第12話 初めての魔物狩り
「父さん、出来ました。これが僕が作った上級ポーションです。もちろん、爽やかな味に変えてあります。僕が作ったら欠損すら再生できるようになっちゃいました。それに状態異常、呪い、病ですら回復してしまうようです。さらにHP/MPは全回復になりました。」
「もう驚きすぎて何も言えないぞ。まるで伝説のエリクサーみたいだな。しかも、黄金に輝いているし。これは販売したらダメなやつかもしれん。国王に相談することにしよう。」
あれ? 名称が上級ポーションからエリクサーに変わっている?!
見なかったことにしよう。
数か月後、国王から返事があった。
販売は禁止で、国が管理するそうだ。
国が買い取ってくれるのであればこちらには問題無い。
余計な貴族からの圧力も国が盾になってくれるだろう。
それから5年の月日が流れ、俺は12歳となった。
なんだかんだ理由をつけ、いまだに王都には行っていない。
特訓のおかげで魔法の熟練度が上がり、初級魔法から中級魔法にランクアップした。
そして、12歳になるとBランク以上の冒険者が同行することが条件で魔物を狩ることができるようになる制度があるのだ。
俺とエミリンは、父さんと母さんが同行してもらえれば魔物の討伐できる。
エミリンもそれなりには鍛錬してきたので大丈夫だろう。
問題はカリンだ。
カリンは全く戦闘訓練を行っていない。
その代わりサラ母さんから家事の全てを叩き込まれた。
おかげでカリンの料理の腕はサラ母さんと変わらないレベルだ。
だが、俺の行くところにカリンは着いてくる。
魔物を狩りに行くと言えば着いてくるだろう。
カリンを守れるかが心配なのだ。
ちなみに王都から来た親衛隊だが、役立たずだったのですぐに帰っていただいた。
「父さん、魔物狩りに連れていってもらえませんか?」
「そうだな。お前ももう12歳になったし、実践経験を積むのも良いだろう。それじゃ、俺はエミリンを見るから、スーザンはアトムを見てやってくれ。」
「アトムちゃんのデビュー戦ね。私が居るから安心しなさい。あなたには指一本触れさせないから。」
それでは戦闘経験を積めないのですよ、母さん。
相変わらず過保護なのです。
「カリンは危ないからお留守番で良いよね?」
「何を言っているのですか。私はアトム様の側を離れませんから。私の身体を盾にしてでも守ってみせます。」
「そうじゃなくって、カリンが危険だから心配なんだよ。」
「私は仮にも戦闘民族の白狼族の娘ですよ? 魔物など怖くありません。」
大人しくしていれば美人さんなんだよな。
でも、俺が関係すると残念な子になってしまうんだよ。
何を言ってもダメなんだろうな。
「5日後に森のゴブリン討伐の予定がある。その時にアトム達を同行させることにしよう。」
「わかりました。それまでに準備しておきます。」
それから俺は討伐デビューに向けて装備を整えることにした。
資金はたっぷりあるので買うこともできるのだが、やはりオリジナルのものを作りたいよね。
剣は、父さんの剣を借りて既にコピーしてあるので、それを元にエミリンとカリンの短剣とカリンの投げナイフを作ろうと思う。
基本性能は同じで長さと重さを変えた。
エミリンに見せると可愛くしてくれと無茶な要求をしてきた。
仕方ないので柄と鞘の下地を白にし、ピンクの花柄にしてやった。
これで納得してもらえたようで良かった。
その後、重さや長さ、重心を微調整し、エミリンの武器は完成した。
カリン用には短剣、投げナイフ、弓を作った。
スキルを持っているので恐らく使いこなせるだろう。
そして、俺は母さんの杖をコピーさせてもらい、微調整をおこなった。
防具はエミリン、カリンには動きを阻害しない軽い革の鎧を。
俺は魔法使いらしくローブにした。
これで見た目は冒険者らしくなった。
カリンにも朝練に参加してもらって少しでも戦えるように武器の扱いに慣れてもらった。
やはり自称戦闘民族だけあって武器の扱いにはすぐに慣れた。
特に投げナイフの精度は素晴らしかった。
投げナイフはもったいないのでミスリルは使わず鉄にし、多めに用意した。
あっという間に5日が過ぎ、当日となった。
流石に昨夜は緊張してなかなか寝付けなかった。
「アトム、準備は良いか?」
「はい、大丈夫です。」
「アトムちゃん、格好良いわよ。流石、私の息子だわ。」
「カリン、準備は良いかい? エミリン、トイレには行ってきたか?」
「ちゃんと行ってきたわよ。もう、レディに何てこと聞くのよ。」
「私も大丈夫です。アトム様、凄く格好良いです。」
「良し、馬車に乗れ。行くぞ。」
森へ向かって出発した。
30分ほど馬車で進むと森が見えてきた。
俺たちにとっては初めての町の外、初めての討伐だ。
「今日の依頼は、増えてしまったゴブリンの間引きだ。ゴブリンを見つけたら連携を取りながら安全に討伐するように。無理は禁物だ。あくまでも今日は狩りに慣れることが重要だ。」
「アトムちゃん。森では火事になるから火魔法は禁止よ。分かった?」
「わかりました。まずは僕が先制攻撃で魔法を撃ち込みます。その後、カリンが投げナイフや弓で攻撃してくれ。接近したらエミリンの出番だ。思い切り斬ってくれ。」
「「了解!」」
森に入るとすぐにカリンが索敵を発動。
「右側に何かが居ます。恐らくゴブリンです。1体のみです。」
「ありがとう。行くぞ。」
ゆっくりとカリンの指示した方向へ向かう。
そこには1mほどの身長で全身緑の肌。
腰巻を巻いた小鬼。
大きな耳、大きな口。
口からは牙がむき出しになっている。
如何にもゴブリンって感じでイメージ通りだった。
*鑑定
名称: ゴブリン
ランク: F
特徴: 繁殖力が強く、放置すると集団を作る。
集団の中に上位種が産まれ、集団を率いるようになる。
雌が足りないときには人や獣を孕ませることで増える。
個々は弱い部類の魔物だが、集団になると厄介である。
武器も扱えるが、基本的に振り回すだけで下手だ。
魔法の射程距離に入った。
どうやらまだこちらには全く気付いていない。
俺は振り返り無言で頷き、行くぞと2人に合図を送る。
「ウィンドカッター! あれ?」
首が転がってゴブリンが倒れた。
「あっけなく倒しちゃったわね。私たちの出番ってあるのかしら?」
「・・・。」
俺だってこんなにあっさり討伐できるとは思ってなかったし。
『前にも言いましたが、あなたのステータスは異常です。ご両親とほぼ同等と思って下さい。ゴブリンなど相手になりません。』
そうだったんだ。
昨日のうちに教えてもらえればこんなに緊張しなかったのに。
「次のゴブリンはエミリンが狩って良いよ。」
「そう? じゃあ、そうさせてもらうわ。」
「正面に2体、来ます!」
カリンが次々と索敵し、位置を指示する。
エミリンは2体のゴブリンが襲ってきても余裕でかわし、首を切り落とした。
だが、そこでエミリンが本能に目覚めてしまった。
獣の血とバトルマスターの職業的な闘争心に火が着いてバトルジャンキーと化してしまった。
カリンの方も弓や投げナイフで次々とゴブリンを狩っていく。
えっと。今度は俺の出番が無くなったのだが。
でも、姿はそのままだが精神的に獣化している2人を止められない。
狩り尽くしたところでカリンが正常に戻った。
「もうこの森には魔物の気配がありません。」
「はぁ。俺たちが1日かかって15体程度だというのに短時間で森にいる魔物全てを殲滅してしまうとは。俺が同伴する意味無かったんじゃないか?」
「この3人は異常よ。しかも、カリンまでこんなに戦えるとは思っていなかったわ。それに索敵が凄いわね。」
もう狩るものがいないので薬草を摘みながら森の出口を目指した。
「カリン、どうだった?」
「申し訳ございません。血が騒いでしまって、途中から記憶が曖昧なのです。」
「エミリンは? 楽しそうに狩っていたけど。」
「うん。狩りは楽しい。血飛沫が堪らない。」
「お前たちは強すぎるから特例で冒険者登録してもらって、同伴無しで狩りにいけるようにしてもらおうと思う。明日、ギルマスと話してみるわ。」
ギルマス(ギルドマスター)は、冒険者ギルドで一番偉い人だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます