第9話 私って魅力がないのかな
数分後、着替えた俺はリビングに向かう。
「あ、やっと降りて来た」
リビングのドアを開けると、ソファーで寝そべる綺海は仰向けのまま言う。
「待たせてすまんな、てか親は?」
辺りを見渡すと、いつもいるはずの両親は既に姿がない。
「なんか2人とも朝早いから先出るーって」
「そうなのか、珍しい」
「んね。いつも家行くとご飯作ってくれるのに今日は食べれなかった」
「毎回ご飯が出てくるとは思うな」
人の家をホテルとでも思ってるのか? あいにく家にはいつでも料理してくれるコックなどいない。
「俺達も学校行くぞ、このままだと遅れる」
ソファーを軽く蹴ると、学校へ行くよう催促する。
「めんどくさいけど行くしかないかぁ~」
「留年だけはごめんだからな」
「確かに……早く行こう」
と、綺海は立ち上がると、足早に玄関へと向かう。
俺も、その背中を追いかける。
鍵を閉め、いつも通り通学路を歩く俺達。何ら変わらない風景かと思ったが……
「どしたお前」
綺海が何故か深刻な表情を浮かべていた。
「いやぁ~、私には女としての魅力がないのかーっと思って」
遠い目をしながら綺海は単調な声で言う。
「急になんだ」
「普通、異性が朝ベッドにいたらドキッとするし、興奮もするでしょ? でも南はしなかったから私には魅力がないのかなと思って」
「……はあ」
まだ今朝の事を引きずってたのか。もうてっきり終わったことかと思ってたがそうではないらしい。
そこまで気にするか? いや気にするか。女子は男子に意識されたい生き物だと朱音も言っていた。
これはちゃんと可愛いって伝えた方がいいのか? でもそれで綺海に変な気を起こさせないか心配だ。
いくら友達と言われてるとはいえ、軽々しく「かわいい」だのと言って意識させないと良いのだが。
それとも、友達として可愛いと言ってあげるべきなのか。
いまいち女心は理解できない。
「それとも、ずっと一緒にいるからなんとも思わないのかな」
はぁっとため息を吐く綺海。
「いや、それはないな」
と、すぼめる肩を叩く俺。
「ないって、どうゆう事?」
「ずっと一緒にいるけど、可愛いくないなんて思ったこと一度もないぞ?」
「うなっ⁉」
綺海は口をあんぐりと開けて可愛げのある声を上げる。
「いいいきなり南は何を言い出す!」
刹那、赤面しながら俺の胸ぐらを掴み、吃音気味に怒鳴る。
「いや、いかにも褒めて欲しそうにしてたじゃんお前」
「私そんなだった⁉」
「顔に褒めてって書いてあった」
「……嘘、そんな顔に出てたんだ」
「ボソボソ可愛いって言ってほしいみたいな事も言ってたしな」
「それは言ったかもだけど、急に言わなくても………」
両手で頬を抑えながら、乙女顔をする綺海。
自分から言えっていう仕草とか、言い方していざ言ってあげたら逆ギレってマジで女子分からない。
こっちだって、結構ハズいんだからな? 異性に可愛いなんて気軽に言えるほど俺はプレイボーイじゃない。
「まぁなんだ。幼馴染だからどうとか関係なしに、お前は可愛いから安心しろ」
少し前を歩いて、綺海に顔が見えないように言う。
赤くなった顔なんて見られたくない。変に意識されてると思われる。友達だからこそ、そう言った誤解は生まないようにしなければ。
「……そ、そう」
言われた綺海は、服をぎゅっと握りながら俯く。
その反応、俺まで恥ずかしくなるからやめて欲しい。
もっといつもみたいに「やっぱ可愛いかぁ~!」と笑って欲しいものだ。
「南に可愛いって言われたぁぁぁぁぁあぁ‼ えへへ~………可愛いって言われちゃったよぉぉぉぉぉぉ~……グへへ――――――可愛いって言われた事は異性としてちゃんと見られてるって事だよねそうゆう事だよね‼ 南を落とす可能性が大幅に上がったって事だよね⁉ よし、もっと意識させるように色々しなきゃ‼」
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