第114話

ユーシー・シユウ伯爵令嬢の日記の内容は、エリーが翻訳したものを父上にも見せた。


父上も、姉を毒で亡くした宰相も、娘のウェン伯爵令嬢にまで責任を負わせようとはしなかった。

俺たちもそれに反対はしなかった。


20年も前の事件だし、黒幕のセルティ夫人は既に同じ毒で自殺をして、もうこの世にはいないのだからな。


だが、前世でエリーを殺した事までを許した訳ではない。

もうここは前世の世界ではない事は分かっている。

あのウェン伯爵令嬢がこの世界で後悔しながらも真っ直ぐに生きてきたことも分かっている。

だが、どうしても俺の中で燻るものがある。




「エリーあれで本当によかったのか?」


前世でウェン伯爵令嬢に命を奪われたというのに・・・

確かに見る限り反省しているようには見えたが、あんなに簡単に許してもよかったのか?


「もういいのよ」


だって今の方が幸せだもの。

そう言って俺を見上げて微笑むエリー。


この"幸せ"の中には今の家族に愛されている自信と環境がおおいに含まれているのだろう。


あの部屋で前世での親には見向きもされていなかったと言っていた。

俺はそんな事知らなかった。

隣で顔を曇らせるアランは知っていたのだろう。


それでもエリーが1人じゃなくてよかったと思う。

友人に囲まれて楽しそうに笑っていたと言っていた。


前世のエリーの親は知っていたのだろうか?


友人に囲まれる程、娘が慕われていたことを・・・

理不尽に殺されても許せるような優しい娘だったことを・・・


知らないまま突然娘を失って何を思った?


亡くなって精々したか?


エリーを偲んで沢山の友人が葬式に参列したと言っていた。

それを見たのだろう?


失ってやっと気づいたか?

もう二度と娘に会えないという事を・・・


後悔してももう遅い。

お前たちは娘の笑顔を見る機会を永遠に失ったんだ。


ざまぁみろ!



エリーはいつも俺を幸せにする為に転生したと言ってくれる。


俺だってエリーを誰よりも幸せにするつもりだ。


やっと、やっとエリーが俺の妻になるんだ。

長かったが、俺たちはこれからだ。



6歳でエリーの微笑みに一目惚れをした。


7歳の時

『見つけたぞ!お前は僕の婚約者になれ!』


『嫌』


そりゃ突然こんな事言われたら嫌がられるよな。



8歳の時

『お前を僕の婚約者に選んでやる!有難く思え!』


『嫌です』


俺は一体何様のつもりだったんだ?


9歳の時

『命令だ!毎日僕に会いに来い!』


『無理です』


今思えば俺ってバカだったんだな・・・もっとマシな言い方があるだろ。


10歳の時

『喜べお前は未来の王妃だ!』


『お断り致します』


この時は俺の中ではプロポーズだったんだけどな。

あっさりと振られた。


11歳の時

『お前なんか嫌いだ!二度と王宮に来るな』


『承知致しました』


これを最後にエリーに会えなくなった・・・


あの時アトラニア王国に行ってよかった。

行かなかったら、確実にエリーはいま俺の隣にいなかった。


カトルズ公爵夫妻に子供ができてよかった。

おかげでエリーの養子の話がなくなった。


エリーが俺を選んでくれてよかった。

あんなバカな事ばかり言っていたのに、俺を好きだと、愛していると、幸せにすると言ってくれる。


エリー知らないだろ?

俺はお前が思っている以上にお前を大切に思っているんだぞ。


それは初夜で証明してやるからな。

覚悟しとけよ。


ウェン伯爵令嬢のことも、俺はまだ許している訳では無い。


だがエリーが許し、危険を察知するランまでがウェン伯爵令嬢に寄り添っていた。


今回だけだ。

次にエリーに何かしたら・・・確実に息の根を止めてやる。

それは相手が誰であろうが許さない。




それにしても・・・

レイは俺たちが隣の部屋で見聞きしている事を忘れていたのか?


アランが怖い顔で笑っていたぞ。

俺たちは知らないからな。


『帰ったらお仕置だね』ってアランが怖い顔で笑っていたぞ。


俺たちは知らないからな。


頑張れよレイ!

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