第63話
ルフランにやっと気持ちを伝えられた。
私はウインティア王国に帰ってきた時に"もう気持ちは隠さない"と決めていたから現しているつもりだった。
周りのみんなは気付いていたのに、肝心のルフランには伝わっていなかったみたい。
あのルフランが大きな体を震わせて、綺麗な金色の瞳から零れる涙は本当に美しかった。
泣き止まないルフランを抱きしめて彼の赤い髪を手で梳く。
アトラニア王国で気持ちを伝えられた時よりも短くなった髪。
私の気持ちを伝えただけで、普段は多少の事では表情の変わらないルフランが私の腕の中で震えて泣くのが、愛しくて愛しくて彼の許可なくキスしてしまった。
ルフランの驚いた顔につい恥ずかしくなって『私の初めてのキスなんだからね。感謝してね』なんて言ってしまった。
『俺も初めてだ。もっと』と今度はルフランから何度もキスされた。
唇を重ねるだけのキスから、深くなる口付け。
初めてなのにハードになっていくキスが恥ずかしいのに気持ちも良くて、下腹がじわじわと疼いた。
身体がルフランを欲しがっている。
そう思った時、ルフランの手が私の胸を軽く揉んだ。
本当はそのまま流されたい気持ちもあった。
だけどルフランの頬を抓って止めた。
結婚するまでは綺麗な身体でいたいんだからねって言うと真剣な顔でプロポーズされた。
もちろん返事はOK!
この可愛いルフランを私だけが独り占め出来る。
私の中に仄暗い独占欲があるなんて知らなかった。
ルフランを誰にも渡さない。
そのために帰ってきたのだから・・・
彼が次期国王になるのなら、私が覚悟を決めて次期王妃になるしかない。
王妃の椅子に興味など無い。
それでも愛しいルフランと生涯を共に生きる為ならその椅子に座るしかない。
他の誰かに私の好きなルフランの暖かい手が触れるなど許せないもの。
午後の授業開始の予鈴が鳴ると、両親に報告してくると言って早退しようとするルフランに軽く拳骨を落とした。
頭を擦りながら私を上目遣いで見てくるルフランが可愛い。
急がなくても私の両親が帰国するのは来月だ。
婚約するには当主の了承がいるもの。
もう少し待っててね。
ルフランと手を繋いで教室に戻るとアランとレイと目が合った。
ちょっと恥ずかしかったけれど、小さく頷くと二人とも笑顔で迎えてくれた。
「帰ったら詳しく聞かせてね」
レイにそう言われて、先程までのルフランとのキスを思い出して自分でも分かるくらい顔が真っ赤になった。
その私の顔を覗き込んだルフランが、みんなの見ている前で抱きしめて私の耳元で「そんな可愛い顔を誰にも見せたくない」と小さな声で言ったあと耳を甘噛みしてきた。
それは誰にも気づかれていないだろうけれど、ルフランの色気のある声色に腰が砕けそうになる。
教室はルフランが私を抱きしめたことで騒がしくなったが、鮮明に思い出してしまった私は恥ずかしくてルフランの胸にしがみついて顔を隠してしまった。
「もうエリーが可愛すぎる。早く公表したい」
私だってルフランの婚約者は私だと、ルフランを狙っている令嬢たちに早く諦めてもらいたい。
最近は減ってきたが私を睨む令嬢がまだ多いことぐらいは気付いている。
ルフランに本気で思いを寄せている令嬢も何人もいる。
本気かどうかなんて目を見れば分かるもの。
彼女たちの目が見ているのは王妃の椅子。
ルフラン本人のことが好きだというよりも、王妃の椅子を狙っている令嬢の方が多い。
たとえ私とルフランの婚約が発表されても彼女達の何人かは諦めない、そんな気がする。
その中には私に危害を加えようとする令嬢だっているかもしれない。
それでも、どんなに懇願されても、脅されてもルフランだけは譲らない。
もうルフランを諦めることはやめたのだから、誰にもルフランの隣りを譲らない。
ルフランの優しい眼差しも、暖かい手も、甘える仕草も私だけのものよ。
アランからセルティ嬢の話を聞いた時、前世の私の真似ばかりする年下の少女を思い出した。
"私が消えれば彼女の好きな人が手に入る"と思い込んでいたそうだ。
そして実行して私を殺した・・・
そんな自分勝手な思い込みで人を殺してしまった彼女は、その後どんな思いで残りの人生を生きていくのだろうか?
私を殺したことを後悔しているのだろうか?
結局彼女の思いは伝わったのだろうか?
前世の私は友人には恵まれたが、両親からの愛情は一度も与えてもらえなかった。
前世の両親は私が死んで少しは悲しんだり、後悔はしてくれたのだろうか?
それがこの世界に転生して、私の周りには無条件に愛情を与えてくれる両親も祖父母もアランもいる。
親友のレイだっている。
侯爵家の使用人も大切にしてくれる。
愛し愛してくれるルフランだっている。
この幸せを誰にも奪わせない。
奪おうとする者には誰だろうと容赦しない。
今なら分かる。
私はルフランに出会うためにこの世界に転生したのだと・・・
ルフランと幸せになりたい、幸せにしてあげたい。
もう二度と理不尽な理由で命を奪わせたりしない。
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