第37話 暗殺計画失敗

新しい従業員の歓迎会も兼ねて盛大に焼肉パーティを開催した。

王様、王妃様、王女3姉妹もいる。


「初めてだよ。外で肉を焼いて食べるなんてことしたことが無かった。それにこのタレが旨いわ。」


「サンドラ様は引きこもりだからでしょ。」


「そんなことない。野営の時じゃなければ外で食事などしない。特に王家は何かと危険だからな。」


「サリー様もいっぱい食べてくださいね。」


「ありがとう。頂いているぞ。悪いがパーティの後でちょっと話がある。」


「了解しました。」


パーティ終了後、リビングに王家一同が勢揃いした。


「それで話しというのは?」


王様が口を開いた。


「今月、第一王子ジョンソンの15歳の誕生日がある。それで第2王妃のマリアンが動き出したようなのだ。恐らくだが数日以内に私たちは襲われるだろう。」


「それは穏やかじゃありませんね。」


「そこでアトム君に力を貸して欲しい。三日後に開かれる食事会で全員が一堂にかえす予定だ。そこが一番危険だと考えている。」


「なるほど。それで私は何をすれば良いですか?」


「向こうがどう出るかわからないから、部屋に潜伏し待機していてもらえないだろうか。今回はエリザベス母様だけでなく、全員を狙ってきそうなのだ。」


「わかりました。」



そして、3日後に予想通りマリアンが動いた。

家で待機していた俺の元にサリー様から念話が来た。


『お母様が動いた。どうやら料理に毒を盛っているようだ。さっきから料理長の目が泳いでいる。私の部下を部屋の外に待機させているが応援を頼んでも良いだろうか?』


『もちろんです。』


テレポートで食事会場へ飛んでシャドーで影に潜んだ。


『サリー様の隣におります。』


そっとサリー王女の肩に手を置いた。

サリー王女はピクっとしたが、冷静を装った。


『王様、王妃様、サンドラ様、ソフィア様。僕がお部屋に潜伏しておりますので安心してください。』


サンドラ様が俺を探してキョロキョロし始め挙動不審になった。


『サンドラ様、バレますよ! 落ち着いて。』


マリアンにバレないようにサンドラ様が小さく頷き深呼吸をして落ち着きを取り戻した。

すると料理長によって料理が運ばれてきた。

野菜炒めと何かの肉のステーキだった。

鑑定してみるとやはり野菜炒めに毒が入っていた。

テーブルに置かれた瞬間に俺は自分が作った料理とすり替えた。

俺の料理は、オーク肉のソテーと回鍋肉だ。


『やはり料理に毒は入っていたので僕の料理とすり替えました。安心して召し上がってください。』


マリアンの料理を毒入りにすり替えても良いのだが、人殺しをするのは寝覚めが悪いので下剤を料理に振りかけておいた。


「それでは頂こうか。」


王様の掛け声で食事会が始まった。


「旨い‼ なんて旨いんだ! 濃厚な味とピリ辛が素晴らしい。」


『ちょっとサンドラ様。バレるじゃないですか。落ち着いて下さい。』


「確かに旨い。初めての味だ。肉と野菜のバランスが素晴らしい。」


「わっははは。呑気に味わっている場合じゃないぞ。お父様、後は私にお任せください。」


「何を任せるのだ? 半人前のお前に。」


「この国をですよ。あなたに代わって私がこの国を治めます。あなたは毒に侵されて間もなく死ぬ運命なのです。」


そんな重大な話をしているというのに呑気な女性4人は回鍋肉に夢中である。


「そんなに美味しいのかしら?」


流石に旨そうに食べているのを見てマリアンは気になってしまった。

私の料理には毒を入れるなと料理長に指示しておいたし大丈夫でしょう。

そして、どうしても気になってしまい、料理を口にしてみたがいつも通り不味くは無いがというレベルの味だった。

なんなのかしら? おそらく、毒で舌がおかしくなったのねと自己解決した。


「儂は死なんぞ。そもそも毒を食らっておらんしな。お前たちは前回エリザベスを毒殺しようとしたんだろ? 対策くらいすると思わんのか? そこまでしか考えられない浅はかなところがお前を半人前と言う理由だ。」


「私の作った料理じゃない! いつすり替わったんだ?」


「何ですって! あら? お腹が痛くなってきたわ? まさか! あなた、私の料理にも毒を入れたんじゃないわよね?!」


「いいえ。私は御指示通り、王子様とマリアン様の料理には毒を入れておりません。」


「料理長よ。まあ、この野菜炒めを食べてみろ。」


「う、うまい! なんだこの奥深い味わいわ。こんな料理初めてだ! 王様、この料理はどなたが作られたのですか? 私はこの料理を学びたい!」


「残念だが、それは無理じゃな。儂を殺そうとした罪を忘れたか?」


「やつのハンバーグは、神!」


「生姜焼きは何度食べても飽きないな。」


「私はティラミスが好きよ。」


「その料理はどんな味なのだろうか・・・。さっきの料理と同様に旨いのだろうな。一口しか食べていないのにこの満足感と幸福感。ああ、食べてみたい。私は腕を切り落とすと脅されて仕方なく・・・。」


「残念だったな。牢屋で反省しろ。料理長を捕らえよ!」


サリー様の指示で廊下で待機していた兵士が雪崩れ込んできた。

あっという間に料理長が取り押さえられた。


「私は、マリアン様の指示で仕方なくやっただけなんだ! ああ、その料理を作ってみたい・・・。」


「何を言っているのかしら? 私はそんな指示をしていませんよ。それよりお腹が痛いですわ。本当に毒じゃないのかしら。」


「そんなことで言い逃れができると思っているのか、マリアン。さっきから自分で白状していることに気付いていないのか? 王の暗殺は重罪だ。マリアンとジョンソンを牢屋に。」


「「はっ!」」


「マリアン王妃様はトイレを経由した方がよろしいかと。料理には下剤が入っていたみたいですよ。」


俺は兵士に紛れて姿を現した。


「フフフ。ありがとう、アトム君。私の仇を取ってくれたのね。マリアン、早くトイレに行かないと漏らすわよ。アハハ。」


「クッ! エリザベス! あっ、・・・。」


「「臭い!」」


一同、苦笑い。


「僕がいなくなったらこの国は終わるぞ! 跡継ぎは僕だけなんだぞ!」


「婿を取れば良い。我が家には3人も娘がいるからな。しかも、全員未婚で婚約者すらいないのだ。ところで、アトム君はどうかね?」


「私に振らないでください。」


「ちょっと待ってください、お父様! アトム様と最初に婚約を宣言したのはわたくしです。」


「そうだったな。しかし、姉二人も満更でもない感じだぞ?」


「私よりも強い男でなければ結婚などありえん。そう言えば、アトム君は私よりも強かったな。」


「アトム君のご飯は旨い! わがままもきいてくれる。研究の話を聞いてくれる。最高!」


「お姉さま!! 絶対に渡しませんから!」


「アトム君も大変ね。ウフフ。」


「私にはユグドラシル様から授かった使命がありますので1週間後には旅に出ます。聖剣が現れたということはきっと勇者がそのうち現れますよ。」


「ユグドラシル様とは?」


「世界樹に宿る精霊様です。世界樹とエルフを救えというお告げがございました。世界樹が滅ぶとこの世界が終わるそうです。」


「この世界が滅んでしまっては元も子もないか。アトム君には世界を救ってもらわなくてはならんな。」


「王様にはエルフの保護と世界樹の情報集めをお願いします。」


「ああ、約束しよう。」


そして、王はすぐにエルフの奴隷からの解放、保護を国中に発令した。

さらにエルフの里を襲った者は重罪として打ち首を宣言した。

エルフを奴隷として売買を行った奴隷商人も同様だ。

既に奴隷として所有していた貴族の中には隠す者もいたが、見せしめに全財産、爵位を没収し、お家取り潰しとした。

それから保護されたエルフは、ハリス領ユグドラシルへ送り届けられた。

元のエルフ里に戻りたいという者は里まで護衛した。

エルフたちの情報から里の位置や世界樹の位置が特定されてきた。

その情報を元にアトムの行き先が決まった。


ちなみに王の暗殺を企んだ親子2人は国外追放となった。

貴族として何不自由なく育った第2王妃と王子が平民として暮らすことは困難だろう。

しかし、護送中にあまりにも態度が悪く、護衛をしていた兵士や冒険者の反感をかってしまた。

それで国境を過ぎてすぐの森の中に身包みを剥されて、捨てられたらしい。

魔物のいる森なので生き残れたかは分からない。

その後の消息は不明だ。


料理長に関しては犠牲者でもあるので、牢屋で反省させた後で下っ端からやり直しを命じた。


そして、俺から王様とエリザベス様にはオークジェネラルの金〇から作った男児だけを身籠る精力剤をそっと渡しておいた。

温泉で若返った夫婦の奇跡に期待しよう。




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