第4章 世界樹奪還作戦始動

第42話 いざ、北へ

「勇者よ!」


「いえ、錬金術師です。」


「そうだったな。一度やってみたかったんだ。」


ここは城ではなく俺の家だし。

しかも王様は寝巻きで欠伸しまくりだし、威厳は皆無。

全く締まらない。


「じゃあ、改めて。アトムよ! 世界を救う旅の成功を祈る。生きて帰るのだぞ。」


「はい。行ってきます。」


「無事に帰ってくださいね。」


「ありがとうございます、ソフィア様。」


「アトムちゃん、ちゃんとご飯を食べるのよ。」


「母さん、わかってるよ。それに転移で偶に戻ってくるから安心して。それじゃ、行こうか。エミリン、カリン。」


「「はい。」」


行き先は北。

遠くに見える火山の麓にあるエルフの里。

御者はカリンに任せ馬車に乗り込む。

危険な旅になるかもしれないのでバンを連れていくわけにはいかない。

エミリンはクッキーをボリボリ頬張り、ピクニック気分だが。


北への道をしばらく走るとだんだん暗くなってきた。

送り出されて数時間で戻るのはカッコ悪いし、今日は野営かな。

まあ、野営と言ってもテントを張るわけではないけどね。


「カリン。道を外れて野営できそうな場所に停めてくれ。」


「周囲は広い草原なのでここに停めますね。」


馬車は道を外れて草原に入り停まった。

外へ出ると周囲に何も見当たらない程広い草原だった。

周囲に魔物の気配もない。


「よし、今日はここで野営ね。よっこらしょっと。」


俺は工房に入れておいたログハウスを出した。

こちらの世界の家は、基本土魔法を使って建てるので土壁の家が多い。

なので丸太で組み上げたログハウスは珍しいらしい。


「いつの間にこんな家を作っていたのかしら?」


「ん? 昨夜だが。エミリンはテントの方が良いのか?」


「そうじゃないわよ。呆れていただけよ。家の方が快適に決まっているじゃない。もちろん、お風呂はあるのよね?」


「あるよ。まあ、広くは無いけどね。」


馬車は工房に収納し、馬は牛を放牧している草原で休んでもらった。

ログハウスに入ると地球の家電と似たような魔道具が並んでいる。

今いる3人以外で使う予定は無いので自重無しで作った。

フカフカのソファーに座り寛ぐとちゃっかりエミリンも腰掛けてくる。

カリンは真っ直ぐキッチンに向かい、晩御飯の準備を始めた。

3人のこんな生活がいつまでも続くといいなと思う。

ソフィアは美人さんだけど、やはり王女だし緊張するんだよね。

ソフィアには悪いけど、俺にはエミリンとカリンだけで十分なんだよな。

そんなことを考えているとエミリンが寄り添ってきた。

エミリンが甘えてくるのは珍しいな。

勘が良いから察したのかな。


「アトム、お腹減った。甘いのちょうだい。」


「はぁ。君にはガッカリだよ。」


「何よ! バカにしてるの?!」


「カリンが晩御飯作っているのが見えないのか? もうすぐご飯だから待ってなさい。」


テーブルの上に肉野菜炒めとスープが並んだ。

この短時間で作ったらしい。

手際も良いし、味も良い。

カリンは良い奥さんになりそうだ。

それに引き換えエミリンは。。。

やっぱり猫の血か。

気分屋だし、ツンデレ(デレ少な目)、そして嫉妬深いんだよね。

まあ、そこが可愛いのだが。


昨夜はあまり寝付けなかったので、今夜は早いが風呂に入ってゆっくり寛ぐことにした。


翌朝早くから馬車を走らせた。

王都から離れるにつれてだんだんと道が悪くなってきた。

この先には火の民と呼ばれる種族の町があるそうだ。

そこよりもさらに奥にエルフの里があり、世界樹があるらしい。


「前方に魔物がいます。」


御者のカリンから声がした。

それを聞いたエミリンは馬車のドアを開け放ち、飛び降りて駆け出す。

馬車に乗っているだけで暇を持て余していたエミリンは、あっという間に馬車を追い抜き魔物の元へ。

そして追い着くとエミリンが馬車に乗り込んでくる。


「ゴブリン3体だった。つまんない。」


しかし、徐々に戦闘が増えてきている。

3日目、最初の目的地の火の民の町が見えてきた。


「あれはドラゴンの像だよな?」


「そうですね。火の民は炎龍レッドドラゴンを祀っているそうですよ。」


「カリンは物知りだな。」


「王妃様とソフィア様にお聞きしました。そして、あの火山の火口には炎龍が棲んでいると伝わっているそうです。」


「なるほど。火の民にとってはあの火山は信仰の象徴というわけか。」


「なんか、警戒してないか?」


「何かあったみたいですね。」


「エミリン、大人しくしてないとダメだぞ。」


「わかっているわよ!」


町に近づくにつれて警戒が強くなり、槍を持った兵士が何十人もこちらを睨みつけている。


「あのー、旅の者ですが。何かあったのですか? 僕たちは町に危害を加えるつもりはありません。」


「エルフ狩りの野盗どもでは無さそうだな。」


隊長らしき人が話しかけてきた。


「エルフ狩り? 王命で禁止されたはずでは? まだそんな奴らがいるのですか?」


「ああ。昨日、エルフ狩りを終えた奴らがこの町に訪れたので撃退した。それで残党が仕返しにきたのではないかと警戒したのだ。」


「なるほど。僕たちは逆で、エルフを救うために王命でエルフの里を目指していました。」


「そうか。残念だが、もうエルフの里は無いそうだ。野盗どもが壊滅させたらしい。詳しいことは奥にいるエルフ達に聞いてくれ。」


「わかりました。では、町に入らせていただきますね。」


町の中央には4~5m程の大きなドラゴンの像があった。

さらに奥に町長の屋敷があり、そこに数十人のエルフが匿われているらしい。

俺達はエルフの里の状況を聞くために町長の屋敷へ向かった。


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