第111話
~シンイー・ウェン伯爵令嬢視点~
去年、厳しくも優しい母が亡くなった。
最後まで『間違えないで、貴女は絶対に間違えないで』と常に言われていた言葉を残して・・・
母は私をすごく大切にしてくれた。
『情操教育は大事よ』とよく言っていた。
だからか幼い頃は領地の自然な環境で伸び伸びと育ててくれた。
自然の中で動物と触れ合い、近所の子供たちと泥んこになるまで遊びながらも、高位貴族の礼儀作法、マナーを学び10歳の時には完璧に身に付けられていたと思う。
勉強も家庭教師に習うよりも、母が教えてくれた方が分かりやすくて、どんどん頭に入っていった。
母は良いことをすれば褒めてくれたし、悪いことをすれば怒られたけれど、なぜダメなのか私が分かるまで何度も根気強く説明してくれた。
私が15歳になった時、王太子殿下の婚約者にどうかと王家から打診がきた時は自信がなく、お父様にお願いしてお断りさせてもらった。
本当は令嬢たちの憧れの王太子殿下の婚約者に選ばれたことは、すごく嬉しかった。
眉目秀麗、頭脳明晰、性格も穏やかな王太子殿下。
お断りしてから、生意気だと令嬢たちからの嫌がらせが始まった。
仲良くしていた友人も離れて行った。
一人になっちゃったな。
お友達作り頑張ったのにな。
その日も上級生の令嬢たちに囲まれて手を上げられそうになった時に、助けてくれたのはジン殿下だった。
「僕の大切な人を傷つける奴は許さない」
いつも穏やかな殿下が怒りの目を令嬢たちに向けていた。
その日から私を守るように側にいてくれるジン殿下に惹かれるのに時間はかからなかった。
好きな人の側にいたい。
今度は私が彼を守りたい。
彼の支えになりたい。
思いが通じ合った私たちは婚約した。
本当はそんな優しい彼に相応しくない事は私が一番分かっていたのに・・・
婚約してから2ヶ月後、母は風邪をこじらせ肺炎で亡くなってしまった。
母のお葬式の間も母の言葉を頭に浮かべていた。
『自分の行動に責任を持ちなさい』
『貴女は卑怯な人間になってはダメよ』
『貴女は間違えないで』
母の教えは前世の記憶を持って生まれた私の心に響いていた。
まるで私が前世で何をしたのか知っているかのような言葉。
何百回、何千回、何万回後悔したことか・・・
謝っても取り返しのつかないことがあると前世で学んだ。
誰にも言えない秘密。
母が亡くなって遺品の整理をしていた時に日本語で書かれた『日記帳』の文字。
懐かしい文字に申し訳ないと思いながらも『日記帳』のページを開いた。
最後まで読んで分かったことは、母も私と同じ転生者だったという事。
母の作った毒のせいで2人も人が亡くなったこと。
そして母は・・・罪から逃げてしまったこと・・・
『自分の行動に責任を持ちなさい』『貴女は卑怯な人間になってはダメよ』と何度も言っていたのは自分と同じ過ちを私に起こさせない為だったのね・・・
20年間ずっと母は自分を責めていたのね。
罪悪感に押し潰されそうな母を父が支え、愛し合い、娘の私が生まれた。
15年間も側にいたのに母の苦しみに気付いてあげられなかった。
『日記帳』の中にあった乙女ゲーム。
前世の私は聞いたことはあってもゲーム等したことが無い。
ヒロインが狙った男を落とすゲームだと認識していただけ。
母の『日記帳』に書いている事が本当か気になって調べた。
ウインティア王国の第一王子の名前がルフラン、第二王子はゾルティー・・・母のやっていたゲームの攻略対象者と同じ名前。
他の攻略対象者の事も調べている時にジン様にウインティア王国のルフラン殿下の結婚式にコウカ国代表で一緒に参加するように伝えられた。
ルフラン殿下の相手はエリザベート・ウォルシュ侯爵令嬢。
本当なら今頃、彼女は悪役令嬢として断罪されているはずなのに・・・
母の『日記帳』と違う。
私と母が転生者なら他にも転生者がいてもおかしくは無い。
可能性が高いとしたら悪役令嬢のエリザベート。
断罪されると知っていたならば、ゲームと同じ行動は起こさないだろう。
それともヒロインが単に他の攻略対象者を選んだから、エリザベートが断罪されなかったとか?
エリザベートに母の『日記帳』を見せてみよう。
読めなければ転生者じゃない。
読むことが出来れば20年前の真相が明らかになり、私は犯罪者の娘として処罰を受けるだろう。
ジン様ともお別れになる・・・
でも神様お願いします。
私はどんな処罰を受けても構いません。
だからお願いです。
ジン様とコウカ国を守って下さい。
ウォルシュ様に母の『日記帳』を渡した。
読んで感想を聞かせてくれると約束してくれた。
やはり貴女も転生者だったのね・・・
『自分の行動に責任を持ちなさい』
『貴女は卑怯な人間になってはダメよ』
『貴女は間違えないで』
はい、お母様。
私はもう後悔はしたくないのです。
覚悟は出来ました。
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