第2章 アトム成人しました

第16話 アトム 大人になりました。

それから俺達はパーティで周辺の魔物を狩り、経験を積み、レベルを上げていった。

そして、3年の月日が流れ、俺とエミリンは15歳になった。


「アトム、エミリン。成人おめでとう。もう、お前たちは大人として扱われるようになる。だが、まだまだ未熟だ。困ったことがあれば遠慮なく相談するんだぞ。ところで、お前たちは今後どうするつもりなのか聞かせてくれ。」


「僕は正式に冒険者となり、新たな素材を求めて旅をしたいと考えています。父さんの跡を継ぐのはもう少し待ってください。」


「まだ俺は元気だから構わない。世界を見てくることも勉強になるし、良い経験になるだろう。」


「たまには戻ってきて、元気な姿をみせるのよ。」


「はい。分かりました。」


「私はアトムに着いていく。お姉ちゃんだからね。」


「私もアトム様のお側に。」


サラ母さんは何も言わず、微笑んでくれている。


「正式に冒険者登録が済んだらダンジョンへ向かおうと思います。」


「そうか。ダンジョンには罠など危険がたくさんある。魔物も強い。油断せずに安全第一で攻略するんだぞ。」


「了解です。」


「その前に成人した貴族は、王様に挨拶に行かなければならない。ずっと断り続けてきたからな。流石に今回は王都へ行かないと不味いぞ。」


「はぁ。正直嫌ですが、仕方がないですね。いつ行きますか?」


「準備もあるから来月初めにしよう。」


「了解しました。準備しておきます。」


俺たちはまずギルドへ向かい、正式登録を済ませた。


「ナンシーさん。正式登録をお願いします。」


「はい。これでアトム君も正式な冒険者ね。それとギルマスから正式登録したらランクを昇格するように言われているのよ。あなたたちは今日からDランクよ。」


正式登録をするまでカリンも含め、昇格を止められていたのだ。


「これから北の町のダンジョンへ向かおうと思います。」


「Dランクになったから最深部まで行けるわよ。注意点だけど、最深部にあるダンジョンコアは壊しちゃダメよ。コアが無くなるとダンジョンが消滅してしまうの。ダンジョンから産出する大切な資源を失うことになるから大罪人として裁かれることになるわ。良くて犯罪奴隷、通常打ち首よ。ボスは倒しても大丈夫。また復活するから。」


「分かりました。ちなみにダンジョン内の地図や出現する魔物の情報はありますか?」


「一応あることはあるんけど、ダンジョンの側にある北の町のギルドの方が詳しいものがあると思うわ。そちらで相談してみて。」


「了解。じゃあ、行ってきます。1週間くらいで戻ると思います。」


「気を付けて行ってらっしゃい。」


一旦家に戻り、父さんへダンジョンに行くことを報告した。


「ケガの無いようにな。それと来月の王都行きも忘れるなよ。」


「はい。1週間くらいで戻ります。」


「バンの御者で北の町に向かって良いぞ。」


「そうします。バン、行きだけ頼むよ。送ったら戻って良いからね。」


「? はい? 分かりました。」


俺にはテレポートの魔法があるので帰りは魔法で帰った方が楽だし、早い。

バンが御者をする馬車で北の町へ向かった。

暇だったので自分のステータスを確認してみた。


*ステータス

 名前: アトム・ハリス

 称号: ハリス伯爵家長男、ハーフエルフ、Dランク冒険者

 職業: 錬金術師

 性別: 男

 年齢: 12→15歳

 レベル: 20→25


 HP: 360→420

 MP: 750→800

 STR: 80→120

 INT: 730→750

 DEF: 90→110

 AGI: 100→150

 DEX: 550→580

 Luck: 100


 スキル

  錬成、錬金ボックス、鑑定眼、分解、合成、抽出、付与、解析、リスト、

  複製、魔力操作、亜空間工房、調理


 魔法スキル

  生活魔法:ファイア、ウォーター、ウィンド、ライト、クリーン

  全初級属性魔法:火▽、水▽、風▽、土▽、氷▽、雷▽、光▽、闇▽

  全中級属性魔法:火▽、水▽、風▽、土▽、氷▽、雷▽、光▽、闇▽

  空間魔法:スペース、テレポート、ゲート

  時魔法:ヘイスト、スロー、タイマー

  重力魔法:グラビデ、ライト

  契約魔法:奴隷契約、眷属契約、主従契約(テイム)


 ユニークスキル

  異世界言語、全魔法適性、探究者Seeker



レベルが25に上がった。

そして、ユニークスキルが増えた。


仲間の絆: パーティメンバー間で経験値を共有し、等分配される。

      メンバー間で念話が使える。


前世でやったRPGゲームのパーティ設定に似ている。

今までは最後にトドメを刺した人に8割ほど経験値が入ってしまうため、どうしても火力の高い魔法を撃ち込む俺に偏って分配されていた。

現在の2人のレベルは、エミリンがLv.24、カリンがLv.20に成長している。

そして、仲間の間で念話が使えるようになった。

雑音で声が届かなくても心で会話できるので大変便利になった。


「ねえ、アトム。甘いものが欲しいわ。」


「エミリンは成人したというのにブレないね。せっかくだから新作のケーキを出してあげるよ。成人のお祝いをしよう。カリン、紅茶をお願いね。」


我が家の馬車はもちろん俺によって改造されている。

豪邸を建て、家具や魔道具を作った俺には馬車の改造ぐらい朝飯前だ。

車内は、空間魔法で見た目以上に広く、簡易キッチンとシャワー、トイレが完備されている。

座席はフカフカのソファーだ。

ちょっとしたリビングのような感じになっている。

車輪にはもちろんサスベンションがあり、凸凹道の衝撃を吸収してくれているのだが、そもそも車輪と乗車スペースが分離しており、乗車スペースが重力魔法で浮いている。

風船を引っ張っているような状態になっているので揺れはなく、さらに軽いので馬への負担も少ない。

だから走行中の馬車内でも優雅にティータイムを楽しむことができる。


「あら? 随分シンプルなケーキね。生クリームが無いじゃない。」


俺が出したのはベイクドチーズケーキだ。


「俺は生クリームたっぷりのショートケーキよりも甘酸っぱいチーズケーキの方が好きなんだよね。」


「私もこちらの方が好きですね。」


ちょっと大人のカリンにはチーズケーキがお気に召したらしい。

食べ終わったところで物足りなさそうにしているエミリンにティラミスを出してあげた。

それを満面の笑みで平らげていた。


そして、思っていたよりも早くダンジョンの町へ着いた。

朝暗いうちに出発し、夕方には北の町に到着したことになる。

通常は1日半かかる距離なのだが、馬の負担が少ないためか早く着いた。


「バン、ありがとう。宿で一泊してから明日の朝戻ってくれ。」


宿代と食事代+お小遣いを考えて金貨1枚を渡してバンと別れた。


「俺たちも宿をとってゆっくりしようか。ダンジョン攻略は明日からにしよう。」


「ちょっと待ってください。宿代がもったいないので家に帰ってはいかがですか?」


「へ? あっ! そうだ。テレポートがあったんだ。ありがとう、カリン。」


バンも馬車ごと連れ帰ろうと思ったが、今頃さっきのお小遣いで羽を伸ばしていると思うのでそっとしておいた。

偶には休養も必要だろう。

俺達3人は手を繋ぎ、テレポートで我が家に戻った。

このぐらいの距離であれば1割程度のMP消費で済む。


「あら? 忘れ物?」


「いや、もう北の町に着いたんだ。それで一旦帰ってきた。明日の朝からダンジョンに向かうことにしたんだ。ところでサラ母さん、晩御飯ってまだ残ってる?」


「もう食べてしまったわ。帰ってくるなら先に言わないとダメでしょ。」


「仕方ない。錬金術で作るか。エミリン、カリンは食べたいものあるか?」


「肉が良い!」


「私は何でも大丈夫です。」


『オーク肉あったよね。それで生姜焼きを作ってほしい。』


『わかりました。やっと納得のいくレベルの醤油が出来上がったので、きっとおいしくできますよ。』


『それは楽しみだ。』


「作っておくから2人は風呂に入っておいで。」


「わかった。よろしく。」


メイド3人がせっかく仕事が終わったのにまた洗い物を出すのかよという顔で睨んでいた。

おい、俺は主人だぞ。


『できました。』


おっと、意外と早かったね。

錬金ボックスから取り出した。

大きな皿に山盛りの千切りキャベツ、そしてタマネギと一緒に炒めた薄切りオーク肉の生姜焼き、白米に豚汁、そして沢庵数切れが四角のお盆に乗った生姜焼き定食だ。

生姜と甘じょっぱい醤油の香りが食欲をそそる。

テンション上がるわ。

丁度そこに洗い髪のままのエミリンが戻ってきた。


「風呂場まで美味しい匂いがした。」


「とりあえず、髪を乾かしなさい。」


仕方ない姉さんだな。

ドライの魔法で一気に乾かしてあげた。

髪が爆発してボワボワになったが、エミリンが気にしていないようだし、まあいいか。

カリンも戻ってきたので温かいうちに食べるとしよう。


「うまい! なんだこれは! うますぎる!」


エミリンのテンションが爆上がりだ。

カリンも笑顔で噛みしめ味わっている。

俺も食べてみるか。


「うほっ! これはうまいな。鼻に抜ける生姜の香り。醤油の香ばしさ。甘じょっぱいタレも最高だ。オーク肉も良い味を出してるな。」


「このキャベツ、生なのに苦くないね。」


「それは俺のスキルで苦みを抜いているからだよ。というか、いつも我が家の野菜から苦みや酸味を抜いていたんだが、気付いていなかったのか?」


10年以上前からスキル抽出で野菜から雑味を抜いていたのだが、誰も気付いていなかったらしい。

生野菜を食べる習慣の無い世界だから、生で食べることはなかったし仕方ないか。

この世界の野菜は品種改良が進んでおらず、原種に近く野性的な味がするのだ。

しかも天候の影響をもろに受け、病気にも弱い。

稀に凶作に苦しむことになる。

野菜の品種改良が次の目標かな。

残念ながら錬金術で作った種は決して発芽しない。

生き物は作れないという大原則のためだ。

でも、亜空間工房が出来たので加速して世代を重ね、選別淘汰を繰り返せば良い種ができるだろう。

ポーションの次はうまい野菜で町おこしをしようと思う。

渚、よろしくね。


「アトム、俺もそれを食べてみたいのだが。」


「父さんは晩御飯を食べましたよね?」


「ああ、そうだな。でも、それは別腹だ。」


「甘いものじゃないんだから別腹ではないでしょ。仕方ないですね。みんなも食べて良いよ。」


生姜焼きは家族、従業員にも大好評だった。


「アトムは冒険者よりも料理人になった方が良いんじゃないか?」


「世に出せない調味料を使っているので無理ですね。」


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