第14話 アトム 家を建てる

「ナンシーさん。僕たちにお勧めのクエストはありませんか?」


「そうね。ゴブリンを余裕で倒してしまう君たちには町周辺の魔物では物足りないかもしれないわね。でも、いろんな魔物と戦って経験を積むのも大切よ。だから、次は獣系の魔物はどうかしら? 東門から出てすぐの草原にホーンラビットがいるわ。その先の森にはウルフとワイルドボアがいるの。この辺りがお勧めよ。森の奥にはオークがいるからあまり深いところには行っちゃダメよ。」


ゴブリンを殲滅したのは西の森だ。

勧められたのは逆側の東の森周辺。

ゴブリン等の人型魔物は、対人戦や稽古で経験を積むことで戦闘が楽になりやすい。

しかし、獣は動きが予想しづらく、討伐しないと経験を積むことができない。

そこでナンシーさんは獣系魔物で経験を積めと勧めてくれたのだ。


ホーンラビットは一本角のウサギだ。

見た目は可愛いウサギなのだが、見た目に騙されて不用意に近づくと頭突きを食らい角で突き刺されてしまう。

ウルフはオオカミだ。

だが、前世の大型犬よりもさらに一回り大きい。

しかも好戦的で人の匂いがすると一目散に襲い掛かってくる。

ワイルドボアは猪だ。

見た目も大きさも前世の猪とあまり変わらない。

牙が発達しており、噛みつく。

それと突進による体当たりはトラックに衝突されたぐらいの衝撃を受ける。

3種類の魔物ともにFランク相当ではあるが、油断して大怪我をする若者が後を絶たない。

ちなみにオークは2足歩行の2m以上あるブタだ。

肉がうまいらしいが、脂身が多い。

但し、上位種になるにつれて肉がしまっていき、上質な豚肉となるらしい。

力が強く武器も扱うので初心者には危険。Eランクの魔物だ。


今日はクエストを受けず、帰宅することになった。


「アトムちゃん。冒険者に成れたのね。おめでとう。でも、母さんと約束してちょうだい。」


スーザン母さんからの3つの約束。


①危ないと思ったらすぐ逃げること。命大事に。

②夕飯までには帰ること。

③ダンジョンは成人するまで禁止。


遠出は出来なくなったし、楽しみだったがダンジョンは3年お預けだ。

母さんに涙目でお願いされては拒否できない。


翌日からギルドに向かい、クエストを受けた。

それにしても、子供の俺たちはギルドでは浮いているし、どうしても目立ってしまう。

女性冒険者はかわいいと受け入れてくれるのだが、やはり俺たちが自分よりも成果を上げてしまうと面白くない奴らもいる。

度々ちょっかいを出してくる奴もいるが、すぐに周囲の冒険者に止めたられていた。


「お前は馬鹿か! あの子はカイザー様のご子息だぞ。」


冷や汗をかき、青ざめて逃げていった。

父さん、どんだけ恐れられているんだよ。


ある日の晩御飯の時に父さんが話始めた。


「そろそろ家を建て替えようと思うんだが、みんなの意見を聞かせてくれ。」


「良いんじゃないですか? ポーションで得た資金も相当溜まっているでしょ?」


「確かにそうなんだが、そうはっきりと言われると親としては居たたまれなくなるな。」


「気にせずに使ってもらって大丈夫ですよ。」


「そうか? それで、要望があったら聞こうと思ってな。」


「私はアトム様の専属メイドなのでアトム様と同室で問題ありません。」


「いや、それはいろいろと問題あるから却下で。」


「私は個室が欲しい。」


「エミリンは、ずっとサラと一緒だったな。それは考えよう。」


「やった!」


スーザン母さんとサラ母さんは、広いキッチンとティータイムのできるテラスを希望した。


「アトムは何かあるか?」


「そうですね。大きなお風呂ときれいなトイレを希望します。」


12年我慢してきたが、やはりトイレは改善したい。

桶に用をたし、裏庭に埋めるって。。。

うちはまだサラ母さんが生活魔法のクリーンを持っていたのでマシな方だろう。

風呂なしなので身体を綺麗にするのもトイレの匂いもサラ母さんが対応してくれていた。


「王都の貴族の屋敷には風呂というものがあると聞いたが、この町には作れる者がいるかわからないな。確認してみるよ。」


「ちなみに家を建て替えるのにどれぐらいの期間がかかるのですか?」


「そうだな。規模にもよるが2~3カ月くらいかな。その間、住む場所も確保しないとな。」


さすが魔法の世界だ。

予想以上に短期間で家が建つらしい。


「そうね。私の実家は遠いからあなたの実家にお願いしてみてください。」


スーザン母さんの故郷と言えばエルフの森かな?

それも興味があるがかなり遠いらしい。

そして、父さんの実家は王都にあるそうだ。

だが、平民の家なので大きくなく、6人で押しかけるのは申し訳ないとのことだ。


『渚、俺に家って作ることできるかな?』


『材料さえ確保できれば問題ないかと。』


「僕に任せてもらって良いですか? 木材などの材料の確保だけはお願いします。」


「なんだって? とうとう我が息子は家まで作れるようになってしまったのか。だが、アトムなら出来てしまいそうだから不思議だな。」


ということで、新居は俺が作ることになった。

こちらの常識など無視して、西洋風の豪邸を作ろうと思う。

父さんには、木材はもちろん粘土や砂利などの建築材料を集めてもらった。

足りない分は錬金すれば良い。

セメントや窓ガラスも作りたいな。

こちらの窓ガラスは、まだ技術力が足りなくて歪みや曇りがあるんだよね。

我が家に使うものなので自重はドブに捨てました。

当面は、狩りもポーション作製もお休みする予定。

俺は、材料が集まるまで家具や魔道具の作製に取り組んだ。

町周辺だが、狩りをしてきたので魔石も結構集まっていた。

それを使って照明や調理器具などの魔道具を作ってみた。

始めての魔道具だったので失敗を重ね、やっと納得いくものができるようになった。

そして問題のトイレだが、前世だ読んだ小説にあった使役したスライムに食べてもらうというものを提案してみたが、家族全員に拒否された。

使役しているとは言え、魔物が家にいるのはどうかと。

さらにスライムと言えども見られている感じがして落ち着かないというのだ。

確かに納得する理由だったのでスライム式トイレは却下した。

亜空間に捨てるというのも考えたが、壊れて逆流した時が恐ろしいので却下した。

それで水洗トイレを採用し、排出されたものは一気に高熱で燃焼するシステムにした。

もちろん、クリーンでの清潔かつ消臭機能も導入してある。

早速、今の家に設置してみたが家族の評判は良かった。

数週間後には建設資材も順調に集まってきて、俺は渚とプラモデルを組み立てる感覚で家を作っていった。

もちろん、大きすぎて外ではできないので空間魔法を使い、亜空間エリアで組み上げている。

それからさらに1カ月が過ぎた。


「父さん。明日、家を建て替えようと思います。」


「そうなのか? まだ仮の住居の手配をしていないんだが。急がないとな。」


「その心配はございません。準備は終わっているので微調整も含め夕方には完了すると思います。」


実は、既に豪邸は出来上がっているのだ。

だから交換するだけ。

今の住居を取り除いた後に新たな豪邸を設置すれば終わりだ。

あまりにも大きいので外に出したことがなく、今回が初めての確認なので若干の不安はあるが、渚が頑張ってくれたので大丈夫だろう。

今から久しぶりに入れる風呂が楽しみで仕方ない。


「へ? もうアトムには驚かないと思っていたが、さすがに我が息子ながら凄いな。」


「というわけで、皆さん。荷物を私のアイテムボックスに収納していくので協力してくださいね。」


引っ越しの朝が来た。

朝から荷物をどんどん収納していく。

昼には全ての荷物が無くなり、空っぽの家となった。

家族で家の前に立ち最後のお別れをした。


「そろそろ良いですか?」


「ああ、やってくれ。」


「みんな、危ないのでもう少し下がってください。」


皆が門のところまで下がったことを確認し、旧屋敷を収納した。

目の前にあった我が家が一瞬で消え去った。

母さん達が涙ぐんでいる。

そして、今まで我が家があった更地の庭に後光が差し、徐々に新居の豪邸が姿を現す。

渚の演出だ。


「「えええええ!!!」」


皆の声が重なった。

そこには以前の家とは比べものにならないくらい大きくなった3階建ての豪邸が現れた。

公爵家に引けを取らないほどの豪華さで、しかも見たこともない形式の屋敷だ。

そりゃそうだ。地球の西洋建築を見本にしているのだから。


「口が開きっぱなしですよ。それでは中を案内しますね。」


ちなみに古い我が家は材料レベルに分解し、何か作る時まで保管しておく。

それで皆を率いて玄関の両開きの大きなドアを開けた。

ドアを開けるとホールになっていて正面奥に3階まで続く大きな階段がある。

玄関ホールは、パーティや舞踏会が行える広さを想定した。

右側には応接室と客室が2つずつ、その後ろにトイレ、大浴場がある。

左側にはリビングとキッチン、それと従業員の部屋だ。

2階には母さんたちからの要望の広いテラスがある。

それと会議室と客室5、それに従業員用の部屋5だ。

そして、角部屋に8畳の和室を作った。これは俺の癒しの部屋だ。

3階は家族のそれぞれの個室と父さんの書斎がある。

もちろん、2階、3階にもトイレは設置した。

トイレの排水の燃焼炉は、まとめて裏庭の地下に設置した。

部屋を見て回ったが特に調整の必要は無さそうだ。

設置済みの魔道具もちゃんと作動した。


「えっと。そろそろ戻ってきてください。荷物を出すので指示してほしいのですが。」


余りにも驚き過ぎて別の世界に行ってしまった家族を呼び戻す。


「凄いなしか言葉にできないぞ。今後これが我が家になるのだな。」


「えっと。不満な部分とかありましたか?」


「いや、無い。これなら王様も招待できそうだ。ハハハ。」


「部屋数も増えたし、サラ母さんだけでは掃除が大変でしょうから従業員を雇ってはいかがですか? そのために個室もたくさん作っておきました。」


「そうだな。ギルドに相談してみるか。」


従業員を雇うには2つの目的があった。

サラ母さんを楽させたいのとギルドで見かけた孤児を助けたいと思ったからだ。

この町にも孤児院が存在する。

だが、成人すると孤児院を出て独立して働かなければならない。

しかし、町にはそれほど仕事が無い。

あぶれた子たちは止むを得ず冒険者になる。

そこには戦闘職では無い子もおり、採取や手伝い系のクエストを受け、ギリギリの生活をしているのだ。

その子たちを雇い、救ってやりたいのだ。


「生活が苦しい成人した孤児を雇っていただけませんか。」


「ん? そういうことか。わかった。アトムはもう民のことを考えているのだな。頼もしいぞ。お前は良い領主になるだろう。」


後のことは父さんに任せよう。


そして、数日後にメイド3名、庭師1名、馬番兼御者1名、配達係1名、門番2名が我が家の従業員となった。

皆、ギリギリの生活をしていた15~18歳の元孤児だった。

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