第26話 伯父さん宅へ初めての訪問

王都は10mはある高い城壁に囲まれていた。

そして、王都に入るには門で厳しい検査が行われる。

それはこの街の中心には王城があり、王様が居るからだ。

よって、門の前には順番待ちをする長蛇の列ができる。

我が家の馬車は、その長蛇の列を横目に貴族専用の豪華な門を待ち時間なしで通り抜けた。

まさに格差社会を感じる。


「バン、そのまま真っ直ぐ進み、王城の左側を周るように進んでくれ。」


「はい。旦那様、畏まりました。」


正面に王城が見えてきた。

予想していた以上に大きく綺麗な城だった。

街には人が溢れ、この国の中心の街であることを象徴していた。

馬車は城の手前で曲がり、城を左回りに進んだ。


「次の交差点を左で、突き当りまで進んでくれ。」


王都の城より北側半分は貴族区になっている。

貴族区には貴族以外の立ち入りが禁止されており、許可なく侵入した平民は切り捨てられても文句が言えない。

さらに城に近いほど地位(爵位)が高い貴族の屋敷がある。

そして、南側は商業区と平民の居住区になっている。

父さんの実家は男爵家なので城から離れた壁の近くで、さらに平民区に近い。


「ここだ。バン、玄関に馬車を着けてくれ。俺たちが降りたら屋敷の裏に馬小屋と従業員の宿舎があるからそこで休んでくれ。」


「了解しました。」


玄関には伯父さんと伯母さんが居て、出迎えてくれた。


「お帰り、カイザー。」


「ああ。ただいま、兄さん。それと久しぶりだね、イザベラ姉さん。」


「ええ。お久しぶりね、カイザー。元気そうで何よりよ。それと素敵なドレスね、スーザン。」


「はい、ありがとうございます。お姉さま。」


ああ、このために母さんは朝からドレスを着ていたわけか。


「また、少しの間お世話になるよ。それと俺の息子のアトムだ。」


「アトムです。よろしくお願いします。」


「君がアトム君か。私はカイザーの兄、君の伯父に当たるカルロスだ。カイザーが毎回自慢するから初対面の気がしないな。」


「お恥ずかしい。父さん、止めてくださいって言ってるじゃないですか。」


「ポーションに革命を起こしたんだ。お前は素晴らしいことを成し遂げたんだぞ。自慢の息子なんだから自慢させてくれ。」


「まあ、玄関で立ち話も何だし、入ってくれ。」


リビングでエミリンとカリンを紹介していると少女が登場した。


「紹介するぞ。我が娘のジャスミンだ。」


「初めまして、ジャスミン・ハリスです。お見知りおきを。」


「こちらこそ、初めまして。アトム・ハリスです。」


「ところで、あなたがあのポーションを開発したらしいわね。レシピを渡しなさい。」


「へ?」


なに? 何なんだ、この子は。何様だ?


『ジャスミンは人見知りでコミュ障なのです。だから、どう会話して良いのか分からず混乱し、命令口調になってしまったようです。ものすごく後悔しています。彼女の職業は薬師で、ポーションの作製にとても興味があるようです。』


「レシピは簡単なので教えても構いませんが、僕はスキルで錬成しているのでスキルなしでポーションが作れるかは分かりませんよ。」


「そうなのですか。わかりました。では、明日はご一緒致しますのでよろしくお願いします。」


『恥ずかしくなって退散したようです。根は良い子なので気を使ってあげて下さい。彼女にもドレスを作ってあげますね。』


「お母様に挨拶したら帰るとするか。じゃあ、兄さん。また明日の朝来るから。」


「泊まって行かないのか? 気を使って宿をとらなくても良いのだぞ。」


「宿じゃないさ、我が家に帰るだけさ。秘密だけどな。ワハハ。」


最近体調が優れず、寝たきりになってしまった祖母に挨拶をした。

その後、バンに馬車を玄関に横着けしてもらって搭乗した。

そのままテレポートで我が家へ。

急に消えた馬車に伯父さんは立ち尽くすしかなかった。

家に帰るとスーザン母さんからドレスをたくさん要求された。

イザベラ伯母さんにドレスを褒められ、羨ましく思われたのが嬉しかったそうだ。

仕方ないので色違い、デザイン違いで5着ほど渡した。

残念なのは、うちの母さんはぺったんこさんなので胸元の開いたドレスは貧相に見えてしまうのだ。

なので、ゴスロリ系など可愛らしいものを増やしてみた。

母さん的にはセクシーな色っぽいものを希望するのだが、明らかに似合わないので作製不能と誤魔化した。

息子の優しさだと思って欲しい。


翌朝、伯父さん宅の門へ転移するとすでに玄関には伯父さんが立っていた。


「どういうことだ! 昨日は一瞬で消え、今日は急に現れた。説明を求む!」


「秘密だと言ったではないですか。それより、おはよう兄さん。」


「ああ、おはよう。って、誤魔化すな!」


「仕方ないな。ヒントは我が息子アトムは凄いんだ。フフフ。」


「また息子自慢か! ん? アトム君の仕業なのか?」


「どうだろうな。ところで、城に行く準備は出来ているのか? 兄さんは寝巻きのようだが。」


「あっ! お前たちのことが気になって早く起きてずっと玄関で待っていたのだ。すぐに着替えてくるから待っていてくれ。」


伯父さんは大慌てで着替えに向かった。

今日の母さんのドレスは、純白でレースをふんだんに使ったマーメードドレスだ。

タキシードの父さんと並ぶと新郎新婦のように見える。

そこへドレス姿のイザベラ伯母さんとジャスミンが現れた。

2人とも母さんの美しいドレスに見とれて言葉が出なくなっていた。

ドヤ顔のロリっ子母さんがとても可愛い。

遅れて着替えを済ませた伯父さんがきた。


「待たせてすまない。」


そこでやっと伯母さんとジャスミンが復活した。


「スーザンのドレスがとてもきれいで見とれてしまったわ。今度、そのドレスを作った職人を紹介してもらえないかしら?」


「おはようございます、お姉さま。このドレスは、私のお抱えドレス職人が作りましたのよ。彼はとても忙しい方なのでどうかしらね? ねぇ、アトム。ウフフ。」


更にドヤ顔の母さんが勝ち誇った表情で俺に微笑む。


「どうでしょうね。それより、遅れたら大変ですから城へ向かいましょう。伯父さんは朝ご飯もまだですよね? これを馬車の中で食べてください。」


俺はオークカツサンドを渡した。


「これはありがとう。アトムは優しいな。カイザーが自慢するのも分かる。」


「そうだろう。そうだろう。」


俺が褒められて父さんもドヤ顔になった。

それぞれの家族がそれぞれの馬車に乗り込み城を目指す。

流石に改造車の我が家の馬車に伯父さんたちを乗せるわけにはいかない。

馬車へ乗り込むと母さんが勝ち誇っていた。


「アトムちゃん、姉さんの顔見た? 開いた口が塞がらないほど驚いていたわよ。そうだ、時間が無いんだったわ。最後の仕上げをしなくちゃ。」


鏡台に向かった母さんは入念に化粧を始めた。

もちろん、化粧品も道具も俺から供給されたものだ。

そして、髪をアップにし、さらに綺麗になった。

父さんはうっとりした表情で母さんを見つめていた。

弟か妹が生まれるかもしれないな。

城の門に着くと伯父さんが手続きを済ませてくれていたおかげですぐに通してもらえた。

城の玄関にあたる入り口へ馬車を停めて降りると伯父さんが走ってきた。


「アトム君!! あの食べ物は何だ! フカフカのパンとサクサクの肉。口の中に溢れる肉汁と油の香り。うますぎるじゃないか!」


「えっと、オークカツサンドです。気に入ってもらえてようで良かったです。」


「えっ? あれはアトム君が作ったのか?!」


「まあ、そうですけど。」


「うちのアトムは料理もうまいんだ。凄いだろ。」


「お前のドヤ顔がウザいが、確かにアトム君は凄いな。」


「それより、王様を待たせたら大変ですよ。早く行きましょう。」


「そうだな。話の続きは家に帰ってからにしよう。」


そして、馬車からゆっくりと降りてくる天使のように美しい母さんの登場だ。

あまりの神々しさにその場にいた全員が息をのんだのだった。

これぞ、エルフの実力ってやつだろう。

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