第26話 大事な話

「ご、ごめん……なんかブレーキ効かなくて」


 両手で顔を覆いながら、体を揺らす綺海。


「なにかあるとブレーキ掛からなくなるの、やめた方がいいと思うぞ?」


「マジで直すわ……」


「綺海ちゃん昔からそうなの?」


「あぁ、昔から変わらないな」


 何かに没頭すると、それから目を離さなくなる。ゲームであったりアニメであったり、何かを作ったり絵を描いたりするのも同様だ。


 俺が貸したゲームにハマり1日中やり込んで次の日体調崩して学校を休んだり、ペンダント作りにハマった時なんか一人で200個近く作っていたからな。

 集中力が凄すぎる。まぁ、それが勉強に生かされているのが不幸の幸いだ。


「気を取り直して、勉強……する」


 指の間から顔を覗かせる綺海に、


「いや、俺と鹿野は課題終わったけど」


「え」


「お前がエロゲしてる時に全部終わらせたんだよ」


「……そうなのね」


「お前は全部終わってるだろうし、3人でエロゲするか? 作品は俺が選ばせてもらうけど」


 また幼馴染ものを選ばれたら溜まったもんじゃない。主人公を自分と、ヒロインを綺海と照らし合わせて死にたくなるくらい恥ずかしくなるからな。


「それより~、南くん一個話したいことがあるんだけどいいかな?」


 鹿野はキリッとした顔で手を上げる。


「なんかあるのか?」


「うんうん。結構大事な話だから今がちょうどいいかな~って。3人以外に誰もいないし」


 他人に聞かれたくない話なのだろうか。しかも俺と綺海に関係ある話。

 思い当たる節がないな。


「どうする? 一応綺海ちゃんと私から一つづつ話があるんだけど、どっちから聞きたい?」


「どっちと言われてもな~、そっちが言いたい方から言えばいいんじゃないか?」


「そうだな~。なら私から言った方がいいかもしれないね」


「お、おう」


「あ、あと一つお願いがあるんだけど」


「なんだ?」


「絶対に気絶しない。怒らない。冷静を保つ。これ大前提でお願いしたいんだ」

 指を一本一本立てながら要求してくる。

 何か俺が怒るような事なのか? 別に鹿野になにかされたりしてないけどな。

 もしかして……浮気とか……いやいやそれはないだろ。


 鹿野は俺以外に目が無いし、他の男に言い寄られたとしたらすぐに俺に連絡してくるはずだ。


「じゃぁ、言うからね」


 スーっと深呼吸をして、鹿野は言う。


「私と綺海ちゃん、付き合ってるの!」


「はぇ?」


 綺海に抱きつきながら言う鹿野に、俺はアホな声が出る。


「つ、付き合ってるって、え?」


 鹿野と綺海が? 女同士だぞ? んなこと現実であり得るのか?

 いやいやでも、スキンシップが過度だったり、ここに来るまでも手を繋いでたから嘘ではない事は確かであろうけど……ダメだ、頭が回らない。


「この事を踏まえて、綺海ちゃんも言いたいことがあるんでしょ?」


 と、ポカンとする俺を置いて、鹿野は話を進める。


「ま……綺海は何を………?」


 抑揚がない声で、光のない目を向けると、綺海は一度目を逸らし、一呼吸置くと俺の目を見て言う。


「南! 私、南の事が好き! 付き合って欲しいの!」

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