第64話

学園から王宮に着くと、侍従に父上と母上に時間を設けてもらうように伝言を頼んだ。


すぐに返事があり父上の執務室に通された。


父上の執務室には母上と、ゾルティー、宰相のイエガー公爵がいた。


「お時間をいただきありがとうございます」


「挨拶はいい。話とは何だ?」


「はい、婚約したい令嬢がいます」


「まあ!相手はどこのご令嬢なの?」


「もちろん、ウォルシュ侯爵家のエリザベート嬢です」


「ほう、上手くいったようだな」


「はい、快い返事もいただきました」


「兄上おめでとうございます」


「まあ!よかったわね。ルフラン」


「ありがとうございます」


「俺も噂の令嬢に会ってみたいのだが」


「はい、次の休日に招待しております」


「宰相、時間の調整を頼んだ」


「分かりました」


「来月にはウォルシュ夫妻が帰国しますので、婚約の手続きはそれからになりますが最短で婚姻の手配もお願いします」


「それはウォルシュ嬢に会ってからになるが、優秀だと聞いているよ」


「きっと父上と母上も気に入りますよ。彼女ほど王太子妃に相応しい令嬢はいませんから」


報告が終わり執務室を後にすると、ゾルティーが追いかけて来た。


「兄上やりましたね。やっとエリー嬢と気持ちが通じ合ったんですね」


「ああ」


「晩餐の後、家族だけで話があるのですが兄上も時間を取って下さいね」


「いいぞ。今日の俺はすこぶる機嫌がいいからな」


1人になるとエリーとのキスを思い出してしまう。

予鈴に邪魔されなければ、もっとキスできたのに!

無意識に伸びてしまった俺の手はエリーの胸の柔らかさの感触が残ったままだ。

もっとエリーを感じたい。





結局夜の九時を過ぎてから父上の部屋に家族が揃った。


「ゾルティー話とは何だ?」


「あの場では宰相がいたので話せなかったのですが、宰相の子息レックス殿がエリー嬢に何度か婚約の申し込みをしています。全て断られているのですが・・・どうも諦めていないようなのです」


なんだと!


「レックスも優秀だと聞いているがな」


「ええ、見目もよく優しい性格だそうですね」


「たとえそうであってもエリーは俺のものです」


誰だろうがエリーは渡さない。

やっと思いが通じ合って手に入れたんだ。


「レックスはルフランの側近候補に一度は上がったよな」


「はい、ただ彼は『マイ』と一度とはいえ関係を持っていますからね。」


「それを言ったらガルザークはかなり頻繁に関係を持っていたと噂になっていたわよ」


そうだったな。

今のガルザークはマイとも関係も切って、真面目になったが、一度なくした信用はすぐには回復しないからな。

これからのアイツには期待してもいいとは思っている。

それよりもレックスだ!


「それでエリー嬢が兄上と婚約を発表したらレックスだけでなく、兄上を狙っている令嬢たちからの攻撃もエリー嬢に向いてしまうのではないかと・・・」


俺のエリーが狙われるだと!


「それは大丈夫よ」


「ああ、王族の婚約者には影の護衛がつくからな」


「それに狙われることは想定内なのよ。わたくしの時も何度狙われたことか・・・ね、アナタ?」


「どの時代も欲深い者はいるんだ」


「使う手は似たり寄ったりよ。冤罪を着せようとしたり、誘拐をしようとしたり、媚薬を使って既成事実に持ち込もうとしたりね」


既成事実だと!

殺す!エリーに手を出そうとする奴は許さん!


「婚約を発表してから影をつけたのでは遅い。今日の話を宰相がレックスにしていたら奴はすぐに行動するはずだ」


「ええ、私もそう思います。頭のいい人ですから王族の婚約者に影が着くことも知っているかと思います」


「2人がそこまで言うなら分かった。明日にでも手配しておく」


「お願いします」


学園内では俺がエリーを守れるが、登下校はアランとレイが一緒とはいえ何があるか分からない。






~レックス視点~



マイとセルティ嬢との茶番劇の最中に『何を騒いでいるの』と可憐な声が聞こえた。

突然現れたウォルシュ嬢に目を奪われた。

以前よりも美しさを増した彼女は親しそうにルフラン殿下に触れていた。


あの、誰にも触れさせなかったルフラン殿下がウォルシュ嬢には好きにさせていた。


見ているだけで彼女とルフラン殿下が友人以上である事が伺えた。


手を繋いで2人で去って行く後ろ姿に私の中でドス黒い感情が渦巻いていた。


ルフラン殿下はウォルシュ嬢のことを嫌いだと言っていたでは無いか!

なのにあの親しさは何なんだ?


テラスから見える2人、あの美しい手でルフラン殿下に食事を食べさせている。

そして、ルフラン殿下に向けるウォルシュ嬢の微笑み。

本当ならあの場所は私のものなのに・・・


私だけに向けられるべき微笑みをルフラン殿下に向けられている。


それだけではない。

ルフラン殿下がウォルシュ嬢を抱きしめたんだ。

許せない。

私のウォルシュ嬢に触れるなど・・・





それからもウォルシュ嬢に話し掛けようと近づこうとしても、ガルザークに阻止される日々が続いた。

お前もウォルシュ嬢を狙っていたではないか!


ガルザークはマイとの関係も切って、令嬢達からの誘いも断るようになった。

そしてこの2年近くをルフラン殿下の側で令嬢たちから守っているように見えた。


せめてウォルシュ嬢が1人になれば、話しかけることも出来るのに、常にアラン殿とビジョップ嬢、ルフラン殿下の4人で一緒にいる。そして一歩下がってガルザークが目を光らせている。

近づく隙すらない。


そこにゾルティー殿下やその側近候補までが加わるようになった。


このままでは王家にウォルシュ嬢が取られるのも時間の問題だ。


そこで私はある計画を立てた。

手回しに時間をかけてしまったが、ウォルシュ嬢を手に入れる為に慎重に動いた。


そして今日、午後の授業に戻ってきたルフラン殿下とウォルシュ嬢を見て時間がないことを悟った。


明日の朝決行する。


きっとウォルシュ嬢・・・いやエリーは気に入ってくれる。

明日には君は私のモノになるんだよ。


待っていてね。

私のエリー。

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