第6話 チョロミンとお菓子

「ねえねえ、アトム。お姉ちゃんと遊ばない?」


いつもは忙しいからと断るのだが、今日は遊んでやることにした。


「何して遊ぶの?」


エミリンが笑顔になった。


「うふふ。もちろん、オママゴトよ。私が王女、アトムは家来ね。」


ちょっと待て。

オママゴトって、家族団らんの食事風景を演技するものじゃないのか?

異世界だから違うのか?

困惑している俺をおいてけぼりにしてエミリンの演技が始まった。


「アトム、こちらに。何グズグズしているの! 早く来なさい!」


とっても面倒くさい。

遊んでやるなんて言わなきゃよかった。

仕方無いから今日だけは付き合ってやろうじゃないか。


「はい。王女様。何か御用でしょうか?」


「私は世界一美味しいお菓子を所望するわ。すぐ持ってきて。」


丁度良かった。

先日錬成したチョコを食べさせてみよう。


「王女様、こちらをどうぞ。遠い国のお菓子でチョコレートというものです。」


「え? 真っ黒で美味しそうじゃないんだけど。それって本当に食べれるものなの? 泥の塊じゃないわよね?」


本当にお菓子を持ってくるとは思っていなかったエミリンは困惑した。


「食べれますよ。つべこべ言わずに食べてみてください。」


困惑しているエミリンの口にチョコを突っ込んだ。

何をするんだという抗議の目で睨んできたが、噛んだ瞬間甘味に笑顔になった。


「何これ! とっても甘いわ。何でアトムがこんなに甘いお菓子を持っているの?」


「それは秘密。」


「意地悪ね。もっと頂戴。」


「実は僕のスキルで作ったお菓子なんだ。みんなには秘密だよ。だからMPをもの凄くたくさん使うから1日1つが限度なんだ。」


「そうなの? じゃあ、仕方ないわね。明日まで我慢するわ。」


「明日も作るなんて言ってないけど?」


「え?! 作ってくれるわよね? もう私は町のお菓子じゃ満足できない体になっちゃったのよ? どうしてくれるの?」


「知らないし。」


「じゃあ、こうしましょう。私を姉さんじゃなく、エミリンって呼んでいいわよ。」


これだけ譲歩したんだから良いわよねって顔しているが、俺のメリットが無いのだが。


「それじゃ、エミリン。明日から父さんと剣の稽古をしたらご褒美を考えてあげても良いよ。」


「はぁ? 剣の稽古がどれほどつまらないか知らないでしょ? 素振りしかしないのよ? 飽きるでしょ。しかも、父さんが怖いし、ウザいのよ。」


「父さんが寂しそうに毎朝一人で稽古しているの知ってる? 可哀想だから相手してあげて。」


「わかったわよ。だから、わかっているわよね?」


「何のこと?」


「ちょっと! チョコレート?よ! え? 何でもするからお願いよ。」


エミリン、チョロいぞ。

チョロいエミリン→チョロミンだ。


「はいはい。」


まあ、本当はリスト化されたから2回目からは然程MP消費しないし、魔法も覚えたし、俺の総MP量は成長してチョコくらい余裕なのだが。

これで朝の父さんの機嫌が頗る良くなるだろう。

それにエミリンのバトルマスターとしてのスキルやステータスが向上するだろう。


その日からエミリンが俺の後をずっとついてきて俺から離れなくなった。


「何か用があるの?」


「別に無いけど?」


「何で付いてくるの?」


「別にいいじゃない。」


「お菓子は無いよ?」


「チェッ。まあいいわ。」


2人の母さんが初恋かしらと微笑ましくみているが、おっさんの精神を宿した俺にはエミリンは幼女であり娘ぐらいにしか思えない。

そのうち精神が身体に引っ張られて年相応となれば幼馴染のエミリンに恋することもあるかもしれないが今は無理です。


「ねえ、アトム。一緒に寝ても良い?」


枕を抱えたエミリンが夜中に俺の部屋へ訪れた。


「はぁ? サラ母さんと寝れば良いだろ? どうしたんだ?」


「良いじゃない、偶には。」


良くないから言っているのですよ、エミリンさん。

流石に男女が一緒の布団は不味いでしょ。

あれ? 俺って7歳か。特に問題ないのか??

でも、ゆっくり寝たいので丁重にお断りした。

それでも諦めないのでチョコの約束をし、退散してもらった。


「寝る前に錬成してMP使い切るか。ナビさん、よろしくね。」


『またチョコですか?』


「いや。材料はあるし、チョコチップクッキーを作ろうかな。あっ、牛乳が無いか。」


『牛乳は錬成できますので大丈夫です。ついでに牛乳からバターと生クリームを作っておきます。あと、卵も必要ですね。ところで、先日市場で買った小麦粉の品質が最悪なので異物を除き品質を上げておきます。』


「さすがナビさん。気が利くね。それじゃ、よろしく。」


半分ぐらいのMPを消費した。


『チョコチップクッキーとついでにバタークッキーも完成しました。20枚ずつありますが試食してみますか?』


「1枚ずつもらおうかな。本当は寝る前だから良くないんだけど、俺にはクリーンがあるから虫歯の心配も無いし良いか。」


手のひらに5cm程の丸いクッキーが2枚現れた。

香りは正しく前世で食べたクッキーと同じだ。


「うまい!! バターの風味もサクサク感もそのまま同じだ。懐かしくて涙が出そうになったよ。チョコチップも最高だ。これならチョロミンも納得するだろう。」


『火、水、風の魔法のおかげです。氷もあるので冷たいお菓子も作れますよ。』


「なんか段々と錬金術師というより料理人に近づいている気がするよ。でも、食は大切だよね。アイスも食べたいけど、俺は好物だったカレーも食べたいんだ。」


『香辛料の一部がこの世界には存在しないのでもう少し熟練度が必要ですね。』


「じゃあ、もっと錬成を頑張るよ。明日からはポーション作製を再開しよう。」


カレーを食べる夢をみながら眠った。



翌朝、朝稽古を終えたエミリンが帰ってきたので氷魔法で冷やしたポーションを渡してあげた。


「何これ?! 冷たくておいしいわ。」


「いつものポーションを冷やしただけだよ。」


「冷やしただけでこんなにおいしくなるのね。お腹減ったわ、朝ご飯にしましょう。」


ポーションで体力が回復し元気になったエミリンは豪快に朝飯を食べ始めた。


朝食後、俺が部屋で寛いでいるとまたエミリンが現れた。

昨日約束したチョコを催促に来たんだな。

手を出してチョコを待つエミリン。

俺はそっと手のひらに2種類のクッキーを一枚ずつ乗せてあげた。


「あら? チョコじゃないのね。でも、とっても美味しそうな匂いがするわ。食べても良いの?」


「うん。新しく作ってみたクッキーっていうお菓子なんだ。食べてみて。」


「んんんんん!!」


口に入れたクッキーをモグモグしながら悶えるエミリン。


「何なのこれは! サクサクで香ばしくて、美味しいわ。」


「気に入ってくれたみたいだね。」


「もちろんよ。私はチョコよりもクッキーの方が好きかも。町のお菓子屋さんのお菓子にも似てるけど、味と風味は別物ね。」


食べ終わって物足りなさそうにしていたのでもう一枚ずつ渡してあげた。


「後は午後ね。母さんに紅茶を入れてもらおう。紅茶に合うんだよ。」


「えっ! 今日はまだあるの? 嬉しいわ。」

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