第3章 王都へ

第25話 王都へ

ダンジョン攻略から数日が過ぎ、とうとう王都へ旅立つ日が来てしまった。

約束通りサラ母さんからカバンにぎゅうぎゅうに詰め込まれたウルフの干し肉を持たされた。

はぁ~。テレポートですぐに戻って来れるし、携帯食はいらないんだけどな。

でも、サラ母さんの優しさを無下にできないし、持っていくけどね。


馬車の御者にバン。

残りの従業員とサラ母さんはお留守番だ。

父さん、母さん、エミリン、カリンと俺の5人が馬車に乗り込む。

よし、出発だ。

まずは最近ずっとお世話になっているダンジョンのある北の町へ馬車ごとテレポート。

これで1日半の短縮になる。

北の町には王都に通じる街道がつながっている。

その街道を王都のある東に向かう。


「父さん、今日はどこまで移動するのですか?」


「この馬車なら途中に休憩を挟んでも次の宿場町のイースに着くだろう。通常は途中で野営するのだがな。」


「そこには何か見物するところや名物はあるんですか?」


「特には無いかな。宿がメインの町でとてものどかな土地だ。」


「そうね。確かにのどかだわ。あの町の周辺には魔物がいないの。そのかわり野生の動物がたくさん暮らしているわ。魔物ではない野生の動物のお肉が食べれるのが名物よ。」


「それは不思議ですね。魔物以外の肉も楽しみです。」


皆でサラ母さんが作ってくれた干し肉を噛み噛みしながら馬車の旅を楽しんだ。

5人乗ってもゆったり広々スペース。

トイレもあるし、揺れないし、快適すぎる。

他の貴族に知られないように注意しなければ。

バレたら確実にトラブルに巻き込まれるだろう。

他人に作ってあげる気なんてサラサラございません。

日が傾くころに目的の町イースに到着した。


「それじゃ、帰宅しますか。」


「え? せっかくここまで来たのに家に戻るのか?」


「はい。明日はイースからの出発になります。」


「へ? どういうことだ? テレポートでイースに戻って来れるということか? 宿にも泊まらず、野営せず自宅で寝れるということなのか。こんなに快適かつ楽で良いのだろうか?」


「良いのですよ。僕が息子として生まれた特典だと思ってください。」


翌日、イースの町を散策することになった。

確かに小さな町で、宿屋が数件と市場ぐらいしかなかった。

俺は新たな食材を求めて朝市へ向かった。


『あの生きている鳥を全て買い占めてください!』


「え? どうしたの、渚? あの鳥肉がうまいのか?」


『あの鳥はニワトリの祖先です。そういうわけです。』


「なるほど。養鶏ができるってことだね。安定した鳥肉と卵は確かに重要だ。」


『そういうことです。』


「ちなみに、今まで卵ってどうしてたの?」


『野鳥の卵か鳥人族の無精卵を頂いてましたよ。』


ここで新たな事実が判明した。

手元に無い食材は魔力で錬成していたと聞いていたが、どうやら正確には魔力を使って召喚していたらしい。

だから、この世界に存在するものしか手に入れられなかったというわけだ。

鳥人族さんの卵か。。。

なんか、ごめんなさい。


『鳥人族は基本的に記憶力が悪いので、どこいっちゃったかしらと探しているうちに何を探していたか忘れてしまっています。だから気にしなくても大丈夫です。』


重ね重ね渚がごめんなさい。

心で鳥人族の方々に謝罪した。


「おじさん。そこの生きてる鳥を全部ください。」


「兄ちゃん、鳥肉がそんなに好きなのかい? 10羽もいるけど、全部で良いのかい?」


「はい、全部でお願いします。」


「あいよ! じゃあ、絞めるからちょっと待ってな。」


「おじさん、待って!! 生きたまま欲しいんだよ。新鮮なまま持ち帰りたいんだ。殺さないで!」


「暴れるぞ?」


「大丈夫です。」


物干し竿のような長い棒に生きたまま足首を縛りつけられ吊るされていた鳥を10羽購入し、そのまま渚が準備したニワトリ専用工房へ収納した。

亜空間に消えていった鳥たちを見て驚くおじさんを残して次の店に移った。

雄1羽、雌9羽だったそうだ。


他にはたくさんの野菜が売っていたが、特に目新しいものは無かった。

その後、市場を進むと端の方で綿を売っているおばちゃんがいた。

布団には綿を使っているわけだから綿が売っていても不思議ではない。


『右上の袋に入っている綿を購入してください。』


「おばちゃん、そこの綿をください。」


「あいよ。10銅貨ね。」


布団一枚分はありそうな綿の塊が10銅貨だった。

思ったよりも安い。


『その綿の袋の中には綿花の種が混じっていたんです。これで綿を増産できますよ。』


これでフカフカのお布団も作れるし、綿の布も作ることが出来るぞ。

ゴワゴワな洋服ともおさらばだ。

こちらの世界には綿から糸を作る技術が無い。

おかげで洋服はクモの糸か何かの繊維を使ったゴワゴワの服なのだ。

動物の皮をなめした原始人が着ていそうな服よりはマシだが、やはり着心地は最悪なのだ。

ちなみに出会った時のカリンは、この動物の皮の布を着ていた。


『近くの森の中に乳牛の祖先になる牛がいますけど、捕まえておきますか?』


「もちろんだ。ちなみに牛乳は今までどうしていたの?」


『もちろん、牛人族の母乳ですよ。』


「やっぱりか・・・。」


乳牛の祖先も確保し、一面に牧草が生えた牧場工房へ放牧した。

豚の祖先の猪も居たらしいが、オーク肉で十分なので捕獲しなかった。

そして、何かに導かれるように藪をかき分け進んでいくと池に出た。

池の畔には小さな祠があった。


『やあ! ここに人間が来るなんて何十年ぶり? いや何百年ぶりかな?』


妖精か? 祠からスーッと出てきた20cm程の小人のような少年が声をかけてきた。

驚いて声が出ないでいるとまた話しかけてきた。


『反応無しかよ! オ~イ。生きてますかぁ~?』


「はっ! あなたはどなたですか? ここは何なのですか?」


『僕は妖精的なものだよ。そして、僕のおかげでこの池の数十km離れた場所まで聖域になっているんだ。だから、魔物が寄り着くことが出来ないんだ。凄いだろ?』


「だからここでは野生の動物が暮らしていけるのですね。」


『そういうことだ。崇めたまえ。』


「村長さんに伝えておきます。」


『そうしてくれ。お供えも忘れるなと言ってくれよ。神に選ばれし人の子よ。ここで会ったのも何かの縁だろう。僕からの贈り物を受け取っておくれ。じゃあな。』


セレクトバリア選択結界を獲得しました。空間魔法に取り込みました。』


セレクトバリア: 結界内の出入りを制限する。許可したもの以外は排除する。


新たな魔法を得た。

魔法をもらった恩があるので俺は約束を守り、村長に祠のことを伝え今後崇めるように依頼した。

もちろん、お供えも忘れずに伝えたよ。


聞き流していたが、気になることを言ってたな。

選ばれし者?

ダンジョンマスターもそんなことを言っていた気がする。

どういう意味だろうか?

やはり俺には何か使命があるのかもしれない。

気になるな。誰か教えてくれ!


『気にしても仕方ないですよ。』


はあ。誰も教えてくれないんだよな。


昼を過ぎてしまったが、旅を再開するために家族を迎えに家に戻ってみた。


「今日は面倒くさいからアトムだけで進めてきて。」


テレポートが使えるのでいつかこんな日が来るとは思っていたが、2日目でかよ。

仕方ない。一人で行くか。


「バン。御者を頼むよ。」


「もちろんです。では、行きましょう。」


バンは優しかった。

バンにも拒否され、歩くことになるのではないかと心配してしまったよ。

それから日が沈むまで馬車を進めた。


3日目、隣の領主がいる町バイカルに着いた。

流石に通り抜ける訳にも行かず、両親と俺で領主宅へ挨拶に訪れた。


「ようこそ、ハリス伯爵殿。」


「久しぶりだな、バイカル男爵。紹介するよ、息子のアトムだ。」


「初めまして、アトス・ハリスです。」


「君がカイザー殿が毎回自慢するアトム君か。」


「え? 父さん、何を自慢したんですか?」


「まあ、良いではないか。お前は俺の自慢の息子なのだから。」


うーん。悪い気はしないが、恥ずかしいな。


「今日も我が家に泊まっていくかな?」


「いや、急ぎでな。なるべく先を急ぎたい。このまま王都に向けて走るよ。」


「それは残念だな。アトム君、次回はゆっくり話を聞かせてくれ。」


「わかりました。では、失礼いたします。」


ボロが出る前に逃げよう。

ということで先を進めることにした。

ちなみにこの町は我が故郷ハリスよりも小さく特別なものも無い。

素通りで十分だ。

夕方前に次の宿場町に辿り着き、本日終了。

それで我が家のリビングにて。


「この調子だと明日にはバイカル男爵の領地を抜け、王都の領地内に入るぞ。」


「そうですか。王都に着いたらどのようなスケジュールになるのですか?」


「まずは俺の実家に行く。お前のおばあさんに当たる俺の母親と兄の家族が暮らしている家だ。俺はいつもはそこに泊まって王城へ通っていた。」


「おばあさんや伯父さんに会うのは初めてですね。」


「それとお前と同じ歳の娘が居て、名前はジャスミンだ。その子と一緒に翌日の朝から王様に挨拶に行く予定だ。その日の夜は食事会に招待されると思う。」


「なるほど。では、私が用意しましたタキシードとドレスで行きましょう。」


「何? 俺の服も作ってくれたのか? それは素晴らしい。」


スーザン母さんにドレスを渡すと上機嫌で部屋に着替えに行った。


「この服、肌触りが最高だな。柔らかくツルツルしているぞ。」


「これはダンジョンで手に入れたフォレストキャタピラーの糸で作った布で作りました。」


「なんだって! 高級品じゃないか。お前は相変わらず凄いな。」



翌朝、朝からドレス姿の母さんが居た。

気に入ってもらえたみたいで嬉しいけど、まだ早いだろう。

綿も手に入ったし、普段着も作ってあげようと思う。

そして、昼過ぎには王都へ到着した。



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