第17話 ノーランダンジョンへ

自室に入った俺は渚に調味料作成の状況を確認した。

渚が言うには、時間加速で短期間で作っても風味が物足りないらしい。

やはりじっくり年単位で熟成させないとダメだそうだ。

そして、今回使ったのが1年以上熟成させた醤油と味噌だった。

小分けに専用部屋をたくさん作って個別に管理しているそうだ。

俺にはそんな細かいことは無理なので任せている。


『先程出した沢庵も工房で作りました。酢、ミリン、純米酒、ビール、ワイン。さらにソースやチーズに至るまで発酵食品が前世の地球の物と遜色ないとレベルにできたと自負してます。』


「チーズが出来たのならピザもできるね。ハンバーガーも良いな。グラタンも食べたい。想像しただけで涎が出てくるよ。」


「聞いたことのない名前だけど、おいしいことが想像できるわ。」


「って、当然のように俺の部屋にいるね、エミリン。」


「当り前じゃない。お姉ちゃんなんだから。」


いや、当り前じゃないから。

年頃の男子は、一人になる時間が必要なんだぞ。

そして、隠密を使って背後を取るのは止めてほしいぞ、カリン。

流石、アサシンというべきか。


「アトム。アイスが食べたいわ。」


「あれだけ食べたのにまだ食えるのか。別腹ってやつか? カリンもアイスで良いかい?」


「はい。バニラでお願いします。」


「冷たくて甘くておいしい。」


「アトム様にお会いできなければ、このおいしいアイスを味わうことも無かったでしょうね。おそらく、奴隷まま辛い毎日を過ごしていたことでしょう。感謝しております。」


「そのことはもう良いって。俺もカリンに出会えて良かったよ。」


「やっぱりカリンには優しい。」


姉よ。嫉妬するのは可愛いが、面倒くさいぞ。

そして、アイスを食べ終え落ち着いた自称姉のエミリンが部屋を出ていった。

カリンにも俺のお世話はもう大丈夫だと告げ、メイドの仕事に戻ってもらった。


「渚。野菜の品種改良を頼む。そうだな、最初は主食の小麦からにしよう。薬草で農家の皆さんには世話になっているし、恩返しがしたい。」


『分かりましたが、それなりに時間はかかると思いますよ。気長に待ってください。』


「あと、米もお願いね。俺的には『あき〇こまち』が好きなんだ。近いところを狙ってほしい。次は豆類、葉物野菜、根菜の順番かな。後回しでいいから果物もよろしくね。」


『了解。早速始めます。』


俺の睡眠中に渚の作業が始まる。



翌朝、北の町に戻りギルドに向かった。

北の町は領都ハリスの半分以下だが、冒険者相手の店でにぎわっていた。

ここのギルドは朝なのに混んでいなかった。

ダンジョンへ向かう冒険者が大半なのでクエストの奪い合いが少ないのだろう。


「おはようございます。ダンジョンに行きたいので情報を聞きたい。」


「北の町ノーランギルドへ、ようこそ。こちらは初めてですね。では、冒険者カードを提出してください。」


この町には名前があったらしい。

ちなみに自宅のある町は、家名と同じハリスだ。


ダンジョンに入る場合、そのダンジョンを管理しているギルドに登録しなければならないらしい。

入退場を管理し、ダンジョンから帰らない者を特定するためだそうだ。

一定期間戻らない場合は死亡扱いで処理される。

それ程ダンジョンは危険な場所なのだ。


「はい、登録完了しました。あと、こちらがダンジョン内の地図になります。このダンジョンは全5階層の初級ダンジョンです。道中F~Eランクの魔物がおりますので注意してください。最下層にはボスのD-ランクのハイオークがいます。皆さんはDランクなので最下層まで攻略可能ですが、ダンジョンは危険な場所ですので十分注意してください。」


受け取った地図はカリンに渡した。

暫く地図を眺めたカリンは地図を戻してきた。


「え? 道案内はカリンに任せるから地図は持っていてくれ。」


「もう記憶しました。大丈夫です。」


カリンはマップというスキルを獲得し、地図をラーニングしマッピングができるらしい。

魔物の位置もそのマップに表示される。

俺もそのスキルが欲しいな。

ギルドの売店には俺の作ったポーションがたくさん並んでいた。

なんか嬉しい。

出口に向かうと冒険者が喧嘩していたので会話を盗み聞きしてみた。


「お前の幸運値が低すぎるからドロップが少ないんだ。」


「お前だって、大して変わらないだろう。」


どうやら幸運値(Luck)が高ければ高いほど良いものが手に入るそうだ。

ダンジョンでは魔物を倒しても死体は残らず煙となって消え、アイテムが残る仕様らしい(ドロップ)。

幸運値か。確か母さんの指輪で幸運値が上げられたな。


『渚さん。幸運の指輪を3つお願いします。』


ギルドを出て早速ダンジョンへ向かうことにした。

門番のような兵士が二人でダンジョンの入場管理しているようだ。


「君たちはダンジョンに入るのか? ギルドでの登録は済んでいるのか?」


「はい。今、ギルドで登録してもらってきました。」


「じゃあ、この魔道具にカードを翳してくれ。」


*鑑定

 名称: カード登録機

 ランク: A

 特徴: 冒険者カードを記憶する魔道具。

 付与: ラーニング


おっと、ラーニングきた!


『残念ながらラーニングはユニークスキルなので獲得できませんよ。それにあなたの適性は魔法のみですからね。お忘れなく。』


そうでしたね。ごめんなさい。

言われた通りに魔道具へカードを翳すとピッと機械音がした。


「よし。入って良いぞ。ダンジョンには危険がたくさんあるから気を付けるんだぞ。特にお前たちのような若者は無茶をして帰ってこないものが多い。引き際を間違えるなよ。」


「はい。肝に銘じておきます。」


洞窟の入口のようなダンジョンの入口に足を踏み入れる。

何かの壁を突き抜けたような感覚とともに薄暗い空間へ移動した。


「エミリン! カリン! 無事か!」


「大丈夫よ。恥ずかしいから大きな声を出さないでよ。」


そんな冷静に答えられたらこっちが恥ずかしくなるじゃないか。

心配したんだぞ。

全くもう! 顔が真っ赤になったじゃないか。


「無事なら良いんだ。この指輪をしてくれ。」


*鑑定

 名称: 祝福の指輪

 ランク: S

 特徴: 装備者に幸運をもたらす指輪。Luck+200。

     HP/MP回復量UP。全状態異常耐性。

     アトムパーティメンバー専用。アトム作。

 付与: 光魔法


「あら? 婚約指輪かしら?」


「違うよ。母さんの指輪と同じで幸運値を上げる指輪だよ。さっきの冒険者が幸運値がドロップアイテムに影響するって言っていたから。婚約はもうちょっと待ってくれ。」


母さんの指輪はシルバーだったが、今回作ったのはミスリル銀だ。

それで高性能になった。

指輪を装備し、周囲を確認する。

岩むき出しの壁。

どうやら1階層は洞窟タイプのようだ。

そのまま真っ直ぐ進むとホールに出た。


「ここは地図にあった準備エリアですね。魔物がいない安全地帯だそうです。そして、隅にある魔法陣は5階層から帰還する転移魔法陣だそうです。帰りのみの一方通行なので今は関係ないですね。」


なるほど。

5階層のボスを倒せば魔法陣で1階層へ転送してくれるようだ。


*鑑定

 名称: 帰還魔法陣

 ランク: S

 特徴: 帰還専用の転移魔法陣。

 付与: 空間魔法(ダンジョンウォーク)


『ダンジョンウォークを獲得しました。空間魔法に取り込みます。』


ダンジョンウォーク: ダンジョン内の任意の場所に転移できる。

           但し、行ったことのある場所に限る。


テレポートのダンジョン版のようだ。

これで5階層でなくても入り口へ戻ってこれそうだ。


「それじゃあ、行くか。」


お互いに装備をチェックし、1階層の入口へ向かった。


「カリン。索敵は頼んだよ。」


「お任せください。」


俺達はダンジョン攻略を開始した。







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