第19話 ダンジョン 後編

4階層は草原と森が混在するエリアだった。

地図の情報によるとここには2足歩行する犬のコボルトと豚の顔をしたオークがいるらしい。

3階層で鼻に大ダメージを受けているので今日はここまでにすることにした。

エミリンもカリンも戦意喪失状態だ。


「もう戦いたくない。帰りたい。」


「私も嗅覚が麻痺してしまって索敵ができません。」


「今日は帰ろう。」


ダンジョンウォークで1階層入口ホールへ転移し、そのままダンジョンを出た。


「おう。無事に帰って来れたな。じゃあ、また機械にカードを翳してくれ。」


これでダンジョンから無事帰還したと登録されるそうだ。

ここのダンジョンでは1週間戻らないと死亡扱いになる。

気を付けないと折角登録したばかりの冒険者資格を失うことになる。

それから路地裏へ移動し、我が家へ転移し帰宅した。


「ただいま。」


「あら? 今日は早かったわね。」


「うん。ウルフの肉を焼いたらあまりにも臭くてやる気が無くなったんだ。」


「まさか、そのまま焼いたの? そりゃ臭いわよ。常識よ? ウルフの肉は下拵えが大変だからこそ、その分安いのよ。」


「私は注意したのですが、アトム様が試したいとそのまま焼いてしまったのです。おかげで未だに嗅覚がおかしいです。」


「アトム! ウルフの肉は全部捨てなさい!」


「捨てるのはもったいないわ。干し肉にするから置いていきなさい。」


エミリンは捨てろと言うが、サラ母さんが欲しいというのでウルフ肉を全て母さんに渡した。

俺もウルフの臭いにはもうこりごりだ。

母さんがおいしい干し肉に変えてくれるそうだが、できれば遠慮したい。

干し肉を見たらあのもの凄い臭いを思い出しそうだ。

しかし、王都へ旅立つときにサラ母さんからこの干し肉を山のように渡されることになる。


「アトム、お腹が空いたわ。ごはんはまだ?」


「今、がっつり食べちゃうと晩御飯が食べれなくなるから軽くすまそう。パンケーキにしようか。」


「パンケーキ? それはパンなの? ケーキなの? どっちよ!」


「んー。どっちも?? 食べてみればわかるさ。」


フカフカの厚めのパンケーキに生クリームとバニラアイスをトッピングした。

メープルシロップをたっぷりかけると甘い香りが立ち込めた。

一口食べると目を見開き、無言で次々と口へ運ぶ2人。

俺も食べてみると懐かしい味に笑みがこぼれた。

前世の母に焼いてもらったホットケーキを思い出すなあ。

これは幼いころに亡くした母の少ない思い出でもある。


「アトム、おかわり!」


食べ終えたエミリンが大声で催促してきた。


「晩御飯が食えなくなるからダメ!」


「意地悪。。。」


また晩御飯を俺が作ることになってしまった。

サラ母さんに「偶には楽したいわ」なんって言われたら断れない。

そんなわけで、今日は久しぶりにシチューが食べたい気分だからウサギ肉を使ったクリームシチューにしてみました。


「父さん。ウルフの群れを火魔法で燃やしても臭くなかったのに、肉を焼いたら臭いのは何故ですか?」


「ダンジョンの魔物とダンジョン外の魔物はそもそも別ものなのだよ。ダンジョンの魔物は魔素で出来ているんだ。だから倒すと煙になって消えるだろ? その煙が魔素なんだ。そして、ダンジョンからの贈り物のドロップアイテムが得られる。ドロップアイテムの肉は本物だから臭いんだよ。だから、ダンジョン外のウルフには火魔法は使っちゃダメだぞ。」


「そうなんですね。わかりました。でも、何でダンジョンはドロップアイテムを与えてくれるのでしょうか?」


「いろいろ説がある。一番信憑性があるのは、人が魔力を消費すると良質な魔素に変化し、それがダンジョンにとって良い栄養になるらしい。だから、人を集めるためにドロップアイテムや宝箱で人を誘い込むそうだ。」


「へー。なるほど。そう言えば、昨日から潜っていますが、未だに他の冒険者に遭遇していないのです。」


「北のダンジョンは初級ダンジョンだからあまり人気がないんだよ。それは適正ランクの冒険者にとっては魔物との遭遇率が高すぎて危険だし、適正以上の冒険者にとっては素材が得られないから稼げない。あの町が発展しているのは、ダンジョンよりも街道の休憩所としての役目があるからなんだ。それにしてもこの白いスープはコクがあってトロトロで旨いな。」


今回の晩御飯も家族たちに大好評だった。


翌朝、渚から嬉しい知らせがあった。

もう小麦の品種改良が完了したらしい。

父さんに相談してみよう。

今朝の朝ご飯は、昨日のクリームシチューの残りと俺の作ったバターロールとクロワッサンだ。


「父さん。僕のスキルで改良した小麦をこの町の農家に作って欲しいと思っているのですが、どうでしょうか? 収穫が今の2倍。いや、5倍に増えると思います。」


「なっ! なんだって! それは凄いじゃないか。しかし、疑うわけでは無いが、やはり実績がないと農家も受け入れてくれないだろう。もし、失敗したらその年の収入が無くなるのだからな。良し、それじゃバンが来る前にうちの馬車の御者をやっていたゴンに試してもらうことにしよう。もし、失敗しても俺が面倒みると言えばやってくれるだろう。」


「ゴンさんには薬草栽培にも協力してもらいましたね。これで恩返しができれば良いですが。」


バケツいっぱいの小麦の種籾を父さんに託した。

半年後にゴンさんの畑を見るのが楽しみだ。

それから半年後にゴンさんの小麦畑の収穫が5倍どころか10倍になり、町では大騒ぎとなった。



「それじゃ、エミリン、カリン。そろそろ行くよ。」


「もう1個パンを食べるから待ちなさい。」


「エミリンは朝から良く食べるね。」


「アトムが悪い。アトムのパンとシチューが美味しいのが悪い。」


「太るよ?」


無言で殴られた。

仕方ないのでエミリンが満足するのを待ち、ダンジョンへ向かった。

家からテレポートで北の町の路地裏へ転移。

それからダンジョンに入場し、1階層から4階層の入口へダンジョンウォークで転移した。

通常なら1階層からもう一度やり直しになるのだが、俺にはダンジョンウォークがあるので短縮できる。

そして、4階層には2種類の2足歩行タイプの魔物がいる。

犬顔のコボルトと豚顔のオークだ。


*鑑定

 名称: コボルト

 ランク: F+

 特徴: 2足歩行する犬型魔獣。肉は臭く、食用不可。

 特技: 吠える、噛みつく、ひっかく

 ドロップ: 魔石、犬歯、毛皮、銅貨


*鑑定

 名称: オーク

 ランク: E

 特徴: 2足歩行する豚顔の魔物。素手または棍棒で力任せに殴ってくる。

 特技: 棒術、身体強化

 ドロップ: 魔石、オーク肉、革、棍棒


「アトム。オーク肉をたくさん持ち帰るわよ。それで、毎日生姜焼きをお願いね。」


「生姜焼き以外にも角煮やトンカツとか他にもいっぱいあるんだけどね。」


「えっ!! どんな料理か分からないけど聞いただけでなぜか涎が出るわ。本気で行くわよ! アトムにはコボルトを任せるわ。」


食えない肉には興味ないらしい。


「アトム様、前方よりコボルトの群れが急速接近中です。右側前方からはオークの群れが来ています。」


「エミリンとカリンはオークをよろしく。俺はコボルトを殲滅するよ。」


2人はオークに向けて走り出した。

俺はコボルトに向けて魔法を放つ。


「ファイアストーム! 『ファイアストーム』」


俺の魔法が群れの先頭集団に着弾。

同時に放たれた魔法は、俺のMPを消費して渚が放ったものだ。

その魔法は後方の集団に着弾した。

群れ全てのコボルトが炎に包まれ消し炭となった。

渚はさらなる進化を遂げ守護者(ガーディアン)となり、独立して俺のMPを使い攻撃魔法を撃てるようになった。

そのため、右手でファイアボール、左手でウォーターボールを放つことも可能だ。

4階層は俺達3人であっという間に殲滅してしまった。


「もうこの階層には魔物が居ませんね。5階層に向かいますか?」


「そうだね。サクッとボスを倒して攻略完了としよう。」


地図を頼りに5階層の階段へ向かった。

階段を降りたさきにはボス部屋の大きな扉があった。


ボス戦の前に昼飯のハンバーガーをかじり、休憩する。



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