第65話
学園から帰ってすぐに、お爺様とお祖母様にルフランと婚約したいと告げた。
目に涙をためて抱きしめてくれたお祖母様には本当に心配をかけたと思う。
お爺様は今まで私の恋愛に口を出さなかったけれど「彼ならエリーを大切にしてくれるはずだ。おめでとう」と祝福してくれた。
あとはお父様とお母様が帰国したら報告だ。
就寝前にレイが部屋を訪ねてきた。
「今日は一緒に寝ましょう。エリーと恋バナが出来る日が待ち遠しかったの」
「恥ずかしいけど・・・聞く?」
2人でベッドの上ではしゃぎながらルフランとのやり取りを軽く教えた。
もちろん、ルフランが泣いてしまったことやキスしたことは伏せてね。
レイからもアランと2人きりの時のことを教えてもらった。
それによると、アランは毎日レイを膝の上に乗せて抱きしめているそうだ。
レイが寝ちゃうと、今日のルフランを思い出してしまう。
ルフランもキスは初めてだと言っていた。
前世の小説や、ゲームでは高位貴族の子息は伽教育なるものを受けているとよく書かれていた。
実際そういう事もこの世界でもあるかもしれない。
教育だとしてもルフランが誰かと寝ていたと想像するだけで嫉妬してしまう。
それがまだ誰も知らないと、キス以上のことも生涯私だけだと誓ってくれた。
レイが教えてくれたゲームの真実そのままの一途なルフラン。
彼ほど真っ直ぐに私の事だけをを思ってくれる人はいないだろう。
これからだって、ルフランを狙う令嬢もいるだろうし、もしかしたらゲームの『マイ』のように私に冤罪を仕掛ける令嬢が出てくるかもしれない。
最悪の場合、命を狙われることもあるかも知れない。
悪く考えればキリがない。
それでも私の中に逃げる選択肢はない。
あれほどゲームから逃げる事ばかり考えて、実際逃げる為に近隣諸国の言葉も礼儀作法も身に付けてアトラニア王国まで逃げたのに、結局はゲームの舞台である学園に戻ってきてしまった。
ルフランに会いたくて・・・
ルフランに後悔して欲しくなくて・・・
もうゲームのように、ルフランに断罪されることは絶対にない。
優しい彼が私を悲しませることなんてする訳が無い。
もうゲームの結末なんて怖くない。
それに私には心強いアランとレイもいてくれる。
この時の私は令嬢達からの攻撃のことしか考えていなかった。
まさか、まったく繋がりのない男から狙われるなんて思ってもいなかった・・・
俺は毎朝の日課になったエリーの迎えのために校門で待っていた。
昨日までの朝の出迎えの時は馬車から降りてくるエリーの笑顔を見られるだけで幸せだったのに、今日は何故か心がざわつく。
早くエリーの顔を見て安心したい。
昨晩のゾルティーの言葉が頭から離れない。
いつもなら到着していてもおかしくない時間になってもウォルシュ家の馬車が来ない。
そこへイエガー公爵家の馬車が到着して、レックスが俺に挨拶してきた。
「ルフラン殿下おはようございます。今日もエリー・・いえ、ウォルシュ嬢のお迎えですか?」
エリー?なぜお前がその愛称で呼ぶ?
お前がエリーを狙っていることは分かっているんだぞ!
「ああ」
「それでは私はお先に失礼します」
レックスはそう言って女性なら誰もが見惚れる笑顔で去って行った。
嫌な予感がする。
おかしいエリーだけでなくアランもレイも姿を現さない。
何かあったに違いない。
俺は急いで馬車止めまで走る。
乗ってきた馬車から従者が止めるのも聞かず馬を外し、ウォルシュ家まで走らせた。
いつもエリーが乗っている馬車にすれ違うことなくウォルシュ家に到着した。
玄関ではランの吠える声が聞こえる。
突然現れた俺に執事もメイドたちも驚いているが、ランが必死に俺に何かを訴えるからように俺の上着の裾を引っ張る。
前侯爵夫妻が現れて3人はいつも通り学園に向かったと教えてくれた。
それを聞いた俺の心臓が壊れそうなぐらいドキドキしている。
そこへアランが頭から血を流し意識の無いまま怪我をした従者に運び込まれてきた。
アランしかいないことに血の気が引いていく。
前侯爵がすぐに医者の手配を指示し、従者に詳しい説明を求めた。
従者が言うには、いつも使っている道が通行止めになっていた為、遠回りになるが学園の裏の森を通り学園に向かっていたそうだ。
そこへ顔を黒い布で隠した10人以上の男たちに囲まれ、剣技も優秀なアランと言えどエリーを人質に取られ身動き出来なくなったそうだ。
そこで抵抗ができないアランの頭を剣の鞘で殴り意識を絶ったそうだ。
命を奪わなかったことから、殺すことが目的ではなくエリーを攫うことが目的だったようだ。
それなのにレイを気に入った男たちの何人かがレイまで連れ去ってしまったと・・・
話を聞きながら俺の身体が震える。
もし、エリーの身に何かあったら?
もし、エリーに二度と会えなくなったら?
恐怖に飲み込まれそうになった俺を引き戻したのは意識を取り戻したアランだった。
まだ朦朧としながらも「ル・・フランお願いだ。・・・エリーとレイを・・助け出してく・・・れ。エリーを・・レイを失ったら僕は・・・」
悲痛な顔で訴えてくるアラン。
「当たり前だ!あとは俺に任せろ!必ず連れて帰る」
震えが止まった。
この時間もエリーが怯えて泣いているかもしれない。
最悪なことになる前に動く!
「ラ、ランを連れて行って・・くれ。エリーがレイと・・・なにか・・の訓練をランにして・・いたんだ」
ずっと俺の服の裾を引っ張っていたランが一声吠えた。
それを合図に俺は走りながら俺に付いてきた護衛に指示を出す。
「1人はレックスの最近の動向を調べろ!あとは俺とランに付いてこい!」
まだ攫われて2時間は経っていない。
10人以上の大所帯だ。目立つ行動はできないと考えると、そこまで王都から離れてはいないだろう。
玄関を出るとウォルシュ家の護衛が準備を整えて待機していた。
「お前たちもついてこい!」
俺が馬に跨ったところでランが走り出す。
まるでエリーの居場所が分かっているかのように。
俺がウォルシュ家に到着した時のランの様子を思い出せば、ランにはエリーが危険な目に合っていたことが分かっていたのかもしれない。
だから、あんなに吠えていたのだろう。
必ず助け出す!
エリー待っていてくれ。
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