第32話 バレンタインデー特別話

 バレンタイン。それは非リアにとっては一喜一憂する日である。

 下駄箱や机の中にチョコが入っているかを確認したり、放課後に呼び出されて告白をされたり、男子にとっては天国とも地獄とも言える日だ。

 チョコを貰えた男子は最高の日になるし、貰えなかったら一ヵ月はその事を引きずるだろう。

 だがしかし、俺はリア充。それも、彼女が2人もいる。

 ということは無条件でチョコを貰えるのだ。


「はい! バレンタインチョコ!」


「……ほら」


 放課後、綺海と鹿野からのバレンタインチョコが手渡されていた。


「お、ありがと」


「もちろん、本命だからね?」


「私も、本命だから」


 彼女が2人いると、必然的に貰えるチョコも2個になる。

 もし、俺がモテモテだったらもっと貰えているだろうが、あいにく俺は万人受けする人ではない。


「早速食べていいか?」


「うんうん、食べて~」


「口に合えばいいけど」


 俺は貰ったチョコに早速手を伸ばす。

 綺海から貰ったのは、生チョコ。四角いチョコの周りにココアパウダーがかけられており、ペンでデコレーションまでされている。包装まで丁寧だ。

 鹿野からのは、マカロン。ピンク色とミント色。これもまたペンでハートが書かれていた。綺海の包装はシックな色合いだが、鹿野はいかにもバレンタイン一色の包装だ。


「いただきます」


 袋を開けると、まずは綺海のから食べ始める。


「ん、うまい」


 口に入れると、ほろほろと溶け、チョコのほろ苦い風味が口いっぱいに広がってくる。


「あ、ありがと。結構自信作だから」


「こりゃー来年にも期待だな」


「……ども」


 照れ隠しか、そっぽを向く綺海。


「ほらほら、私のも食べて~」


 自分で取り出したマカロンを俺の口へと運んでくる鹿野。


「分かった分かった」


 と、俺は鹿野の手にあるピンク色のマカロンを一口で食べる。


「ラズベリーだな美味しい」


 甘酸っぱいラズベリーの爽快感が鼻を抜けてくる。これもまた美味しい。だが………


「なんか変わった味するな。隠し味になんか入れたのか」


 どこか科学的な味がするような気がする。


「もちろん! 私の愛情と――」


 鹿野はバッグから何やら空き瓶を取り出すと、


「媚薬♡」


 と、太陽の様な笑顔で言うのだった。



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