第38話 王都の市場へ

「アトム君に頼みがあるのだ。元料理長のゴンザレスに君の料理を教えてやってほしい。あれからあの料理を作った料理人に弟子入りしたいと毎日懇願されるのだ。儂としても王城で君の料理と同じ味が楽しめるのは有難い。」


いつの間にか、王家の皆さんから君付けで呼ばれるようになった。

それは置いておいて、どうやらゴンザレスさんが俺を探しているようだ。

彼は牢屋で物凄く反省し、そして俺の作った料理の信者と化ししまった。

それで王の慈悲で解放された。

それから王の顔を見るたびに俺を紹介してくれと懇願するそうだ。

俺は、まもなく旅に出る予定なので我が家にも料理人を育てなければと思っていたところだった。

1人も2人も変わらないか。

それで俺が料理教室を開催することになった。

我が家からは新メンバーの中に居る料理人カレン、実家のメイドだが職業が料理人のマイン、そして元料理長ゴンザレスの3人が生徒だ。

授業は明日からにし、今日は王都の食料事情を探ることにした。

せっかく料理を教えても食材が手に入らなければ意味がない。

それで市場で調査することにした。

俺は王都に来て数週間経っているのだが、未だに王都の街を散策していなかった。

なんだかんだでいつも忙しい。

ていうか、王城にほぼ毎日のように呼び出しをくらっている気がする。

一旦、家に戻って支度をするか。

テレポートで我が家の庭へ戻るとジャスミンが駆け寄ってきた。


「アトム君! ポーション出来ました! でも、すっごく不味いんです・・・。」


「ああ、その後に不味い成分を抽出して美味しい味付けをするんだ。そこからは錬金術でしか無理だからね。それにしても自力でポーションを精製するなんてすごいね。おめでとう。」


「うん、ありがとう。ポーション作製は目標だったから完成してうれしい。次は何に挑戦しようかしら。」


「これから市場に行くんだけど、一緒に行く?」


「はい。行きます!」


「私も同行致しますわ。」


背後からソフィア様の声。

いつから居たのだろうか。


「じゃあ、10分後にリビングに集合で。」


『カリン。カレンとマインをリビングに連れてきてくれ。王都の市場に連れていく。』


『了解しました。』


10分後にリビングへ行くとソフィア様が村人風の洋服に着替えて待っていた。

ははーん。これは頻繁に城を抜けだして街に遊びに行っているな。

サリー様が苦労しているんだろうな。

そして、何故か呼んでいないエミリンまで居る。


「アトム。お姉ちゃんに内緒で美味しいものを食べに行くつもりね。許さないわよ。」


「市場に食材を見に行くだけだよ。それにカレンとマインに俺の料理を本格的に教えようと思ってね。まずは食材選びからだ。」


「ふーん。まあいいわ。暇だから私も行くわ。」


まあ、何かあってもエミリンの強さなら問題無いし良いか。


「それじゃ、カレンとマイン。メモ帳を渡しておくからちゃんとメモして覚えるように。」


B6サイズのノート型メモ帳と鉛筆を2人に渡した。


「アトム様。それは何ですか?」


「メモ帳と鉛筆ですが?」


「そうでは無く。それは紙ですか? この国の書物や書類は羊皮紙が基本なのです。そんなに薄く白い紙は無いのですよ。それに鉛筆とは何ですか?」


「これは木の繊維で作った紙です。鉛筆は、紙に文字を書く道具ですよ。炭に粘土を混ぜて作りました。」


「インク以外に書く道具があったのですね。その紙は、このぐらい(A4サイズ?)で作れますか? 鉛筆もお願いします。」


「はい、出来ますよ。じゃあ、市場から帰ったら渡しますね。」


恐らく書類に使いたいんだろうな。

羊皮紙は、高いし臭いし重い。

文字は羽ペンでインクを使うのだが、滲むしなかなか乾かない。

でも、書類の鉛筆書きは社会人として許せないのでボールペンを作ってあげようと思う。

あれ? メモ帳を渡した2人が戸惑っている?

あっ! 識字率!


「もしかして、2人とも字が書けないのかい?」


「「申し訳ございません、ご主人様。」」


「いや、俺が悪かった。これからはみんなで字の練習もしよう。」


メモ帳を回収するとソフィア様とジャスミンが欲しそうにしているので渡した。

2人とも紙の肌触りと鉛筆の書きやすさに感動していた。

もちろん、貴族の2人は教育を受けているので文字の読み書きは完璧だ。


それから全員に防御魔法のプロテクトをかけた。

いつもより強めにかけたので半日は維持するだろう。

これでトラックがぶつかっても逆に粉砕するレベルに防御力が上がっているはずだ。

そこいらのチンピラが絡んできても平気だろう。

遅くなってしまうのでそろそろ市場へ向かう。

2度行ったことのある奴隷商の側にテレポートした。

すると後ろから声を掛けられた。

奴隷商の主人に見られてしまったが、上級魔法を見せているしまあ良いか。


「アトム様! 丁度良かった。重度なケガをした元奴隷のエルフが多数おります。申し訳ございませんが、後程治療して頂けると助かります。」


王が出したエルフ救済法令で貴族が手放した奴隷の中にケガで自力ではユグドラシルに向かえない者たちが奴隷商に引き取られたそうだ。

もちろん売買は禁止されているのでできない。

あくまでも保護という名目で預かっている。

後で来ることを約束し市場へ向かった。


市場手前にある八百屋の前でソフィア様が立ち止まった。


「おばちゃん、こんにちは。」


「あら、ソフィちゃん。久しぶりね。」


するとおばちゃんは店の奥にいた男の子に目で合図した。

男の子は一目散に兵士さんいる派出所に向かった。

なるほど。街の人たちはソフィア様を認識していて、そっと見守っている感じなのだな。

愛されているじゃないか、ソフィア様。


「今日は何か欲しいものはあるのかい?」


「今日は彼に王都を案内しているの。」


「そうかい。デートだね。ウフフ。」


「もう! おばちゃんったら。」


ん? キノコ類がたくさん並んでるな。


「そのキノコを全部ください。」


「兄ちゃん、気前が良いね。銀貨1枚ね。おまけにこれも付けてやるよ。初めて入荷したものだが、匂いが強いんだ。毒は無いし、食えるとは思うのだが。」


おまけにもらたものはマツタケだった。

有難く頂いた。

購入したキノコは、シイタケ、しめじ、マイタケ、なめこ、エリンギ、えのき等、様々なキノコが混ざっていた。

渚なら量産してくれるだろう。

他にも地元にはなかった果物類も陳列されてあったので片っ端から購入した。

マツタケのお礼にたくさん購入しましたよ。


「珍しいものがあったらまた買いにくるよ。」


「あっ! 珍しいと言えば、この甘い植物はどうだい? 齧ると甘い汁が出るんだ。」


サトウキビ!

今まではサトウダイコンから砂糖を精製していたが、これからはサトウキビから作れる。

流石、国の中心の王都にある商店だ。

珍しいものがたくさんある。

後で知ったのだが、この店は王都で一番の八百屋で、国中から仕入れているそうだ。

ユグドラシルで品種改良された野菜が取れるようになったらここに卸すことにしよう。


それから市場に向かった。

市場にも王都近郊で採れた野菜や果実が並んでいた。

もちろん、片っ端から買いあさった。

大麦とホップも見つかった。

これでビールも作れるな。

また、細長い米やもち米もあった。

資金はいくらでもあるし、次々と購入。

すると隣にいたソフィア様が睨んでいることに気付いた。


「アトム様。個人的においくら所持されているのですか?」


ヤバい。ソフィア様が経理の目になっている。

査察官のようだ。


「これは冒険者をしているときに魔物を倒して集めた素材などを売って得た個人資産だから気にしないで良いよ?」


「で? おいくらですか?」


こ、怖い・・・。


「金貨100万枚ほど?」


「国家予算に匹敵する額じゃないですか! 100枚残して全て没収します。」


「えええ! ひどい。」


まあ、また稼げば良いか。


「アトム君。そこの角を曲がったところに薬屋があるのですが、覗いても良いですか? 新作が出ているか確認したいのです。」


「構わないよ。」


ジャスミンの案内で薬屋に向かった。

すると薬屋で俺がずっと探し求めていたものが見つかった。

まさか、薬として売られていたなんて。

名前しか聞いたことが無く、また形状や特徴が分からず、魔力で召喚することができなかった物だ。

クミン、コリアンダー、ターメリック、ナツメグ、シナモン、ローリエ。

そう! 俺はカレーを作りたいのだ。

早速、渚さんに具沢山カレーをオーダーした。


その後、市場に戻り海産物を見つけた。

海まで遠いため、干し物になるがワカメ、昆布、煮干し、カツオ節を手に入れた。

落ち着いたら港町へ行って新鮮な海産物を食べたいな。


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