第10話 白狼族カリン
俺は目を覚ますと檻の中にいた。体中が痛い。
そうだ、奴隷で憂さ晴らしをしてたところを邪魔されて、ボコボコにされたんだった。
あいつらの顔は覚えてる。
俺をこんな目に遭わせたんだから、ただじゃおかねえぞ。
「おっ、目が覚めたか。」
「何でボコられた俺が檻の中にいるんだ? 俺は何も悪いことしてないだろ。捕まるなら奴らの方じゃねえか。」
「お前はドラゴンの尻尾を踏んでしまったんだよ。」
この世界の例えで、触れてはいけないものに触れてしまったみたいな意味らしい。
「はぁ? 俺が何をしたって言うんだ。」
「お前が殴ろうとした少年は領主様のお子様だ。分かるよな? 貴族様に手を上げたんだ。」
男の額から汗が噴き出した。
「しかも、一緒に居た女性は奥様だ。お前も冒険者の端くれなら知っているだろ? 水の乙女スーザン様を。息子さんが見ていなかったら間違いなく切り刻まれていたぞ。それに領主様は剣豪カイザー様だ。両親ともに息子を溺愛しているからな。このことを知ったら大変だぞ。それにカイザー様が奴隷制度を嫌っていることぐらい調べてこい。この町に奴隷を連れてくるなんて自殺行為だぞ。」
間違いなく俺は殺されるだろう。
自分が犯してしまった罪にガタガタ震えている。
「それとお前の奴隷だが、スーザン様が没収すると申していた。命があっただけ儲けものだと思って諦めるんだな。説明が済んだら開放して良いと言われている。悪いことは言わんからカイザー様が戻る前に町を出た方が良いぞ。」
男は何も言わず頷くだけだった。
開放されると一目散に町を出ていったという。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
奴隷少女に出会った昨日に戻る。
「ヒール、クリーン。他に痛いところは無いかい?」
「はい。大丈夫です。」
念のため、中級ポーションを飲ませた。
ポーションのおかげで胃腸の調子が良くなったらしく、お腹からグゥーと大きな音がした。
「お腹が減っているんだね。あそこの屋台で野菜のスープが売っているからそれを食べよう。母さんとエミリンはこの子の衣服や日常使うものを揃えてあげて欲しい。」
「わかったわ。その子をお願いね。」
おそらくガリガリなので、ほとんど食事をとっていないだろうことが予想できる。
いきなりの肉は内臓が驚いてしまうので野菜スープが良いと判断した。
少女に屋台で買った野菜スープを渡すと何度も本当に食べて良いのかと尋ねてきた。
ついさっきまで奴隷だったので仕方ないのだろう。
久しぶりの温かいまともな食事だったらしく、涙を浮かべながら食べていた。
さっきポーションを飲んで胃腸の働きも良くなっているだろうからもう少し腹持ちの良いものを食べさせてあげよう。
『渚、うどん作れるかな?』
『材料が揃っていますので問題ありません。』
『じゃあ、茹で上がった状態で出してもらえるかな。残ったスープに入れて上げようと思うんだ。』
『わかりました。』
「まだ食べられるかい?」
「大丈夫です。もうお腹いっぱいです。『グゥ~』。あっ!」
「遠慮しなくて良いんだよ。まだスープが残っているようだからこれも食べて。」
うどんを残ったスープの中に流し込んだ。
「もちもちしておいしいです。」
うどんもきれいに平らげて満足したようだ。
丁度、母さんとエミリンが帰ってきた。
馬車も戻ってきたので家に帰ることにした。
「ええ! もしかして、貴方様はお貴族様なのでしょうか?」
我が家を見て後退りする少女。
「一応ね。父さんがこの町の領主をしているだけだから気にしないで。今日からここが君の家だよ。」
「・・・。」
「お帰りなさい。奥様。」
「サラ。今日からこの子の面倒をうちで見ることにしたからよろしくね。それとこの子の荷物を受け取ってちょうだい。」
指輪の収納からたくさんの服や靴などを出し、サラ母さんへ渡した。
この子の収納アクセサリーもあとで作ってあげないとな。
あっ! ごめん。すっかり忘れていたよ。
まだエミリンにも作っていなかった。
父さんも欲しがるかな?
またミスリルを錬成しなきゃならないか。
渚、よろしく。
「着替えさせたらその子をリビングに連れてきてちょうだい。」
「それじゃ、付いてきてね。ところであなたのお名前は?」
「カリンです。」
そう言えば名前を聞いていなかったなと思う3人だった。
ナイス、サラ母さん。
リビングで紅茶を飲みながら寛いでいるとサラ母さんがメイド服を着たカリンを連れてきた。
そして、カリンの頭上に目が釘付けとなった。
綺麗な白髪の上に獣耳が付いていたのだ。犬耳かな?
さっきまでフード状のボロキレのような布を纏っていたので気が付かなかった。
それにとても可愛らしい顔をしている。
見とれているとサラ母さんが呟いた。
「エミリンも大変ね。」
「ん? なぜ?」
首を傾けるエミリン。
「改めまして、白狼族のカリンです。よろしくお願いします。」
「カリンにはアトムさんの専属メイドをしてもらうことにしました。カリンの希望でもあるのですが、よろしいでしょうか?」
「サラが教育してくれるなら私は構わないわ。」
「僕も構わないよ。でも、僕の秘密は守ってもらうけど良いよね?」
「はい。助けて頂いたご恩を精一杯お返ししたいと思っています。よろしくお願いします。」
「恩なんて気にしなくていいさ。エミリンと仲良くしてあげて。この性格だから友達がいないんだよ。」
「それはアトムも一緒でしょ。私はエミリン。カリン、よろしく。」
「よろしくお願いします。」
その日から俺の後を着いてくる少女が2人に増えた。
カリンのステータスを覗いてみたのだが、ステータスが表示されなかった。
幼いころに奴隷となり、神の祝福を受けていないそうだ。
それで翌日、足りないものを買い足すのと教会へ祝福をもらいに行くためにまた町へ向かった。
神に祈りを捧げると俺たちと同じように輝いたのだった。
上級レア職業確定演出だ。
*ステータス
名前: カリン
称号: 白狼族族長の娘、元奴隷、アトム専属メイド
職業: アサシン
性別: 女
年齢: 10歳
レベル: 2
HP: 120
MP: 50
STR: 100
INT: 20
DEF: 150
AGI: 240
DEX: 200
Luck: 60
スキル
暗殺術、剣術、投擲術、弓術、索敵、隠密、加速、回避
ユニークスキル
戦乙女の加護(剣技UP、クリティカル率UP、スピードブースト)
ちょっと年上のお姉さんだったのね。
栄養失調で成長が遅れていたようだ。
おっと、これはスピードアタッカーだ。
エミリンがメインアタッカーで俺が後方支援、カリンが遊撃、斥候を担当すれば良いパーティになるんじゃないか?
あっ! 前世のゲーマーの血が騒いでしまった。
まずは2人が冒険者になるかが問題だな。
カリンは俺がするならって着いてきてくれるだろうけど、エミリンはめんどくさいって言うだろうな。
まあ、チョロミンは餌付けすれば大丈夫か。
良し、15歳の成人(冒険者デビュー)まで魔法の熟練度を上げていこう。
『それは錬金術師としてのステージも上がるので賛成です。』
『そうだ、ポーションは寝ている間に渚に作ってもらっているし、販売の方も安定してるし、管理を誰かに任せようと思うんだよね。』
『お母様が適任ではないでしょうか?』
『相談してみるよ。』
早速、相談してみることにした。
「母さん、ポーションの管理をお願いできないかな?」
「あら、アトムちゃんが私を頼ってくれるなんて嬉しいわ。もちろん、OKよ。でも、難しいことは無理よ。大丈夫かしら?」
「玄関の壁に亜空間倉庫の入口を作っておくね。ギルドの人が取りにきたらそこから必要な分を取り出して渡してもらえれば大丈夫。お金もその倉庫に入れてくれればよいよ。」
「それなら大丈夫よ。任せて頂戴。その代わりにね?」
そっとたくさんクッキーを入れた紙袋を手渡した。
満面の笑みで受け取った母さんは早速サラ母さんを誘ってお茶会を始めるのであった。
ポーションのことを忘れていないか心配だ。
まあ、これで魔法の練習に集中できる。
チョロミンが私にはって顔をしているが無視だ。
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