第113話

警察官に取り調べをされて、思わず嘘をついた。


"好きな人に振り向いて欲しかった"自分を正当化しようとしたのだろう。


私のしたことが "人殺し"だと理解したのは、精神科医と面談した時。


言われてみれば当然だった。


だって、彼女の背中を押したのは私。

彼女は血を大量に流していた。


え?私が人殺し?

人殺しは悪いことだよ?

私はいつから頭がおかしくなっていたのだろう?

それとも今おかしくなったのだろうか?


分からない・・・


人を殺したら殺人罪になるよね?

あれ?

彼女を殺した私は?


精神科の先生と何度も面談するようになって、自分が何を仕出かしたのか分かった。


ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・


起きている間中、もういない彼女に謝っていた。

あと50年は生きられるはずの、まだ18歳の彼女の人生を奪ってしまった。


人気者の彼女ならきっと大学でも、社会に出ても、結婚して子供が出来ても、幸せな人生を歩むはずだった。


私は何をしたの?


私のことを覚えていなかっただけで勝手に怒って殺した・・・


・・・彼女と話す機会を無くしたのも、謝ることも出来なくなったのも、全て私が招いたこと。


ごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい



何日も何日も謝り続けていた。


目を覚ました時には亡くなった母の温かい腕に抱かれていた時だった。


知らないうちに私は死んだんだと理解した。


生まれ変わり。

転生。

何でもいい。


もう一度やり直せるのなら次は絶対に間違わない。


二度と過ちは犯さない。


「そう決めたんです」


最後まで黙って聞いてくれていたレイ様が「もしかしてユーシーの前世の名前は立花 雫ちゃん?」


なぜその名前を?

私のしたことを知っているの?

震えが止まらない。


ここで逃げてはダメだ!

自分の犯した罪と向き合え!


「・・・はい」


「そう・・・未成年だったからテレビや新聞では名前は伏せられていたけれど、ネットに名前があげられたのよ」


「と、当然です。私のした事は・・・人殺しですから・・・どんなに後悔しても、反省しても許されることではないんです」



部屋が静寂に包まれた。


いつの間にかエリー様の隣にいたランちゃんが握りこんだ私の手を舐めてくれていた。


「許すわ。私が雫ちゃんを、前世の貴女を許すわ」


え?

今なんて?


「ごめんね。あの時の子が雫ちゃんだと気付いてあげられなくて、だって受験の日は雫ちゃん三つ編みのおさげに眼鏡だったでしょ?入学出来たか探したけれど居なかったのよ」


困った顔をした、このエリー様はまさか?

まさか最上・・絵梨花・・・先輩なの?

私が勝手に憧れて、殺してしまった先輩なの?

探してくれたって言ってくれた。

忘れられていなかった。


それなのに・・・私のした事は・・・

勝手に恨んで、殺してしまった。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・



確かにダサい髪をバッサリ切って、眼鏡をコンタクトに変えた・・・気付かれなくて当たり前だ。

やっぱり私はバカだ。




「ご・・・ごめんなさい、ごめんなさい」


「もういいのよ」


エリー様があの時のように震える私の手を包んでくれた。


「ず、ずっと後悔していたんです。転生してからも後悔しなかった日はありませんでした」


泣きながらも謝り続ける私を「大丈夫、大丈夫」とレイ様が背中をさすってくれる。


謝ることを止めない私にエリー様が、前世のご家族のことを教えてくれた。


いつも友達に囲まれていた先輩は、ご両親からは愛されていなかった。


あんな大豪邸とも言える家で一人ぼっちだったと。


「だから転生してからは幸せなの。優しい両親に、甘過ぎる祖父母、心配性な弟に義妹のレイまでいて本当に幸せよ」


でも、私が貴女を殺したことには変わらない・・・


「今も私にはこの世界にも信じられる大切な仲間がいるのよ」


それでも・・・


「それにね。私はルフィを、彼を幸せにする為に転生したと思っているの」


優しくルフラン殿下を思い微笑むエリー様はとても綺麗だった。


「だから雫ちゃん、貴女もジン王太子殿下と幸せになりなさい。過去の過ちを教訓に二度と間違えなければいいのよ」


「私も幸せになってもいいのでしょうか?」


「「もちろんよ!」」


エリー様とレイ様がハモっている。


「私たちは幸せになるために世界を超えて転生したのよ!」


声高々にまるで熱血漫画のセリフを言うなんて・・・

レイ様、可憐な令嬢のイメージが崩れるわ。


そこからは3人の恋バナが始まってしまった。


唯一結婚しているレイ様の話に私もエリー様も赤面する。


「やっぱりアランはお父様の子なのね」


エリー様が小さく呟いたけれど、私の耳には聞こえてしまった。


え?エリー様のお父様もすごいの?


でも、そんなエリー様だって、数日後には・・・




覚悟を決めたお茶会だったのに、前世の事まで許してもらえた。


母のことも・・・


お母様、ありがとうございます。

貴女の教えのおかげです。


また会えたら褒めてくれますか?

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