第18話 ダンジョン 前編

カリンが警戒しつつ、さらに前進。

ダンジョン内は洞窟であっても薄暗いだけで見通しは悪くない。

松明などの明かりは必要ないようだ。


「前方に魔物がいます。」


武器を構え、さらに前進する。

するとゼリー状の物体が這いずりまわっていた。


*鑑定

 名称: ダンジョンスライム

 ランク: F-

 特徴: ゼリー状の単細胞。体内にあるコアで液体状の身体を支えている。

 特技: 悪食、飛びつく、消化液

 ドロップ: 魔石、スライムゼリー(錬成基礎材料)


これがスライムか。

水滴型でクリクリの目がある可愛いやつを想像していたのだが、この世界のスライムは透明でアメーバーのようなやつだった。

「スライムは立ち上がり仲間になりたそうに見つめている」なんてイベントも起きそうにない。

とにかく、可愛くないし、気持ち悪い。

やはり使役してトイレの後処理に使わなくて良かったと思う。


「エミリン、カリン。スライムはコアが弱点だ。コアを突いて砕け。」


エミリンがゆっくりスライムに近づき、剣先でコアを砕いた。

すると風船が割れたようにスライムが弾けた。

そして、煙となって消えていった。

煙が消えるとそこには小さな石(魔石)と小瓶に入ったスライムゼリーが現れた。

これがドロップアイテムというものらしい。

ギルドからもらった地図の裏を見ると魔物の情報が書いてあった。

スライムゼリーのドロップ率は10%程度らしい。

スライムゼリーは、食器洗い用洗剤として使うぐらいしか用途は無いそうだ。

しかし、ゼリーは俺にとっては基礎材料になり、いろいろなものが作れるようになる。

でも、ゼリーの入っていた小瓶は調味料や薬を入れるために再利用されるため、1銀貨で買い取ってもらえるそうだ。

そして、この1階層にはスライムしかいない。

そんなことを考えているうちに煙が集まってきてスライムが復活した。

復活した瞬間、エミリンに潰された。

またスライムゼリーをドロップ? 10%だよね?

それから2階層の階段に辿り着くまでに100体以上のスライムを潰した。エミリンがね。

だが、10%のはずのゼリーのドロップが100%なのよね。

やはり幸運値の影響なのだろうか。


『あなたのスキル「仲間の絆」で幸運値は3人の合計になってます。神の祝福を得た聖女でも100程度なのにあなた達は840もあるのですよ。ドロップ率など関係ないですね。』


なるほどね。納得です。

そのまま階段を下り2階層へ向かった。

2階層は草原だった。

地下に潜ったはずなのに明るい。

太陽が見当たらないのに昼間なのだ。

気持ちの良いそよ風も吹いている。

ダンジョンは本当に不思議な場所だ。


「右側の草むらにホーンラビットが潜んでます。」


「アイスニードル。」


指示された草むらに即座に魔法を撃ち込むと「キュィ」っと鳴いたウサギが煙となって消えた。

俺は先程までずっと魔石とゼリーを拾い集める係をしてたんだ。

偶には俺が狩っても良いじゃないか。

不服そうな目でエミリンに睨まれたのが解せぬ。


*鑑定

 名称: ホーンラビット

 ランク: F

 特徴: 額に1本の角がある兎型魔獣。

 特技: 頭突き、飛び跳ねる

 ドロップ: 魔石、角、毛皮、兎肉


肉が大きな葉っぱの上にゴロっとあった。

まあ、地面に直置きじゃなかっただけマシだけど衛生的にどうなのだろうか。

せめて皿の上にお願いしたい。

とりあえず、クリーンをかけてから収納した。

角も毛皮もドロップした。

ウサギも100%ドロップのようだ。


「そんなに睨むなよ。俺も狩りたかったんだよ。次はエミリンが狩って良いから。」


「当り前。次、先に手を出したら殴るからね?」


うちの姉さんが怖い件。。。

カリンの笑顔に癒されよう。

草原にはホーンラビットの他にウルフも生息していた。

ホーンラビットは単独でいるが、ウルフは数頭から数十頭の群れを成している。


*鑑定

 名称: ウルフ

 ランク: F

 特徴: 大型犬より一回り大きな狼型魔獣。群れを作り、連帯し襲ってくる。

 特技: 噛みつく、引っ搔く、吠える(威嚇)、遠吠え(仲間を呼ぶ)、連帯

 ドロップ: 魔石、犬歯、毛皮、狼肉


ウルフは数が多く流石にエミリンだけで裁ききれないので、カリンと俺も参戦が許された。

あれ? 俺がこのパーティのリーダーじゃないのか?

冒険者になると言い出したのは俺だよね?

2人は俺に着いてくると言ったよね?

うちの自称姉は、戦闘になると我を忘れてしまう。

獣の血か、職業の影響かは分からないが。

でも、甘いもので誘導できるチョロミンだからまあ良いか。

後で誰がリーダーなのか問いただそう。


俺はウルフの群れの中に範囲魔法を撃ち込み、範囲や威力の調整を練習した。


「ファイアストーム! わっははは。消し炭になるが良い。」


「アトム。気持ち悪いわよ。」


「エミリンさん。アトム様はそういう年頃なのです。温かく見守りましょう。」


おい。残念な子扱いは止めてくれ。泣くぞ。


それにしても魔物の数が多い。

外ではカリンの索敵を使っても探す時間と移動時間の方が戦闘時間の何倍もある。

ダンジョンは休む暇がないくらいで、狩った魔物もしばらくすると復活するからエンドレス状態になる。

経験値を得るには効率が良い。

しかし、兎と狼に飽きてきたので移動することにした。

地図を頼りに3階層への階段へ向かう。

草原の中にポツンと1本だけ生えた大きな木の根元に階段があった。

迷わず3階層へ。


3階層は森林だった。

早速、入り口付近にあった木の根元で魔力草を見つけた。

本当にダンジョンに魔力草が生えていた。

その他にも癒し草、ヒール草、毒消し草などの薬草やキノコや木の実などの薬剤やポーションの素材がたくさんみつかった。

3階層は俺にとっては宝の山だった。


「アトム様。ゴブリンが来ます。」


3階層はゴブリンか。

エミリンとカリンに任せておいても問題ないだろう。

俺は素材採取に集中させてもらう。


*鑑定

 名称: ゴブリン

 ランク: F

 特徴: 武器を扱う知恵を持った小鬼。単純な会話をし連帯もとれる。

 特技: ゴブリン語

 ドロップ: 魔石、武器、癒し草、銅貨


ちょっと待て。

レアドロップに硬貨があるじゃないか。

地図の裏の魔物情報に書かれていないということは超レアドロップなのだろう。

エミリンが不思議そうに銅貨を拾っているので、超レアだろうが俺たちには関係ないようだ。

ゴブリンは、棍棒とは言い難い木の棒を振り回しているが、エミリンには全く無意味で木の棒ごと真っ二つに斬られ煙になって消えていた。

カリンも弓で応戦しているので群れで襲われても大丈夫だろう。


「ワイルドボアがいます。」


*鑑定

 名称: ワイルドボア

 ランク: F+

 特徴: 下あごに大きな牙を持つ猪型魔獣。

 特技: 突進、噛みつく

 ドロップ: 魔石、毛皮、牙、猪肉


エミリンは、華麗にボアの突進を避け、剣を突き刺し仕留めていた。

問題無いね。

俺は採取に戻る。


「ねぇ、アトム。木が邪魔だから燃やしちゃって。」


「燃え広がったら大変だろ。切り倒すから待て。」


森の木を切り倒しては収納し、周囲を開墾してあげた。

木材はいろいろと用途があるし、たくさんあっても良いだろう。

渚、材木にして乾燥しておいてね。


「良い感じね。じゃあ、次は魔物を集めて。」


「はぁ?」


「肉でも焼けば匂いで寄ってくるんじゃない?」


「それはエミリンが食べたいだけだろ? お昼を食べてなかったし仕方ないな。」


ラビットとウルフの肉が大量にあるし、串焼きにしてみるか。


「ラビットとウルフの肉で串焼きにするけど、良いよね?」


「アトム様。ウルフの肉は臭いです。ただ焼いただけでは食べれないと思います。」


「そうなのか。ウルフは、普段どうやって食べるんだい?」


「香草に一晩漬けて臭みを取ります。」


「でも、一度どんな味か確かめたいな。ちょっと焼いてみるね。」


土魔法で竈を作り、先程切り倒した木の枝を薪にしてウルフの肉を焼いてみた。


「「「くっさあああああああああ!」」」


鼻に大ダメージを受け瀕死状態になってしまったが、臭いと俺たちの大声のおかげで周囲の魔物が一斉に集まってきた。

もう戦闘どころじゃないのだが囲まれてしまっているので必死に戦った。

ここまで本気で素早く動き戦闘を早く終わらそうと努力したのは初めてかもしれない。

ドロップアイテムをかき集め、急いで4階層へ向かった。

その後、エミリンに本気で殴られました。

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