白狐の楽しみ

 ガガガ、キイッ、バスッ!

 小さな島の小さな神社の本殿に、大きくてハデな音が響く。

 そして、ドスッドスッと足を踏み鳴らす音が続く。イライラを隠そうともしてない、この人物の正体は……。

 「ねぇ、兄ちゃん。どーせ寒いし、何も無いんだから、火がある中にいればいいんじゃないの?」

 「じっとしてらんねーの、俺は!こーゆーヒマな時間が、一番嫌なの!」

 やっぱりね。僕の双子の兄、黒狐だった。

 吐き捨てるような口調で、兄ちゃんは口をとがらせる。闇の中にいれば溶け込めそうな羽織も、自慢の黒髪も、ずっと外にいたせいで真っ白な雪まみれだ。囲炉裏をはさんで、僕の向かい側にドンッと座り、不満げにため息をついた。

 今日もこの島はやっぱり寒い。外では雪が静かに降り続けている。前に雪が降らなかったのは……何週間前だっけ?寒さに弱い僕は、雪かきと結界の見回りの時以外は外に出ていない。

それに比べて、本殿の中は囲炉裏でパチパチ火がはぜ、あったかくて快適。

 この神社のトップの宮司さんも優しくて、毎日僕らに食事を作ってくれる。神様が人間の食事を?って最初はビックリされたけどね。ちなみに、今この火で焼いてるのは……。

 「つーか白狐、毎日餅ばっか食ってるけど、あきねーのかよ。」

 そうお餅!明日は揚げ餅にするよ~。味変、味変。

 「まったく、お前は……。」

 兄ちゃんはヤレヤレとばかりに首を振り、羽織をぬいで大きく伸びをしながら自分の部屋に帰っていった。また扉がバタンッとハデに閉められる。

 「おーい兄ちゃん、お餅いらないのー?おいしいよー!あと、扉って静かに閉めるものだって知ってたー?」

 思わず、兄ちゃんに向かってさけぶ。でも返事は無くて、扉の向こうからため息がかえってくるだけだった。あたりに静けさが戻る。

 しょーがない、僕だけでお餅を楽しむとしますか。

 あっ、お餅が膨らんだ!じゃあまずは、味付けのりで巻いて、しょーゆをかけて……。

 ハフッ。アツアツのお餅をほおばる。口の中に豊かな風味が広がり、ねっとりとしたお餅の食感と、ほのかな甘さがそれを包み込む。う~ん、お餅って、最高の食べ物じゃない?

 僕がにこにこしながら食べている間にも、どんどんお餅が焼けていく。僕がお餅好きだって知った宮司さんが、今日も山盛り届けてくれたんだ。またお礼しなくちゃいけないなぁ。

 確かにここはヘンな問題は起きないけど、島に住む人達はやってきていろんなお願いをしていく。僕らにできる事はいくらでもあるんだ。だからこそ呪いの原因を突き止めたいんだけど……。まぁ、ゆっくり調べていこう。

 ここに来ていちばん嬉しかったのは、一年中寒いおかげで特別なもち米が育っていて、つきたてのお餅が絶品だったこと。ここのお餅は今まで食べた中で最高!だから、ついつい食べすぎちゃうんだよね。あ〜、おいしぃ〜……。


 またたくさん食べちゃったあ。あくびが出ちゃう。ふわあああ。

 ちょっと寝ようかな……。そう思って、この前新しくされたばかりの畳に寝転がった。

 畳の匂いって、とっても落ち着くよね。ここは静かだから、効果も倍増。ちょっととここ、楽しい気がする。


 ……寒いけどね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る