第39話 世界樹のお引越し

女子組は、この後王都で有名なカフェに向かうそうだ。


「エミリン、カリン。ソフィア様とジャスミンの護衛を頼んだぞ。」


「はい。カレンとマインも私から離れないようにね。」


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。アトムの防御魔法は異常だから。」


「エミリン・・・。一言多い。おやつ抜き。」


「冗談よ。えっ?! 本気??」


「俺は直接帰るからみんなは俺を待たずに家に帰って良いからね。」


俺は約束していた奴隷商へ向かった。


「アトム様、お待ちしておりました。」


12人の欠損奴隷が力なく横たわっていた。

耳を切り落とされている者もおり、エルフなのか分からない者もいる。

主人から虐待を受けていたのだろう。

全員、表情が暗い。


「じゃあ、行くよ。リカバリ! クリーン!」


身体の痛みが消え、無くなっていた手足が戻り驚いていた。

流石エルフ。男女ともに美形だ。


「これから君たちを世界樹のあるユグドラシルに送るが良いかな?」


「はい。助けて頂きありがとうございました。」


全員を連れて実家の庭へテレポートした。

すると家より大きくなった世界樹があった。


「成長速いな!」


連れて来たエルフ達も見上げている。

そして、跪き祈った。

ユグドラシル様が顕現する。


『やあ、アトムよ。ここは狭すぎる。このままではお前の家も巻き込んでしまいそうだ。移動したいのだが、手伝ってもらえるか?』


「ユグドラシル様、もちろんです。どうすれば良いでしょうか?」


『お前の工房に一旦収納してくれ。そして、町の外の北西に運んでほしい。そこに魔素が噴き出すポイントが現れる。そこから魔物が溢れるようになるだろう。その前にその魔素を世界樹の栄養にして浄化する。』


「了解しました。そんな町の側で魔物が溢れたら町が大変な被害を受けてしまいますね。よろしくお願いします。」


『ああ、任せておけ。今まで、お前の両親に世話になった。よろしく伝えておいてくれ。』


「わかりました。では、いきますね。収納!」


目の前にあった世界樹が消え狼狽えるエルフ達を置いてユグドラシル様に指示された場所へ向かった。


『もうちょっと右だ。そうそう、そのまま真っ直ぐ。そこだ! そこに出してくれ。』


そこは北と西の森の間にある広場となった草原だった。

工房から世界樹を出すとゆっくり地面に降り行き、根が地面に触れた瞬間に一気に根っこが潜っていった。

根がタコの触手のように動いている。

ちょっと気持ち悪い。

しばらくすると最初からそこにあったかのように定着していた。


『なかなか良い環境だ。これで気兼ねなく成長できるぞ。』


その言葉とともに爆発的に成長を始めた。

あっという間に雲まで届くほどの成長をとげた。

それを見た町のエルフが一斉に世界樹の周りに集まった。


「私たちはここにエルフの里を作ろうと思います。」


「ああ、構わないよ。父さんには僕から伝えておきます。」


エルフ達が住むための家をたくさん作り、世界樹を囲むように並べた。

今後、集まってくれたエルフさんにはここで暮らしてもらおう。

ところで町の外だが、魔物は大丈夫なのだろうか?

幼いころにこの辺りで狩りをしていた思い出がある。

しかし、今は魔物の気配が全くしない。

世界樹の影響だろうか?

実家に戻り、父さんに世界樹が引っ越ししたことを伝えた。


「そうか。このまま成長したらどうしようかと思っていたところだ。母さんからは日当たりが悪くなったと愚痴を言われていたしな。」


母さん、あなたもエルフなのだから世界樹を崇めなさい。


「父さん、北の森にも西の森にも魔物の気配が無かったのですが。何か知っていますか?」


「そうなんだ。最近、町の周辺から魔物の姿が消えたのだ。その代わりに野生動物が増えてきた。」


世界樹の恩恵だろうか?

イースの町と同じような状態なのかもしれない。

詳しいことをギルドで聞いてみるか。


「ちょっとギルドに状況を聞いてきます。」


「そうしてくれ。」


ギルドにテレポートし、ギルマスに話を聞いてみた。


「お前の家に不思議な木が生えてから町周辺の魔物が減り始めたんだ。今では周囲の森にも魔物がいない。丁度そこに居た冒険者の話では魔物が蒸発するように煙になって消え、魔石だけが残されたと言っている。」


「世界樹の影響ですね。恐らくですが、ユグドラシル様の聖なる力が働いて魔物が浄化されたのでしょう。」


「町としては魔物が消え安全になって良かったのだが、冒険者としては魔物を狩る仕事が無くなってしまった。それで、この町にいた冒険者は北の町に移動し、ダンジョンで狩りをしているんだ。」


「なるほど。それなら世界樹を移動して良かった。もうじき魔素が噴き出し、魔物が溢れ出すところだったんです。魔物がいなくなった反動ですかね。でも、世界樹が魔素を吸収してくれたのでもう安心です。」


「今、ものすごく重要なことを言ったことに気付いているか? 町が危険だったということだよな? そういうことはすぐにギルドに報告するように!」


「はい、すいません。」


そこで再び世界樹の前に転移し、ユグドラシル様に確認してみた。


『吾が宿った世界樹だぞ。特別に決まっておる。だから、この木を中心に10km圏内は聖域となった。魔物は浄化されてしまうから近づけない。さらに成長すれば聖域の範囲は広がっていくだろう。』


町を含めて安全な領地となったと言うことか。

ということは、町の外に畑を作っても襲われることはないと言うことだな。

早速、父さんに報告だ!


「父さん! 世界樹を中心に10km圏内が聖域になったそうです。ですので、町の外も安全になりました。町の外にも畑を作りましょう。」


「農地を増やせるのは良いことだな。エルフ達が増え食糧問題をどうしようか悩んでいたところだ。お前の作った種であればさらに収穫が上がるだろう。よし、町に余っている労働力を使って開墾するぞ。アトムには種の提供を頼む。」


「わかりました。庭の野菜も丁度収穫のタイミングですし、農家の方々を呼んで僕の種を植えてもらいましょう。」


しばらくして町の農民と仕事の無い冒険者やエルフ達が集められた。


「集まってくれてありがとう。君たちには町の外に畑を作ってもらいたい。もちろん、開墾した土地は開墾したものに所有権を与える。そして、そこにはこの野菜の種を蒔いて欲しい。まあ、味見をしてくれ。」


冷やしたトマトやキュウリ、白菜やキャベツ、大根を生で出した。


「領主様、待ってくれ。生の野菜は、苦いし渋いし食べられないぞ。冗談ですよね?」


「騙されたと思って食べてみてくれ。」


「えっ?! 本気ですか? 本当に騙しているとしか思えないのですが。」


「お前らうるさいぞ。領主様がおっしゃっているのだからさっさと食え!」


小麦のテスト栽培をお願いしていたゴンさんが先陣をきって食べてくれた。

もちろん、ゴンさんには確信があった。

自分の畑の小麦が豊作だからだ。


「う、うまい! 苦みなんか無い。甘いぞ! これで収穫量も上がるのだろ?」


「もちろんだ。うまくてさらに儲かるぞ。」


「私に新しい種を下さい!」


「うまい! 俺にも種を分けてください。」


「「俺にもお願いします。」」


「さらにこの鍬を貸し出す。この鍬で耕すとさらに収穫が上がるぞ。」


庭師エイジに渡していた豊穣の鍬をコピーして大量生産し父さんに渡しておいた。

それから町では養鶏、酪農も行われるようになった。

もちろん、果樹園も作った。

そして、元ハリス領はポーション発祥の地から世界樹の町となり、さらには農業で国を支える農業大国、領内の食糧生産地として発展した。



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