第12話 いるわけないじゃん!
「来週の土曜日とかどう? 私予定空いてるよ~」
手を上げて先行する鹿野。
「俺も空いてるよー」
「私も、いいけど………」
不満そうな顔をする綺海に、
「水族館嫌なのか?」
「そんな事ないよ? べ、別に2人で行きたいとかなんて思ってないから!」
「え、何?」
「ななななんでもない~!」
アハハと大袈裟に笑いながら、キャップの付いたままのペットボトルを口に当てる。
ダメだ、ついに綺海が壊れた。
意味不明な事言ってるし、本当にダメかもしれない。目も虚ろだし、蓋の開いてないペットボトルを飲もうとしている。
寝不足なのか? いや、他になんらかの原因があるに違いない。
とりあえず、様子見と行こう。
「じゃぁ決定ね!」
「おう」
「ち、ちなみにさ!」
唐突に、綺海は声を張る。
「どうしたの~?」
「水族館行った後って、どこか行くの?」
「特に決めてないよ~。綺海ちゃん行きたい場所あるの?」
「そうゆうわけじゃないけど……」
と、俯く。
「ん~、ならご飯食べてそこからカラオケとか行っちゃう?」
人差し指をピンと立てて、鹿野はウインクする。
「カラオケは遠慮しようかな~」
「え~なになに~? もしかして綺海ちゃん音痴なの~?」
「んなっ……ことないし~」
ニヤニヤと見つめる鹿野に、綺海は分かりやすく体をビクつかせる。
そう。綺海は音痴。それも笑い事ではないレベルの。
以前、2人でカラオケに行ったときは地獄と化した。何を隠そう、俺も音痴なのである。
音痴が交互に歌い、時には2人で歌う。あの光景は地獄でしかない。
「俺もカラオケはいいかな。それよりボーリングとか体動かす方がいいかも」
「南くんもダメなの~。ならしょうがないけど~」
残念そうに肩を竦める鹿野。
行きたい気持ちは山々だけど、鹿野が後々後悔するのが目に見えている。
音痴に挟まれるとか耳が壊れる。
「とりあえず、現地で決めればいいんじゃない?」
綺海は卵焼きを食べながら言う。
「それもそうだな」
「だね~」
行き当たりばったりも面白いだろう。鹿野と綺海と居ればどこへ行ったって楽しいと思う。
「そうえばさ、綺海ちゃんって好きな人とか居ないの?」
「いきなり何⁉」
「……唐突だな」
鹿野は、話題を一気に恋バナに変換する。
たまに行動が謎だよな、鹿野。まぁ、そうゆう所が可愛い所ではあるんだけど。
それに、目を真ん丸にして驚く綺海も可愛い。
彼女持ちがあまり他の女子に可愛いとは言わない方がいいのだろうが、幼馴染だからギリギリセーフ。いや、アウトかもしれない。口に出さなければいいだけだろうけど。
「いやぁ~? 綺海ちゃん可愛いじゃん? だから彼氏とか好きな人いないのかな~って」
パクリとから揚げを食べる鹿野。
「彼氏なんて……いるわけないじゃん」
「うそぉ~! 綺海ちゃんモテるのに~」
「もし居たら南とこんな仲良くできてないよ、多分」
「なら~、これまでに彼氏何人出来た事あるの?」
「………できたことない」
「え⁉」
「だから、居た事ないって」
「それは絶対ウソ!」
「いや、ホントだぞ?」
横から口を挟む俺。
もし、こいつに彼氏ができた事があるなら、真っ先に俺に伝えてくるはずだ。
それに綺海の言う通り、俺と一緒に行動することはなくなるだろう。
確実に、彼氏が激怒する。
自分に彼女が居るのにこんな事言うのはなんだが、もし綺海に彼氏ができて絡む機会がなくなったら寂しい。鹿野は綺海と俺が仲が良い事を理解してくれて一緒に登下校することなどを許してくれるが、例外だろう。
良かった、鹿野がメンヘラじゃなくて。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………彼氏なんてできるわけないじゃん! だって私が好きなのは鹿野ちゃんの彼氏で私の幼馴染の南なんだから‼‼‼」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます