第57話

~ゾルティー殿下視点~


兄上が惹かれた理由がエリザベート嬢の微笑みを見た瞬間理解した。


あれは惹かれても仕方ないね。


兄上は6歳でその魅力に捕まってしまったんだね。


でも驚いたよ。

私もアランから何も聞かされていなかったからね。

まさかあの場所に現れるなんてね。


彼女は偉大だよ。

あの誰も寄せつけなかった兄上がエリザベート嬢を見た瞬間から、独占欲を丸出しにした表情を出させるなんてね。


あれを見たら誰も彼女に手を出そうなんて思わないはずだ。


彼女も彼女でみんなの視線を集めていることも気にせずかな?それとも気づかずかな?兄上と手を繋いで去って行くんだもんな。

たいしたものだよ。


カフェから2人の様子を見て私は安心したんだよ。

兄上が甘える姿なんて一度も見たことがなかったからね。


まあ、途中で兄上が何か言ってエリザベート嬢を怒らせたんだろうね。

王子である兄上の頬を摘むエリザベート嬢にも驚いたが、兄上もされるがままなんだもんね。


それに、生徒たちが見てるというのに兄上がエリザベート嬢を抱きしめるのにも驚いたよ。


令嬢が腕に触れても振りほどいて睨む兄上がだよ。


2人の様子を見た賢い人間なら男女関係なく、2人に手出しはしないだろうが、バカはどこにでもいるからね。


それにしても本当に綺麗な女性だったな。


あの微笑みを横から見た私でさえ目を奪われてしまうんだ。

それを正面から向けられた兄上が独り占めしようとするのも分かるよ。


この授業が終わると兄上よりも先に馬車止めまで行かないときっと置いていかれるね。


私もアランに聞きたいことがあるんだよね。

それに、エリザベート嬢が帰ってきた理由も気になる。


彼女はゲームの結末を知っている。

それなのに帰ってきたんだ。


その理由が聞きたいね。






案の定、兄上は私を置いて行くつもりだったようだ。

私を見るなり顔が歪んだ。

こんな顔をされても私は嬉しくなる。

兄上の表情が動くのだからね。



帰ってきた理由を聞けば納得できた。

なるほどね、そういう事だったのか。


レイチェル嬢が言っていた、『エリザベート嬢に養子の話はなかった』の意味が分かったよ。


そうだよね。

そんな話しがあったら断罪後、修道院に行く話しもなかっただろうしね。


それにしてもエリザベート嬢は見た目と行動が違うね。


あんなに清楚で気品に溢れているのに、出迎えてくれたエリザベート嬢はそのまま馬に跨がれるようなズボンの格好だった。

令嬢がこんなにラフな格好をしているのは見たことがなかった。


高位の令嬢なのに気取った所もない。

それはレイチェル嬢も同じだね。

彼女は王子妃教育も終わらせていると聞いている。

2人の前世の世界もこの貴族社会よりも気楽な世界だったのかもしれないな。

今度聞いてみよう。



それにしても、ランが可愛すぎる!

こんなに大きな犬は見たことないが、なんて人なっつこいんだ!

兄上には懐かないようだけどね。

あれは本能で敵と見なされているのかもしれないね。


毛もフサフサでエリザベート嬢が丁寧にブラッシングしていると言っていた。

私は動物はなんでも好きだがランは特別だ。

これは直感だがすごく相性がいいと思う。

連れて帰ったらダメだろうか?


断られた・・・当然だよね。

でも、会いに来ることは許可された。

休日には絶対に会いに来よう。

ランに会う為なら執務を平日に前倒しして終わらせる!


よく考えたら兄上とエリザベート嬢が婚姻すれば王宮にランも連れてくるよね。

そうしたら毎日ランに会えるよね。


決めたよ。私は兄上とエリザベート嬢を応援するよ。


エリザベート嬢って、ああ見えて才女なんだよね。


今何ヶ国語話せるんだろ?

各国の歴史や礼儀作法も幼い頃から学んでいた事は調べた時から知っていたけど、兄上に最も相応しい令嬢は贔屓目抜きで彼女なんじゃないかな?


2人が思い合っているのは傍からみたら一目瞭然なんだよね。

兄上は鈍感だから、エリザベート嬢の気持ちに気づいていないだろうし、エリザベート嬢も平然としているように見せているけど周りには気づかれているよ。


今の兄上は舞い上がっているから気付かないのも仕方ないか。



帰りにエリザベート嬢が私にも『エリーって呼んでね』って可愛く言ってくれたのだが、兄上の目が私を鋭く睨んでいたのでこれからは『エリー嬢』と呼ばせてもらうことにした。


実の弟に呼び方ひとつで何ヤキモチ焼いているんだか・・・


王宮に帰ったら今日の兄上の事を、父上と母上に面白おかしく報告するからね!

エリー嬢に甘えたことも、みんなの前で抱きしめたことも、ヤキモチ焼いたこともね!


私は敵わない喧嘩はしないけど、口で負けることはないからね。






母上「まあ、わたくしも見たかったわ。あの子の独占欲丸出しの顔」


父上「俺はルフランの頬を平気で摘むエリザベート嬢に会ってみたいね」


「すっごく綺麗な女性だよ。それにとても気さくなんだ。頭も良いし何ヶ国語も話せて他国の歴史も礼儀作法も完璧なんだよ。さすがウォルシュ家の令嬢だよ。アランもそうだけどね」


母上「あのウォルシュ侯爵夫人とソックリと言われている令嬢なら当然ね」


父上「今度友人として王宮に連れてきてくれないか、俺も会ってみたいからね」


「残念ですが・・・兄上が昔エリー嬢に王宮への出入り禁止を命じていました・・・」


母上「そんな事があったわね。あの子拗らせていたものね」


父上「自分で言ってそれで無表情になっていたのか?あいつはバカなのか?」




一応2人のことは口を出さずに見守ることを両親に約束してもらった。




僕の告げ口で両親の兄上への評価が落ちてしまったことは秘密だ。

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