第弐章 煌火神社の操り巫女

黒狐の憂鬱 弐

 夜。


 星の光も見えない、闇。

 黒く視界が塗り潰されたかの様だ。


 突如、空へ駆け上がる一条の光。

 闇を裂いた光はすぐに、無数の金の光になり、散った。

 少し遅れて、ドン、と破裂音がこちらへ届く。


 ……そう、これは花火だった。


 俺達は、第二の守護地として、煌火神社に来ていた。

 ここでは夏の終りに「煌火祭」という祭が催される。

 特に、祭の最終日に、花火を一晩中打ち上げ続け、沢山の人々が見物で賑わう様子は、とても華やかで、その評判が更に人を呼んでいるという話だった。


 今夜はその祭の最終日……「終い火」だった。

 見下ろすと人だかりがぼんやりとうごめいている。屋台も出ている様で、声は聞こえなくとも騒がしそうなのは見てとれた。

 前回の守護地である狐火神社とは打って変わり、ここは年中温暖で、もうすぐ秋だというのにも関わらず、うだるような暑さで失いそうになる程だ。気を保つのが大変だった。

 (寒過ぎるのも嫌だが、暑過ぎるのも考えものだな……。)思わず心の中で愚痴ってしまう。

 しかしそんな時でも綺麗な物は綺麗——。

 ——な筈なのだが、残念ながら、『あの時』以来、俺にはその美しさを感じられる程の余裕が無くなっていたのだった。


 俺の心とは裏腹に、花火は盛大な音を立てながら派手に散っていく。

 ドドドッ、パラパラパラ、という具合だ。

 紅、橙、黄、青磁、白……。


 俺の気分は下がり続け、花火は上がり続けたのだった。

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