第28話 結果オーライ

 それを聞いた綺海は、カァっと顔を染め、ジーっと俺を見ていた目を逸らす。

 多分、俺達なら案外上手くいくだろう。

 全員好き同士なんだ。上手くいかないわけがない。それに、綺海を除いては、言い方は悪いが浮気者だ。


 この話の中で一番ビックリしたのが、鹿野が裏で綺海を好きだったということだ。

 まだ、他の男が好きというのであったら納得は出来る。だが、同性となると衝撃が大きい。それも好きになったのが俺の幼馴染だし。


 しかし、幸いなことに俺は百合好きだ。それに、水族館でくっ付いて歩いている2人を見てお似合いだとも思っていた。

 だから、そこまで気にはしない。


「いいの……?」


 チラリと俺を見ながら、綺海は口をすぼめる。


「鹿野もいいって言ってるし、この際言うけど俺は綺海のこと好きだしな」


「んなっ……!」


「お前も、一生友達とか言ってた割には俺のこと好きだったんじゃねーかよ」


「う、うっさい」


 小さく笑う俺の肩を綺海はムスッとした顔でパンチする。

 変な形だが、初恋が叶ってしまった。

 いい事なのか悪い事なのかいまいち分からないが、全員が幸せならそれでいいだろう。


「フゥ~、これでひと段落だね~」


 後ろに倒れ込んだ鹿野は、大きくため息を吐きながら言う。


「なに、緊張してたのか?」


「するに決まってるじゃ~ん。南くんに引かれたり、もしこれで綺海ちゃんと南くんの仲が悪くなったり、私と南くんが別れたりしたら大変だったもん」


「俺と綺海は仲が悪くなることはないから安心しろ。生まれてからこれまで一回もケンカした事ないから」


「そうなの?」


「だよな?」


「う、うん」


 何か争いごとになると、ケンカが起きる前でどちらかが身を引くからな。それと譲り合い。


「って、鹿野ちゃんより私の方が緊張したんだけど……」


 ボソリと綺海は呟くと、


「それは告白したから?」


「17年間片思いだった相手に告白とか緊張しない方がおかしいからね⁉」


「でも実際はずっと両想いだったじゃん」


「そうだけど……そんなの分からかったからノーカン!」


 俺も、ずっと片思いだと思ってたしな。だからこの仲がいい幼馴染という関係を壊したくないから告白をしていなかった。

 どちらも同じ感情を抱きながら17年も過ごしてたんだな。


 今だから言えるが、早く告白しておけばよかった。そしたら、中学の頃からモヤモヤが取れていたのに。

 でもそしたら、鹿野と俺は付き合えていなかったのか……それもそれで嫌だな。


「両想いとか言ってもよ、お前、俺の事一生友達って言い張ってたじゃんか」


 そう、これが告白できなかった一番の原因。

 完全に脈なしと言ってるのと変わりないからな。


「それは! ……南にバレるのが嫌だったから……」


「自分から俺を遠ざけてどうするんだよ」


「……過ぎたことはもう知らない」


 プイっと頬を膨らませながら、綺海は話から逃げた。


「まぁ、付き合えたからいいんじゃない? 結果オーライってことでさ」


 俺達の肩を叩きながら、鹿野は笑顔で言う。


「ま、そうだな」


「……一対一の恋愛じゃないけどね」


 クスッと、俺と綺海は笑う。

 不思議な形で始まった三角関係。

 幼馴染と付き合い、その幼馴染は自分の彼女と付き合っている。

 誰も思い描いてもいない変わった関係が、今日から始まるのであった。

 



「南くんと付き合えちゃったぁぁぁぁぁ‼ え、嘘嘘、ちょ………………ま⁉ しかも好きって言ってくれたし………南好き! 大好き!」

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