日現れた野盗どもは知らなかったのか? あからさまに鉄格子のある馬車の荷台にエルフを捕らえていたぞ。」


「闇で売ろうとしていたのかもしれませんね。隠れて高額で買い取る貴族が居るのかもしれません。」


「それなら野党の親分を捕らえてあるぞ。引き渡すか?」


「そうしてもらえると助かります。では、早速王都の隊長さんに連絡してみます。カリン、連絡してくれ。」


「アトム様。サリー様が迎えに来てほしいそうです。」


「ちょっと失礼します。」


そう伝えて応接室を退出し、廊下に誰も居ないことを確認して王都へ転移した。

そして、サリー様を連れて戻った。

応接室に戻ると後ろからついてきたサリー様を見て驚く町長と隊長。

フルメタルの鎧を着た騎士が突然現れたら驚くよね。

俺だって驚くよ。

面倒なので説明はしないけどね。


「この件に関しては、王都騎士団団長のサリーが指揮する。良いだろうか?」


「はい! 仰せのままに。」


「サリー様、あとはよろしくお願いします。僕はエルフの里の状況を確認してきます。隊長さん、案内していただけますか?」


「はい!」


「では、私は野盗を拷問して口を割らすとしよう。アトム君、50本ほどポーションを頂けるかな。」


「程々にしてくださいね。」


床に並べられた50本のポーションが現れ、消えた。

俺が出し、サリー様が収納したわけだ。

それを見た町長と隊長が唖然としていた。


「町長、私を野盗のところに案内してくれ。」


「はい!!」


「隊長さん、僕たちも良い?」


「はい!」


応接室を出ると隊長さんが話しかけてきた。


「騎士さんは馬車で待機していたのか? それにポーションが急に現れ消えたがどういうことだ?」


「知らない方が良いと思いますよ。」


「え? そうなのか? それにしても騎士様は美しい方だな。」


「サリー様ですか? 第一王女様です。」


「はあああ? 何でこんな田舎に王女様がいらっしゃるんだ?」


「私が呼んだから?」


「ギャアアアア!」


「え! 何だ? 何があったんだ?」


「ああ、おそらくサリー様の拷問が始まったのでしょう。」


「何をされているのか気になるが、怖くて見には行けないな。おっと、そこの空き家でエルフ達が休んでいる。」


「ありがとう、隊長さん。」


町長の家の隣の空き家にエルフ一行が待機していた。


「こんにちは。私はユグドラシル様の命によりあなた達エルフを助けに来たアトムと申します。よろしくお願いします。それで、状況を聞きたいのですが、どなたか話を聞かせていただけませんか?」


「私は里で長をしていたトゥーリと申します。使徒様、よろしくお願いします。」


俺は使徒なのか? まあ、否定するのも面倒だから良いか。

20歳くらいの見た目の男だ。

だが、長ということは数百歳はいっているのだろうな。

長命種のエルフの見た目は当てにならない。


「生存者はここにいる者だけですか?」


「はい。あとは野盗どもに命を奪われてしまいました。」


ざっと老若男女合わせて30名といったところだ。


「世界樹はどうなりましたか?」


「切り倒され焼かれてしまいました。」


「これからどうしますか? 僕の故郷に世界樹の若木があります。その若木にはユグドラシル様が宿っています。そこまで護衛し送り届けることも可能です。」


「新たな世界樹を求めて旅をするには幼い子供が多すぎる。長旅はかわいそうだ。だから、ここで火の民とともに暮らして行こうかと考えている。」


「では、こちらに世界樹の種を蒔きましょうか? ちょうどユグドラシル様から預かった種を持ってます。」


「本当か? ぜひお願いしたい。助けてもらった火の民に恩返しをしないままでここは離れるのは忍びない。」


「どうでしょうか、隊長さん。」


「ちょっと町から離れてもらえれば問題ないんじゃないか? 町長に確認してみよう。」


「そうですね。じゃあ、一旦戻りましょう。」


隊長さんと先程の応接室へ向かった。


「親父、どうしたんだ? 顔が青いぞ。」


「サリー様。やり過ぎましたね?」


「ちょっと待ってくれ。私は一番生意気そうな態度を取ったやつの腕を折り、ポーションで回復してもう一度折っただけだぞ。何度も繰り返して折ってやろうと思っていたのだが、2回目で全部吐いたな。根性の無いやつらだ。」


「こわっ!」


「だから隣の奴に変更してやろうと思ったら、そいつがポーションの残りを聞いてきて。50本と答えたら、泣きながら命乞いをしていたぞ。それから目が合ったものが素直に依頼主やその先の購入者まで教えてくれた。」


「そりゃ怖いですもの。変な噂になりますから程々にしてくださいね。」


「それでアトム君。私は王都でやることが出来た。すまんが送ってもらえるかな。」


「はい、構いませんよ。町長さん、野盗どもを全員王都に送っても良いですか?」


「は、はい! どうぞ、連れて行ってください。」


トラウマにならないと良いのだが。


「まだ私にはやることがあるので、すぐに王都に向かいましょうか。」


「ありがとう。町長、世話になったな。」


「いえいえ。何のお構いもできませんで。」


町長の汗が凄いな。


「隊長さん。さっきの話を進めておいてもらえますか?」


「ああ、わかった。親父が正気に戻ったら話しておく。」


「お願いします。じゃあ、サリー様、行きましょうか。」


大人しくなった野盗どもをエルフが捕らわれていた檻の荷台に押し込み、サリー様を連れて王都へ転移した。

あとは専門家のサリー様に任せれば解決するだろう。

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