第25話 沼ってるよ

「んっ//ダメっ………//」


「……はぁん//いっ、イクっ//」


 スピーカーから流れる音声。画面に映し出される男女が裸で交わる光景。


「じー……」


 それを、綺海は口と目を見開いて見ていた。


「ちょっと、綺海ちゃんそろそろ止めた方がよくない?」


「……だな」


 目を合わせる俺と鹿野。

 かれこれ2時間はこの状態だ。

 コントローラーを無心で触り、シーンを変更しては、終わるまでプレイ。そして、1作品が終わると、棚から新しいエロゲーを取ってはプレイする。


 それも、一言も発さずに、ロボットの様に。

 しかも、プレイする作品は全て幼馴染もの。


 最初に選んだ鹿野にも問題があるが、その作品が終わってからも自分からわざわざ幼馴染ものを選んではプレイしている。

 俺、どうゆう顔して見てればいいんだ……。


 幼馴染もののエロゲーだぞ? それを幼馴染がプレイしているんだ。

 エロゲーに洗脳されている綺海にはもう恥ずかしいという感情はなさそうだが、シラフの俺には地獄極まりない。


「ねぇ、綺海ちゃん? そろそろやめにしない?」


「……」


「勉強しなきゃいけないし、色々お話もしたいな~?」


「……」


「ダメだ南くん……完全に沼ってるよこれ」


「みたいだな」


 ここまでエロゲーに没頭するものか? 俺も2徹するくらいはぶっ続けでやったことはあるが、一人の時だ。

 幼馴染の彼女の家で、幼馴染がいる前で2時間も幼馴染もののエロゲーをするか?


「おーい」


「……」


「目を覚ませ!」


「っ……あんたなにすんのよ!」


 少し強めに綺海の頬を叩くと、赤くなった頬を抑えながらキツイ目を向けてくる。


「なにしてんのはお前だよ! 何時間エロゲしてるつもりだ」


「何時間って、私20分もしてないんだけど?」


「お前、時計見てみろよ」


 と、俺はベットの上にあった置き型時計を綺海に見せる。


「な……」


「そうだ、20分じゃなくてお前がエロゲしてたのは2時間だ」


「嘘、絶対ウソだって……私の時間軸バグった?」


「正常だ。お前自身がバグってるだけだ」


 この状況で2時間もできる精神が凄いよ。それも、声を掛けた俺達を無視するくらい集中してたのが尊敬できる。


「綺海ちゃんのめり込むのは良いけどさぁ~? 程々にしようね?」


 優しい目を向けながら、綺海の肩を叩く鹿野。


「は、はい」


「それにさ……」


 鹿野はエロゲーの画面に目を移す。


「作品もさ……もう少し選んだ方がよかったんじゃない?」


「……作品」


 綺海もつられて目線を移す。


「幼馴染ものはさ……あんまりよくないんじゃない……かな?」


「なっ!」


「ほら、ここに南くんもいるわけだしさ、もうちょっと違うのでも――」


「え、あ、ちょ……」


 画面に映し出されるのは幼馴染である主人公とヒロインが、腰を揺らすシーン。

 それを見た綺海は、羞恥に顔を染めながら思考が完全に停止した。


「その顔をしたいのは俺の方なんだが?」


 プレイした本人がそんな顔するなよ。自分から好んでやってたのに正気に戻って恥ずかしくなるな。




「幼馴染の前で幼馴染もののエロゲしちゃってたぁぁぁ⁉ 完全に無意識だったんだけど⁉ 私もしかしてエロゲーに意識奪われたて……た? エロゲコワいモウシナイ」


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